記事のポイント

スレッズは、フェディバース(独立したソーシャルメディアネットワークの集合体)への参加を約束し、マーケターに新しいオーディエンスとのつながりを提供する可能性がある。

フェディバースは広告に依存しないモデルで、ブランドはコミュニティ内でオーガニックな存在になる必要がある。

マーケターと広告主は、フェディバースのメリットを完全には理解していないが、その将来性と新しいインタラクションのモデルを試す価値はある。


Threads(スレッズ)は、新たなオーディエンス拡大を模索するブランドと未開拓のコミュニティであるフェディバースをつなぐミッシングリンクになる可能性を秘めている。だがThreadsが約束したフェディバースへの参加を実行し、マーケターたちがフェディバースについての理解を深めるまでは、今後の動きは見えてこない。

「Federated universe」の名でも知られるフェディバースとは、基本的には独立したソーシャルメディアネットワークの集合体であり、それらは相互に通信可能な状態を保っている。現在のところ、Mastodon、PeerTube、Lemmyなどのアプリが参加している(DIGIDAYの解説記事およびDIGIDAY Podcastのフェディバースに関するエピソードはこちら)。

メタのインフラに支えられたThreadsは、2023年夏のローンチ当初は前例のない成長を見せ、最初の1週間で1億人を超える登録者数を記録した。同じころにThreadsはフェディバースへの参加を約束し、Threads上で活動する多くのブランドがソーシャルメディアの次のフロンティアとなり得る世界につながる可能性がでてきた。

「Threadsがフェディバースに接続することになれば、非常に大規模なオーディエンスに簡単にアクセスできるようになる。プラットフォーム上にすでに利用者がいるのだから」と、広告エージェンシーのレイン・ザ・グロース・エージェンシー(Rain the Growth Agency)でペイド・ソーシャル担当スーパーバイザーを務めるシャテシャ・スケールズ=フラニガン氏は述べている。「フェディバースへと転換するときがくれば、コミュニケーションもエントリーポイントもエクスポージャーも、すべてThreadsから始まるようになるだろう」という。

プラットフォームに依存しない次世代インターネット



メタはフェディバースとその1200万人のユーザーからなるネットワークにThreadsを参加させると宣言したが、どうやらプラットフォームに依存しない次世代インターネットというものに対して早めの賭けに出たようだ。メタのブログ投稿によれば、未来のソーシャルメディアは分散型であり、Threadsがフェディバースに接続するとなれば、メタはその世界における先駆けとなる。

メタはThreadsの最初のリリース時以降、そのフェディバース参加に向けた動きについては公式情報を何も発表しておらず、本記事に対するコメントも拒否している。エージェンシー幹部たちは、ウォールド・ガーデンを持つという以前から抱えていた問題を解決するためではないかと推測している。また、Threadsのフェディバースへの参加に加えて、メタは、無料で公開される予定の同社の最新の大規模言語モデルであるLlama2についてマイクロソフト(Microsoft)との提携を発表した。

「メタは自分たちのシステムの一つひとつがウォールド・ガーデンであることを理解していたが、今その構造を排除してオープンソースにしようとしている」と、広告エージェンシーVMLY&Rのアソシエイト・コネクション・ディレクターであるジョン・ピーターソン氏はいう。

インスタグラムやTikTokとは違い、フェディバースには複数のソーシャルメディアプラットフォームが同時に存在する。つまり、ひとりのユーザーが複数のプラットフォームやコミュニティに同時に存在することができ、単一のソーシャルネットワークの気まぐれに左右されることはない、ということだ。

フェディバースを利用することで、ブランドは新しい、おそらくはよりニッチなコミュニティとつながるだけではなく、それらのデータやコミュニケーションやコンテンツも所有することができる。これはサードパーティを介するのとは対照的だ。そしてフェディバースは、オーガニックで信頼できるコミュニティを優先するデジタル空間(それは相手の文化に合わせた広告をうつために近年ブランドが追求してきたものだ)の活用機会をマーケターに与えてくれる。Threadsはフェディバースへの手軽な入口になる可能性があるが、ここで重要なのはもちろん、「可能性」という言葉だ。

その瞬間を待つ



考慮すべき障壁がいくつかある。Threadsはリリース直後に急拡大し、メタのエグゼクティブ・チェアマン兼CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は数年以内にユーザー数を10億に到達させたいと期待したものの、その後は壁にぶち当たっているようだ。ユーザーもマーケターも、このプラットフォームをどう判断してよいのか、わからないままでいる。データおよび分析環境を提供するセンサータワー(SensorTower)の報告によると、あの画期的なローンチの後、Threadsのデイリーアクティブユーザー数は75%以上減少したという。

フェディバース自体はまだマーケターの興味を引くような状況には至っていないが、それも変わる可能性があるとエージェンシー幹部たちはみている。過去数年間、過大な宣伝を打ち上げながら思ったような成功は収めなかった暗号資産やNFT、さらには業界が期待したほどのペースでは普及しなかったメタバースなどのおかげで、マーケターたちは火傷を負わされてきた。フェディバースは無広告を目指している。つまりブランドマーケターたちに求められているのは、広告費を投じてユーザーにアピールすることではなく、オーガニックなプレゼンスを築き、コミュニティ内で好まれる存在になることなのだ。

ピーターソン氏は、「コンテンツ開発に活かすためには、コミュニティに耳を傾け、コミュニティの一員となるためのよりいっそうの努力が求められている」とし、「単なるパブリッシャーではなく、ユーザーと一体になってその声に応えるという持続的な存在になる必要がある」と話している。

なぜそれが重要なのか?



ではフェディバースはどうか? クライアントは今のところまださほど興味を寄せているわけではないが、ソーシャルメディアをめぐる状況が変化し続け、次世代ソーシャルメディアの姿が明らかになっていくにつれて、検討せざるを得ないだろう。

OKトゥモロー(OK Tomorrow)のテクノロジストであり創設者/CEOでもあるニレシュ・アシュラ氏はeメールの中で、「ブランドにとって最大の魅力はオーディエンス形成の新たなモデルを実験的に試せることだ」と述べている。「お金でカスタマーの注目を得ようとすると、どんどん金額はつり上がり、結果の見えた不正なゲームにもなっていく」という。

マーケターや広告主は何年も前からそんなゲームをやっていたが、AppleのATTによる広告トラッキング制限がきっかけでようやく考え直されるようになった。またGoogleにおけるCookieの廃止や米司法省との反トラスト法違反をめぐる戦いもある。他になにもなければフェディバースは、ブランドとカスタマーとのインタラクションを実験的に試し、オーセンティックな方法でコミュニティを築く機会をマーケターに提供してくれる、とアシュラ氏は付け加えた。「なぜならこのモデルは現在のメインストリームである『閲覧者のアテンションを金で買う』経済の仕組みに取って代わる可能性が高いからだ」という。

それでも、現在のソーシャルメディアプラットフォームからユーザーが大量に流出するようなことはなく、今後のソーシャルメディア界の状況がどのようになるのか、見通しは不明瞭である。あのイーロン・マスク氏による数々の変化を経験したXでさえ、 崩壊はしていない(Xのこの1年についてはこちら)。それがフェディバースの普及を難しくしているとエージェンシー幹部たちはいうが、それでも試してみる価値がある。

「現時点で広告主たちが、フェディバースのメリットや、それを検討すべきである理由を理解しているのかどうか、私にはまだわからない」と、スケールズ=フラニガン氏はいう。「フェディバースの話題や、それが広告主にとってどのような意味があるのかについてもっと取り上げられるようになれば、より多くの広告主からの問い合わせが寄せられるようになるだろうと考えている」。

[原文:Will Threads be the link between marketers and the fediverse?]

Kimeko McCoy(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)