売られているサンマ

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煌々と集魚灯をともす外国(左)と日本(右)のサンマ漁船(写真:筆者提供)

10月中旬、サンマ漁が盛期を迎えています。漁期前の7月に水産研究・教育機構が発表した2023年度の「サンマ長期漁海況予報」では、「漁期を通じた来遊量は、低水準(昨年と同水準)」としていました。

ところが10月上旬には、宮城県気仙沼での水揚げが昨年の2倍のペースで「豊漁の兆しか?」などと報道されました。「2倍」というとサンマの水揚げ量が大幅に回復しているように聞こえるかもしれません。しかし実際はそれとはほど遠い状態です。

不漁のままなのに「豊漁」と錯覚


サンマ(写真:筆者提供)

1990年前後には30万〜40万トン獲れていたサンマ。現在は不漁が続き、水揚げ量は過去最低を更新しています。2022年は2年連続で2万トンを割り込んだまま。実際には今年の漁獲数量が、たとえ2倍の4万トンになったとしても、1990年前後には年間30万〜40万トン漁獲されていた数量の10分の1に過ぎません。

つまり、あまりにも資源量が減少し、漁獲量が激減してしまったことに対し、少しでも漁獲量が回復すると、数字の分母が小さいために、不漁のままなのに「豊漁」とするような報道に錯覚させられてしまいます。


他国も含めたサンマの漁獲量推移(出所)水産研究・教育機構

北海道のニシンの例で考えてみましょう。かつて1920年前後には50万トン以上漁獲されていましたが、それが1950年代後半に激減、2011〜2015年頃には5000トン程度になっていました。


北海道のニシン(写真:筆者提供)

しかし2018年になると1万トンを越えて、2022年には2万トンとなっています。このため「ニシン復活」とか、資源評価が「高・増加」などと報道されたり、評価されたりしています。しかし次の漁獲量推移のグラフのとおり、数十年単位で見ると復活という状況には程遠いのです。


ニシンの漁獲量推移(出所)水産研究・教育機構

ニシンは多獲性魚種(一度に大量に漁獲される魚類)です。本来なら、かつての北海道での漁がそうであったように、1万トン単位ではなく、年間10万トン単位で漁獲される魚なのです。実際には100分の1(5000トン)が100分の4(2万トン)になっただけですので、とても中長期的に見て「豊漁」などとは言えないのです。

今年のサンマ漁がたとえ昨年の倍であっても、とても豊漁とは言えないことはご説明しました。かつてのように1尾100円前後で丸々太ったサンマが売り場に並んでいないのは、実感されているとおりです。供給が減ったままなので、価格は下がらないのです。

芽が出てもすぐ刈り取らせてはいけない

サンマが、少しでも増えていたのであれば、本来であればその資源を「豊漁」などといって漁獲してしまうのではなく、再び資源量が増えるように漁獲量を厳しく制限するべきなのです。しかしながら、後述する資源管理のためのTAC(漁獲可能量)が大きすぎて機能していません。少し増えているのであれば、将来のために漁獲制限を強化すべきなのです。

水産資源は環境や規制などの影響で一時的に増えることがあります。これを卓越級群と呼びます。その貴重な資源を増やしていけば資源回復に大きくつながります。たとえ卓越級群が発生しても、日本ではまだ数量管理による資源管理の仕組みができていません。

このため資源回復の千載一遇のチャンスをつぶしてしまうことがよく起きてしまいます。次の資源回復の機会が来るまでには、数十年かかることがありますし、来ないこともあります。

次のグラフは北海道周辺におけるニシンの漁獲量推移を示しています。グラフを見ると1980年半ばに突出して漁獲量が増えた年があります。しかしながらニシンには漁獲枠がなく、沖底(沖合底びき網漁業)が大量に漁獲数量を伸ばし、翌年以降は再び減少してしまったことが読み取れます。貴重な卓越級群をつぶしてしまったのです。


北海道周辺におけるニシンの漁獲量推移(出所)水産研究・教育機構

これは、沖底が獲りすぎたのが問題の本質ではなく、それを止める資源管理の仕組みがないことにあります。

サンマはどこにいるのかご存じですか?


サンマの資源調査データと回遊を妨げているという暖水塊の関係(出所)水産研究・教育機構のデータを編集)

上の図をご覧ください。左のデータは上から2003年・2013年・2023年と10年ごとの資源調査のデータを表しています。円の大きさが資源量を表し、赤が1歳魚、青が0歳魚となっています。サンマの寿命は約2年。東から西へと回遊してくるイメージです。10年単位で見ても、資源が大幅に減少していることがわかります。

日本に近いほうから1区・2区・3区と分かれています。左下の2023年のデータでは1区にはほとんど資源が分布していないことがわかります。これは6〜7月頃の調査データなので、実際には下図のように秋が深まるにつれ日本のEEZ(排他的経済水域)に回遊してくるはずなのですが、ほとんどそうなっていません。


サンマの来遊予想(出所)水産研究・教育機構

日本のサンマ漁は、EEZの外側の公海上での漁獲量が95%(2021年)占めています。わかりやすく言えば、日本のEEZ内での漁獲はほぼなく、上図2区の公海上での漁で、ほぼ終了しているのです。公海上には、中国・台湾といった外国漁船が操業しています。

外国船が洋上で凍結するのに対して、日本の漁船は漁港まで鮮魚で持ち帰ります。しかもその距離は片道1000km以上、3日程度。日本の漁船が往復と水揚げで、1週間程度も費やす一方で、外国漁船は帰港することなく洋上で操業を続けます。これでは、物理的に獲り負けてしまうのも当然です。

資源量が多ければ漁場が広範囲に広がるため、漁獲圧は緩和されます。しかしながら資源が少なければ、漁場は狭くなり、漁船は狭い漁場でひしめき合って獲り合います。これが、サンマ漁の実態で、資源が回復するはずはありません。

ここで先の図にある右のデータを見てください。北海道と三陸沖に暖水塊(周囲より温度の高い海水の塊)があってサンマの回遊を妨げているというものです。しかしながら、そもそも漁場はこの暖水塊からはるか彼方の公海上です。

報道などで日本に回遊する前に外国漁船が漁獲してしまうといわれることもあります。しかしすでに公海上の資源も激減し、遠くに行けばたくさん獲れるということではないのです。

科学的根拠に基づく漁獲可能量の設定はマスト


上のグラフは、サンマのTAC(漁獲可能量)と漁獲量の推移です。漁獲枠が減少していますが、それ以上に漁獲量が減少しています。このTACと漁獲量の相関関係は、資源管理が機能している国々の魚種ではありえません。アメリカのスケトウダラや、ノルウェーサバなど、TACというのは、実際に漁獲できる数量よりもはるかに少なく設定されているのが、資源管理が機能している世界の常識です。

サンマのTACを減らして資源管理強化で国際合意して来ているといった類の報道があります。しかし減らしたTAC自体が依然大きすぎるので、削減効果は残念ながら「ない」のです。科学的根拠に基づいた国別のTACを設定しなければ、資源崩壊は避けられません。

資源管理を機能させるために不可欠なのは、いまだに決まっていない科学的根拠に基づく国別のTACの設定です。漁獲枠を国別に配分することは、将来にわたる国益が絡みます。このため合意は極めて難しいのです。さらに過去ではなく最近の漁獲実績を基にした話し合いになる可能性が高く、シェアが大きく減ったことは負の遺産となってしまいます。

2000年以前は約8割を占めていた日本の漁獲シェアが、2022年になると2割を切ってしまいました。

台湾や中国が漁獲実績を増やしてしまう前に、国別TACの設定交渉を始めるべきでしたが「時すでに遅し」です。これらの国々は、サンマの漁獲のために漁船も配備・建造しており、容易に引き下がるはずがありません。

日本では一般的に、資源量を大きく左右する漁業の影響や、中長期のデータをあまり考慮せずに資源動向を評価する傾向があるようです。そうすると、漁獲量の減少が海水温上昇などの環境要因に責任転嫁されてしまい、現実離れした分析結果となってしまいます。

サンマの資源管理が機能していない

また、国連食糧農業機関(FAO)の「責任ある漁業のための行動規範」にある予防的アプローチはあまり考慮されていないとみられます。このためか、まるで「埋蔵金」があるかのような資源評価や、資源管理が機能している北欧では考えられない大きな漁獲枠が設定されてしまっています。

日本の資源管理の方法や獲り切れないTACの設定などは、北欧の漁業関係者をはじめとする人々に「絶対に陥ってはならないケース」として映っています。

サンマが獲れなくなっている最大の原因は、科学的根拠に基づく国別TACがないために、資源管理が機能していないからです。国は漁業法改正で、2020年12月より、数量管理に基づく資源管理に舵を切りました。

いま必要なのは最低限、サンマが減っている本当の原因を理解することです。そして将来のために、禁漁も含めた大幅な漁獲制限が必要になっている現実に気づくべきではないでしょうか。サンマ資源が枯渇してしまえば、日本漁船や外国漁船もなく「おしまい」です。そして消費者も含め多くの人が困ることになります。

(片野 歩 : 水産会社社員)