イングランドのSF・ファンタジー作家で1990年代イギリスのベストセラー作家であるテリー・プラチェット氏は、90年代初頭にドイツで翻訳版を制作する出版社を変更しています。その理由としてプラチェット氏は「翻訳版の作成時に、編集者が本文にスープの広告を挿入した」ことを挙げています。

Terry Pratchett and the Maggi Soup Adverts | Stuffed Crocodile

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プラチェット氏の作品は36の言語に翻訳されて世界中で楽しまれています。ドイツでは当初、Heyne(ヘイン)という出版社が翻訳版の制作と販売を担当していましたが、プラチェット氏は十数冊を出版した後に、ドイツ語版の出版をヘインからGoldmann(ゴールドマン)という会社に変更する旨を発表しました。

ポーランド在住のドイツ人であるジェフリー氏のブログによると、1994年のSF&ファンタジー年刊である「Jahrbuch der Science Fiction and Fantasy 1994」という雑誌に、プラチェット氏が出版社を乗り換える旨が語られていたそうです。プラチェット氏は出版社変更の理由として、「ゴールドマンに乗り換えた理由はたくさんありましたが、私にとって非常に個人的な理由は、ヘインがスープの広告を本文に挿入する方針でした。他の本にもあったかもしれませんが、『Sourcery』で確認したことを覚えています。私の編集者はそのことにかなりうんざりしていましたが、会社は二度と同じことをしないとは約束してくれませんでした。そのため、ヘインと離れることに抵抗はありませんでした」と語っています。

プラチェット氏によると、本文中に唐突に数本の黒い線が入り、「今ごろ、私たちのヒーローはかなりお腹が空いているはずです。栄養満点のスープがあればそれに越したことはない……」などのように広告文章を挿入していたとのこと。以下の画像は、ジェフリー氏が例として示しているドイツ語版「Sourcery」のページで、不自然に黒塗りされているほか、「トライモン(作中のキャラクター)が古文書を読んで時間を費やしたのは、実際のところかなり幸運だったのかもしれない。しかし、これには、適切な栄養を摂るように読者に注意を促すヒントも隠されています」という文章が追加されていたり、「彼らがいた階段は休憩にはあまり適していませんでした。それでも休憩はできるので、5分間休憩してスープを作りましょう」と挿入されていたり、右下に「5 Minuten terrine(5分間のスープ)」と記されていたりと、本来は存在していない不自然な文章が含まれています。



また、プラチェット氏の作品だけではなく、「スタートレック」シリーズの一部や、シリーズ化されていない小説にも同様の内容が含まれています。ドイツ出身のソフトウェア開発者であるヨハネス・フロイデンダール氏のブログでは、以下の画像のようにフロイデンダール氏が所持しているスタートレックのドイツ語版が例に示されています。ここでも、黒塗りされたページの右下に「Sourcery」のものと同じアイコンが付記されています。



「それは当時のヘイネにとって標準的な習慣だったと記憶しています」とジェフリー氏は指摘しています。1950年代から60年代にかけて、安価なジャンル小説のペーパーバックでは、追加の収益を引き出すために有料の広告を作中に追加することが一般的となっていました。それがペーパーバックの価格が安価ではなくなった1990年代にも引き継がれており、ヘインではその名残として体制を変更することなく続けていたと考えられます。

ジェフリー氏によると、プラチェット氏の離脱が関係しているかは不明ですが、1994年以降に出版された小説ではこのような作中の広告が見られなくなったとのこと。