10月13日に公開される岩井俊二監督の最新作、映画『キリエのうた』(C)2023 Kyrie Film Band

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2023年10月に公開を控え、大きな注目を集めている岩井俊二監督の新作映画『キリエのうた』。同作の主演を務めるのは、演技経験がほとんどないというBiSHの元メンバー、アイナ・ジ・エンドだ。岩井監督はこうした未知の才能を見つけ出し、可能性を引き出す手腕に長けている。なかでも2001年公開の映画『リリイ・シュシュのすべて』は、のちにスターとなる才能の原石が集結した作品だった。

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同作は、「リリイ・シュシュ」という謎の歌姫をめぐる、少年少女たちの繊細かつ残酷な青春群像劇。とくに観る者の記憶に強く残るのは、援助交際を繰り返し、自ら命を断つ女子高生・津田詩織だろう。この詩織役を演じた人物こそ、今や誰もが知る実力派女優・蒼井優だった。

同作は、当時15歳の蒼井が映画デビューを果たした作品でもある。当然、役者としての経験は少なかったものの、その演技は監督にとって強烈なものだったようだ。公開からおよそ10年後に行われたCINRAのインタビューで、「彼女の演技を見ているうちに『むしろストーリーのほうを変えようかな』と思いました」と語っていた。

蒼井がその後、岩井作品の常連になっていることからも、『リリイ・シュシュのすべて』で示した存在感の強さが分かるだろう。

また、市原隼人にとっても同作は映画初出演作品にあたる。今では卓越した演技力の熱血俳優として知られるが、当時は初々しく、どこかあどけない姿を見せていた。

市原が演じた主人公・蓮見雄一は、「リリイ・シュシュ」に心酔する中学2年生。かつての親友から壮絶ないじめを受け、鬱屈した毎日を送っているというハードな設定だ。しかし彼の演技力はすでに光る部分があり、10代の若者が持つ複雑な感情を見事に表現していた。

『リリイ・シュシュのすべて』に関して言えば、脇役として出演した俳優陣も豪華だ。剣道部の部長役で登場したのは、当時20歳の高橋一生。子役としてすでにキャリアを積んでいた高橋ではあるが、劇中では瑞々しい高校生役を演じている。

さらに雄一のクラスメイト役としては、勝地涼が出演。今では宮藤官九郎作品の常連として、個性派俳優の地位を確立している勝地だが、当時は若さゆえの失敗があったという。

友人たちと橋の上に並んで立ち小便するシーンがあるのだが、そこで勝地は急に台詞が言えなくなってしまったのだ。「『リリイ・シュシュのすべて』公開20周年記念スペシャルトーク」によると、そこまで難しい台詞ではなかったはずなのに、なぜか苦戦を強いられていたとのこと。

その日はちょうど撮影最終日でもあったため、“言ったら終わっちゃうと思って言えなくなったのかもしれない”というのが共演者たちの弁だ。屈指の役者に成長した今から振り返ると、感慨深い逸話ではないだろうか。

なお、岩井監督の作品では『リリイ・シュシュのすべて』以外にも、さまざまな作品で未来のスターが発掘されていた。1995年公開の映画『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』では、当時14歳だった奥菜恵をヒロインに抜擢。また、若手俳優だった浅野忠信を映画『FRIED DRAGON FISH』の主演に起用した過去もある。

最新作『キリエのうた』でも映画初主演のアイナ・ジ・エンドを抜擢しているが、はたして岩井監督は彼女に何を感じたのだろうか。才能の原石がどのように磨き上げられるのか、その結果が今から楽しみだ。

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