コンサルティングファームの人材は、高額フィーや高給に見合うほど有能なのでしょうか(写真:tabiphoto/PIXTA)

近年、学生の就職先として人気を博しているコンサルティングファームは給与が高いことでも知られるが、その源泉となっているのが、企業へ請求する高額フィーである。が、実際、コンサルティングファームの人材は高額フィーや高給に見合うほど有能なのだろうか。

また、そのフィーが適正だとしたら、企業は、それに見合った成果を得るために、コンサルをどのように活用すべきなのか。 FIELD MANAGEMENT STRATEGY代表で、『コンサル・コード』を上梓した中村健太郎氏に聞いた。

前回:コンサル企業「経営戦略→業務請負」になった背景

給料は爆上がりしている

コンサルティングファームは、自社を回していくために、規模を追い始めたわけですが、それにつれて、採用する人員も増やし始めました。実際、アクセンチュアなどは、すでに十数年前から、大学と学生に積極的にアプローチし、強力な採用活動を繰り広げてきていました。就職ランキングトップは、いわばその長年の成果だとも言えます。

人が増えたということは、 給料は前ほど高くは……と思うかもしれませんが、爆上がりしています。プロジェクト数が拡大する中で、プロジェクトの単価も同時に上がっていった。部長起案の案件であってもこれまでと同等、またはそれ以上のプロジェクトが受注できたのです。

成果が明確であったり、予算の中にコンサル費用が組み込まれていたり、と複数の要因がありますが、コンサルに委託したい企業側と案件を拡大したいコンサル側の目論見が一致したのでしょう。ともかく、1件あたりの価格を下げずに、トータルの市場規模を思いっきり増やすことができたのです。

コンサルティングファームは、こうした規模の拡大に伴い、人への投資も強化していきます。そうしないと人が育たないばかりか、人材を採用できなくなってきたからです。

一方で、日本の官や企業では、人材に対する投資がコンサルティングファームと比較して圧倒的に、2桁ぐらい低い。個人の市場価値の上がり方も、コンサルティングファームでは、官や企業と比べると、桁違いに高くなってきています。

能力の「差」が生まれるワケ

その“暴利”とも言いたくなってしまう高額なフィーに支えられている、コンサルタントたちの能力は、その高給に値するほどのものなのだろうか。そもそも一般企業の同じ社会人歴の社員と、その給料の差ほどの能力の違いがあるのだろうか。

あると言わざるを得ません。給料の額そのものは、会社全体の生産性、労働分配率などの影響もありますが、能力の違いも実際に大きい。だから、コンサル出身者が30歳そこそこで大きな会社のマネージメント層に迎えられたりしているわけです。

いったい、どこからその違いが生まれるのか? その理由の1つが、社員への教育投資だと思います。ファーム側も高額のフィーに見合う成果を出す責任があるので、それを担う社員にたくさん投資します。教育して、いいプロジェクトの場に連れて行って、シニアメンバーがちゃんとフィードバックして、古い話だとMBAにも率先して行かせていました。

それに比して、官庁や一般企業を見ていると、相変わらず、「見て学べ」的な育成法が主流のように思えます。昔なら少々育成ペースが遅くても自社で育てたほうがよかったかもしれません。でも、この加速する一方の変化のスピードの中、それでは間に合わない。それが、コンサルへの業務委託へとつながっているという側面もあります。

それにしても優秀な国立大学の学生が、官僚や日本の一般企業ではなく、外資系コンサルファームに行ってしまうのは、何やら残念な気がするが……。

人は、自分の市場価値が、隣の人に比べて20〜50%低いくらいの場合、どうにか我慢できるようです。ところが、今は生涯年収に直すと、官庁や一般企業とコンサルティングファームで圧倒的な格差が生じてしまっています。

そうなると、例えば、せっかく青春を捧げて「東大」というブランドをとったというのに、それをバリューに転換していくフェーズで、一般企業や官庁では経済的にあまりにも未来が見えない、あるいは、自分より成績は悪かったはずの同期の給料が自分を何倍も上回る、といったことになるとコンサルに惹かれてしまう。そういう構造になってしまっています。

日本企業の企画力は低下している?

最近では業務のみならず、部長・課長案件の企画の立案までコンサルティングに頼むところが増えているという。以前はどの企業でも新入社員はとりあえず企画を出す、という指導があったと思うが、こうしたところまで外注してしまったら、企業に人材が育たないことは容易に推測できる。

企画をどんどん提案して、自ら仕事を獲得していく力は非常に重要だと思うのですが、その力が如実になくなってきている企業が増えていることは否定できません。

ただ、昔の企業に企画力が十分にあったのかと言うと、それもまた疑問です。そもそも、「経営力」そのものがあったのかどうか……。ある程度の資産を国から与えられて、それを磨いていくことで発展してきた業種もありますし、製造業については、設計できる人の人件費が非常に安かったことがあります。1ドル=136円という固定為替制度のときに、どんどん作って輸出していくなかで、経験値を貯めていくことができました。

経営の本質を、リソースアロケーションだとすると、経営なんてしなくても済んできたわけです。ところが、今、それでは世界で戦えなくなってきている。なにしろ、この20年で、世界の時価総額トップ20に、日本企業は1社もいなくなったわけですから。

つまり、経営者が解かなければいけない課題が、この20年、30年で、一気に高度化してしまっている。過去に磨いた方法ではどうにもならなくなっているわけです。

さらに言うと、日本の経営者にはこれまで、課題だけ定義して解決策の立案は下に投げるという風潮があったと思います。結局、最後は現場に回ってくる。

現場を信頼しているとも言えますが、かといって、現場の社員が、まったく新しい課題、変革を要する課題に対する問題解決のきちんとした訓練を受けているわけではない。となると、問題解決の訓練を受けているプロであるコンサルタントに頼らざるを得ないのです。

業務請負型は「下請け」とは異なる

ですから、戦略策定型のコンサルティングの場合はもちろん、業務請負型のコンサルティングであっても、それはいわゆる下請けとは異なります。下請けというのは、自分でもできるけれど効率化のために人にやってもらうこと。自分ではできないことをお願いするのが、コンサルティングです。

業務請負型が戦略策定型と比べて簡単なのかと言われると、そうでもありません。人事総務経理のアウトソーシングに近い形のものもありますし、経営企画といえども高度な定型業務が結構あります。また、業務量・業務時間は、戦略策定型に比べると確実に増加しています。

結果としてホームランのような誰も思いつかなかった戦略を構想するより、クライアントの期待値の範囲で質の高いアウトプットを数多く作るヒット量産型が求められるようになり、クライアントの話を聞き、本質的な課題を抽出する能力が強化されなくなってしまいます。

このように実は、コンサルティングファームの側も、人が育ちにくい構造になってきている。それが、業務請負型になった、現在の「コンサル2.0」の落とし穴です。

成果請負から「成果創出型」へ

では、これからのコンサルティング、すなわち「コンサル3.0」は、いかにあるべきなのか。

やるからには、成果が出るまでコンサルティングファームが責任を持つべきでしょう。現在の戦略策定から業務請負がコンサル2.0だとすると、成果の請負までやるのが、コンサル3.0のテーマです。業務ではなく、事業も一緒に作って、成果まで請け負う。ですから、成果請負というより、「成果創出型」ですね。


実際、一緒に子会社を作り、そこに投資するというスキームもあります。ベンチャーキャピタル部門を持っているファームもあります。ただ、これはどこのファームにもできることはではありません。スタートアップが新規上場するまで、早くても3年〜5年。資金の回収までに時間がかかりすぎて、持ちこたえられない、という事情もあります。

今後、日本企業はコンサルティングファームをどう活用していったらいいのか。

「課題を提示し、ゴールを定め、業務設計をして依頼するように」と、教科書的には言われますが、そんなことができる経営陣がいれば、コンサルを使う必要はない。自社で行うのは難しいから、コンサルに頼まないといけないわけです。

そのためには、長い付き合いをする覚悟で、目先のコンテンツではなくて、コンサルタントの人となりや、マインドを見極め、信頼できる人を見つけることではないでしょうか。

コンサルティングファームの側からすると、コンペをして価格次第でスポットで注文してくるクライアントよりも、長く付き合わせてくれるクライアントのほうに肩入れするのは、想像できると思います。コンサルタント側の最高のパフォーマンスを引き出すよう工夫するのが賢い使い方ではないでしょうか。

(干場 弓子 : BOW&PARTNERS社長 )