純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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「ただよび」というのは、タダで学べる予備校、ということで、2020年4月にできたYoutube上のバーチャルな補習・受験塾だ。これが先日、23年7月6日に事業停止、再建ではなく、いきなり破産手続に入った。わずか三年だ。これが計画的だったのかどうか、今後、問われることになるだろうが、このスキームは、塾講師だけでなく、高校教員や大学教授にも大きな教訓を与えてくれる。彼らは、まさにカモネギ。

背景にあるのは、急激な少子化だ。多くの大学が定員を満たせず、出願すればフリーパス。それで、塾も成り立たなくなり、大手はのきなみ縮小。中小は廃業。ここにコロナが襲いかかった。かつては破格の待遇を受けていた人気塾講師たちも行き場を失い、貯め込んだカネも低金利で運用のしようがない。

そこで、投資だ。金融機関も、統廃合に縮小縮小で、リストラ続き。そんなこんなで大手有名銀行から「独立」した「実業家」が、外出自粛なんだから、Youtubeでやればいいじゃん、ということで、バーチャル予備校を開設。少数受験指導はともかく、一般基礎補習なら再生回数が稼げてYoutubeから広告費が入るはずから、学生はタダでもだいじょうぶ。それも、学生は、毎年、学年が上がって入れ替わっていくので、いったんコンテンツを作ってしまえば、あとはほっておいても、そのコンテンツが毎年、毎年、相応に稼ぎ出すはず。塾と違って、ビルなどもいらないから、ランニングコストは安いはず。

とはいえ、じゃあ、どうやって最初のコンテンツを作るのか、という問題。リアルな予備校の場合、実際に学生たちに授業をしながら、それをコンテンツ化していくこともできるが、ここは実体ゼロ。だから、ここからがうさんくさい話で、これまでに大金を稼いでいる人気塾講師たちを創業の「パートナー」にして、現金出資はもちろん、ノーギャラでのコンテンツ制作という現物出資もさせた。実際、彼らは、かなりのカネは持っていて、すでに個人Youtuberとして成功しているとはいえ、将来に不安を抱えており、「経営者」側、「株主」側に回って、老後まで収益を得られることを夢にみた。

再生回数的には悪くはなかったのだが、いくら講師たちがノーギャラでも、会社としての収益はYoutubeが恣意的に決める単価次第。そもそものスキームからして、こんな実体の無いバーチャル予備校がgoing concernになるとは思っておらず、株式上場して外部からもさらに資金を集め、会社が著作権を持つ人気コンテンツが蓄積したら、既存の大手予備校にまるごと高値で売却することを考えていたらしい。しかし、大手有名銀行出身などといっても、いまさら威光も無く、むしろその高圧的な態度がわざわいし、政治や官庁、金融などの下交渉でさえ難航したであろうことは想像に難くない。

しかし、似たようなスキームは、じつはけっこう話に聞いている。高校教員や大学教授は、定年60-65歳が標準。昔なら、その後も、どこかしら非常勤で手伝ってくれ、特任で名前を貸してくれ、なんていう話もあった。だが、塾も、高校も、専門学校も、大学も、縮小縮小で、いまはもうそんな余裕は無い。かといって、余命は伸びているのに、退職金は細る一方、年金は減る一方。そんなところに、あやしげな「実業家」が寄ってくる。

新聞社やテレビ局が主催する高齢者向けのカルチャーセンターなら、まだまし。リ・スキリングだの、再就職支援だの、よくわからない大学院まがいの「学校」みたいなものを作って、自分たちと同じような定年退職者、会社が潰れたりリストラに遭ったりした失業者、そして、正規雇用をめざす氷河期世代を呼び込む。あなたも、その「学校」の創設パートナーにならないか、というわけ。まさに溺れる者が溺れる者を踏みつけて生き残りをはかる図式。だが、名前と信用を貸したうえに、ノーギャラで、さらには現金出資まで求められる。つまり、溺れる者を踏みつけていると思っている元高校教員、元大学教授のほうがカモネギなんだよ。

ひとことで言って、衰退国の日本では、塾だろうと、似非大学院だろうと、「学校」そのものがビジネススキームとして成り立たない。地道な教養で出世できる時代ではない。安定した不動産収入にかなうものは無く、さもなければ、会社や法人を世襲して、地位と収入を確保。それ以外の人々は、食物でも、娯楽でも、人気稼業で一発当ててアブク銭を狙うしかない。どうして、そんないまの日本の人々が「学校」なんかに来ると思うのか。

先生方は、あまりに世間知らずだ。どうせ、どうにもならない。いまさら身の程知らずに欲をかいて、調子のいい話に乗せられ、ただ働きさせられたうえに、老いて身ぐるみ剥がされるくらいなら、教育なんてもはや老後の趣味のボランティアと割り切って、ほんとうに勉強したい人々だけに静かに語りかけるほうが、生きがいというものではないだろうか。