若年性認知症と診断されながらも、笑顔を絶やさず生きる夫婦の9年間を描いた映画『オレンジ・ランプ』が6月30日に公開。この作品で、夫が若年性アルツハイマー型認知症と診断された妻・真央役を演じているのが女優の貫地谷しほりさんです。

貫地谷しほりさん『オレンジ・ランプ』インタビュー

今回は、「この役に縁を感じた」と語る貫地谷さんに、作品のこと、そして4年目を迎える結婚生活について聞きました。

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●和田正人さんとの共演も息ぴったり!

――本作への出演オファーを受けて、どう感じられましたか?

貫地谷しほりさん(以下、貫地谷):私自身も若年性認知症に対して、なんとなく悲しいイメージをもっていたんです。でも、脚本を読んでみたらものすごく前向きで。すごく驚かされたうえ、実話がもとになっていると知り、「ぜひ演じてみたい!」って思いました。じつは今、母が祖母の介護中なんです。そんな状況下で真央役に出会えたことに意味があるような気もして…。

――若干39歳にして若年性アルツハイマー型認知症を発症した夫・晃一役を演じる和田正人さんともども、非常に難しい役どころだったと思います。

貫地谷:和田さんは今回の役のモデルである丹野智文さんからお話を聞くなど、事前にかなり準備されていたようです。私の場合は、なんの知識もない状態から手探りでいろいろ試しては失敗して…という役柄だったので、あえてあまり勉強せずに撮影に臨みました。ただ、“とにかく明るい奥さんを”と言われていたので、そこは心がけていました。

だから、和田さんとも役づくりについてはとくに話し合ったりもせず、自然な流れに任せていました。和田さんは本当に明るくてノリのいい方で、助けてもらうことも多かったな。ちょっと夫婦漫才っぽいシーンもあったりして楽しかったです。

――いちばん印象に残っているシーンを教えていただけますでしょうか。

貫地谷:作品の核になる部分でもあるので詳しくは言えないんですけれど、ポスターなどにも使われた海でのシーンですかね、やっぱり。夫婦が初めて同じものを見て、同じ思いを共有できて、前向きに生きていく決意のシーンでもあったので。「出会い」の大切さを、あらためて感じました。

――苦労したシーンもありましたか?

貫地谷:認知症本人ミーティングに夫が初めて参加し、それを会場のドアの外で見守っているシーンでは、真央の心情をどうとらえたらいいのか戸惑いました。監督にさじ加減のアドバイスを受けながら進めていったのですが、ただ悲しいだけじゃないし、反省だけでもないし、いろいろ難しかったなぁって。

●“人に頼る”ことの大切さを改めて学んだ

――貫地谷さん自身も、悩みながら真央をつくり上げていかれたのですね。撮影を終えて、得たもの、気づいたものはありましたか?

貫地谷:認知症への意識は本当に大きく変わりましたね。認知症を患う家族がいたら、やはりなにかと心配だし、常に見えるところにいてほしいから、つい縛ってしまう。それに、認知症になってしまったら本人も家族もいろいろあきらめなければいけないと思いがちですよね。私もそうでした。だから最初は、「本人が望む生き方」を貫けるのはすてきだと思いつつも、心のどこかで奇跡のようなものだとも疑っていたんです。

でも撮影が終わってからは、なにも諦める必要はないんだ、晃一さんの生き方は、奇跡ではなく当たり前の世の中になりつつあるんだと素直に思えるようになりました。厚労省の方からも、今は認知症本人の意思を尊重するのが世界共通の指針になっていると聞きました。まわりの協力があれば、十分実現可能なんです。

真央も、最初は「どうしよう」ばかりだったけれど、いったん深呼吸してまわりを見まわしたら、頼れる仕組みがたくさん見つかりました。ひとりで抱え込まずにいろんなものを頼ったからこそ、道が開けてきたわけですよね。

だから母にもそう伝えてみました。私もじつは、悩みをあまり人には話さない、話せないタイプではあるんですけれど、改めて「人に頼る」って悪いことじゃない、むしろ大事なことだと感じました。

●人生を変えた2つの出会い

――先ほど、「出会い」の大切さを感じたとお話されていましたが、貫地谷さんにも人生を変えた出会いはありましたか?

貫地谷:中学生のとき、今もマネージャーを務めてくれている彼女にスカウトされていなければ、今の私はないです。あの出会いは、ものすごく大きな出来事でした。それと、夫…でしょうか。結婚して今年で4年になるんですけれど、やっぱり人生を大きく変えてくれた存在ですね。

役者の仕事って特殊なもので、実生活がおろそかになりがちだったんですけれど、夫と生活するようになって初めて「ちゃんと生きているな」という実感がもてたというか。そんなに大それたものではなく、スーパーに行って献立を考えたりとか、そういうふつうのことです(笑)

――ご主人のお話をされている貫地谷さんの表情、すごくイキイキしていますね。

貫地谷:うん、楽しくやっていますね。夫は、なんでも話せる唯一の人。本当になんでも話すので、私より私のことに詳しいかもしれません(笑)。撮影や舞台の仕事に入ってしまうとそうはいっていられませんが、ふだんはなるべく夫の休みに合わせて土日は家にいられるよう調整してもらっています。

●ゆっくりと過ごせる時間にケンカはもったいない

――忙しい日々を過ごされていると、仕事と家事の両立など難しい部分はあるかと思います。貫地谷さんは、家事はお好きですか?

貫地谷:料理はわりと好きですね。いい気分転換にもなりますし。でも洗濯は苦手なので、無心でやります(笑)。先日、どうしても時間がなくてシーツを洗濯屋さんに出したら、驚くほどパリッとした状態で届いたので、もうこれからはお願いしちゃおうかなと。便利なものやサービスの手を借りてもいいと気づいたら、すごくホッとしました。

――ご主人の家事力はいかがですか?

貫地谷:うーん、あまりやらない代わりに一切文句も言わないのでいいとしています。私はいったん帰宅しちゃうと外に出るのがイヤで、夫に買い物を頼むことも多いのですが、「いいよ」ってフットワーク軽く行ってくれるところはありがたいです。

――それはすてきですね。ちなみにケンカをされることはあるのでしょうか?

貫地谷;ほとんどないですね。せっかくゆっくり過ごせる時間にケンカするなんて、もったいない。もちろん、脱ぎっぱなしの靴下を発見したら「ピピー」って警告して、片づけるまでしつこく言い続けますけれど(笑)。

●演じることで新しい自分と出会える

――今回の作品への出演をとおして、夫婦のありかたを考えたりしましたか?

貫地谷:「認知症になったらどうする?」みたいな話はしました。一応、お互い支え合っていこうね、という結論になりまして。支え合うのはもちろん、叱ってくれる、注意し合える間柄でもありたいと話しているんです。好きな人と結婚するって、すごく大事なことだなと思いました。(ちょっと照れながら)わはは(笑)

――今回は、中学生の子どもがいる役にチャレンジしていますが、今後やってみたい役はありますか?

貫地谷:30代半ばになって、できなくなった役もあるし、できるようになった役もあるし。よく、「古いものを捨てないと新しいなにかが入ってこない」と聞くんですけれど、その通りだなと感じました。

今後はまったく悪びれない、悪人の役とかやってみたいです。反省しない、ただの悪いヤツを演じてみたい。今回の作品もそうだけれど、人生観が変わったり、深く考えさせられたりと、演じることで新しい自分と出会えることがとても楽しみです。

【作品情報】

『オレンジ・ランプ』
主演:貫地谷しほり 和田正人
出演:伊嵜充則 山田雅人 赤間麻里子 赤井英和/ 尾ミエ
配給:ギャガ
▼公式HP▼
©2022「オレンジ・ランプ」製作委員会
6月30日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMA他全国ロードショー

衣装:ワンピース¥26400(ne Quittez pas(パサンド バイ ヌキテパ))、その他スタイリスト私物