「胃腸炎」の症状や原因・感染経路・予防法はご存知ですか?医師が監修!

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時には腹痛だけでなく、嘔吐・下痢・発熱などを伴う場合もあります。

こういった症状の原因と考えられる疾患は数多くありますが、その代表といってよいのが感染性胃腸炎です。

本記事では感染性胃腸炎の、原因・診断基準・検査・治療・予防・注意点などについてお伝えします。

「この症状、感染性胃腸炎?」そう疑った際の参考になさってください。

感染性胃腸炎の原因や診断基準

感染性胃腸炎の原因は?

感染性胃腸炎は、細菌ウイルスといった病原体の感染により発症する疾患です。そしてその中でも圧倒的に多いのはウイルスによるもので、ノロウイルス・ロタウイルスなどが有名です。
一方で感染性胃腸炎を引き起こす細菌としては、サルモネラ菌・腸炎ビブリオ菌・カンピロバクター・病原性大腸菌・黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌などがあげられます。ウイルスは低温・低湿度を好むため主に冬場に増加し、細菌によるものは食品などの中で増殖しやすい夏場に集中する傾向がみられます。

どのような症状がありますか?

感染性胃腸炎に共通する主な症状は次のようなものです。

嘔吐

下痢

腹痛

発熱

脱水

ノロウイルスの場合、個人差はあるものの小児は嘔吐が目立ち成人は下痢が強い傾向があるようです。ロタウイルスの場合は発熱と嘔吐から始まり24~48時間後に頻繁な下痢が起きるといった傾向があります。
細菌性の場合は腹痛・下痢が主症状となり、嘔吐は原因菌によって異なるもののウイルス性より軽度な場合が多いでしょう。また発熱をともなったり血便が出たりすることもあります。さらに重症化の例としては急激な四肢の麻痺・敗血症といった例もみられます。
いずれにせよ持病のある方や小児・高齢者などは合併症を引き起こしたり症状が長引いたりする可能性があり、最悪の場合は死に至ることもありますので注意してください。実際にこういった症状が出ている場合、それが感染性胃腸炎によるものなのかを最終的に判断するためには医療機関の受診をおすすめします。

感染経路を教えてください。

細菌やウイルスが感染する経路として主なものは経口感染飛沫感染です。
経口感染は汚染された飲料水や食品を摂取するなどの原因により発生します。特に生カキや二枚貝・食肉などに注意が必要で、これらの食材は中心部までしっかり加熱することが重要です。食品から直接感染するほか、調理者や配膳者の手指が汚染されていたことにより発生する場合もあります。
また感染者の吐物・下痢便や汚染された器具・衣服などを手指で触れた後、手洗いが不完全なまま他のものに触れその後経口感染するという経路もよくある例です。飛沫感染は感染者の吐物や下痢便が飛び散った飛沫を吸い込むことによって感染することが多いと考えられます。

潜伏期間はどのくらいですか?

ノロウイルスの潜伏期間は1~2日間、ロタウイルスは2~4日間といわれており、感染から比較的短期間で発症します。その一方で細菌性の場合は種類により30分間から7日間と非常に広範囲にわたるのが特徴です。
このため食事やその他の行動など、感染源の特定は困難な場合があります。

感染性胃腸炎の検査や治療方法

受診の目安を教えてください。

感染性胃腸炎の多くは数日程度で症状が治まることが多く、この場合必ず受診の必要があるとはいえないでしょう。しかし1日6回以上の下痢や2時間以内に5回以上の嘔吐がある場合、皮膚や口が乾燥している・尿が減る・顔色が悪いといった脱水のサインがある場合は受診をおすすめします。
ただし年齢や他の疾患の有無・症状の重さなどは人それぞれですので、受診するかどうかについては慎重に判断するようにしてください。また胃腸炎に限らず感染症の疑いがある場合は、あらかじめ電話などでその旨を伝えた上で指示に従うようにすれば安全かつスムーズに診察を受けられるでしょう。

どのような検査が行われますか?

腹痛や下痢といった症状に対する検査は、「感染性胃腸炎か」というより「その他の危険な疾患ではないか」という観点で行います。危険な腹痛の例は虫垂炎・膵炎・虚血性腸炎・大腸の悪性腫瘍・潰瘍性大腸炎などです。
検査の方法としては血液検査・超音波検査・CT検査・便検査があります。医療機関によって検査方法が異なりますので、問い合わせ時や受診時に確認するようにしましょう。
ノロウイルスやロタウイルスなどについては抗原検出キットにより診断が可能ですが、精度に限界があるため検査結果を鵜呑みにしないことが大切です。

治療方法を教えてください。

感染性胃腸炎には現在のところ特効的な治療方法がありません。経口補水液や点滴などによる脱水症状の予防を図りながら安静にして治癒を待つこととなります。

感染性胃腸炎の予防と注意点

感染性胃腸炎の予防方法を教えてください。

感染性胃腸炎のうち特にノロウイルスやロタウイルスなどは感染力が強く、家庭内や集団生活において感染が拡大する事例が多くみられます。また上記で述べたように感染性胃腸炎にはこれといった治療方法がありません。このため「感染しない」・「感染させない」ための取り組みが大変重要です。
以下で解説する対策を励行し、全員で感染防止に取り組みましょう。

調理や食事の前・トイレの後などには石鹸と流水でよく手洗いをする。

食品は十分に洗い、中心までよく加熱(85℃以上で1分以上)する。

調理器具は使用した都度洗剤で洗い、熱湯などで十分消毒する。

感染性胃腸炎の感染経路としては食品や糞便が多く、上記のような予防方法が非常に有効です。これらの取り組みは胃腸炎だけでなくその他の様々な感染症の予防につながるため、全員に習慣づけることをおすすめします。

仕事復帰の目安はどのくらいですか?

感染性胃腸炎にはO-157などの特殊なものを除き、仕事に復帰するまでの日数が明確に定められていません。このため「症状が回復したら復帰してよい」とされる場合が多いようです。
ただし職場によっては就業規則などで個別に定められている場合もありますので、担当者に確認するようにしてください。特にノロウイルスは感染力が強く、発症から最長1ヵ月程度はウイルスを排出するといわれています。
飲食店など食品を扱うような方が感染性胃腸炎にかかった場合は、その旨を管理者に報告し暫くの間は直接食品に触れるような業務を避けるのが望ましいでしょう。

周りにうつさないための注意点を教えてください。

ご自身が感染性胃腸炎にかかってしまった場合、最も警戒するべきは吐物や便からの感染・食事や入浴による感染です。先ほど紹介した予防方法に加え、次のような対策を講じてください。

吐物や便の処理に際してはマスクや手袋を着用する。

入浴に際しては浴槽に入らずシャワーなどで済ます。

感染者が触れたものは次亜塩素酸ナトリウムや加熱により消毒する。

衣類やタオルなどを共用しない。

こういった点に留意すれば、周りにうつすリスクを格段に下げられるでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

感染性胃腸炎は「食あたり」・「食中毒」とも呼ばれ、発症しても直ちに受診するという方はあまり多くないかもしれません。確かに感染性胃腸炎であれば自然治癒を待つ他ないのですが、腹痛や嘔吐・下痢といった症状にはもっと危険な病気が隠れている可能性があります。
このため安易にご自身で判断せず、「おかしいな」と思ったらすぐに医療機関へ相談してください。

編集部まとめ


感染性胃腸炎による腹痛・嘔吐・下痢といった症状は、誰もが一度は経験したことがあると思います。

そのつらさを思い出せば、日々の対策によって予防する大切さがお分かり頂けるのではないでしょうか。

お子様や高齢者は重症化する可能性が高まりますので、こういった方がいるご家庭ではより特段の注意が必要となります。

ご自身がうつされないよう、そして万が一感染してしまった場合はご家族や同僚など大切な方にうつさないよう、手洗いや消毒といった基本的な対策を心掛けて参りましょう。

参考文献

感染性胃腸炎(慶應義塾大学保健管理センター)

細菌性胃腸炎(一般社団法人 加古川医師会)

感染性胃腸炎(ノロウイルス)(岡山大学保健管理センター)