「反回神経麻痺」を疑う初期症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

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反回神経麻痺という病気を聞いたことはありますか。反回神経とは、声を出したり食べ物を飲み込んだりする機能に関与する神経です。

反回神経が麻痺すると声が出にくくなったり食べ物が飲み込みにくくなったりするため日常生活に大きな影響を与えます。日常生活への影響が大きいと聞くと、完治する病気なのか不安に感じる方もいるでしょう。

そこで本記事では、反回神経麻痺の症状・発症原因・診断・治療方法などを詳しく解説していきます。

反回神経麻痺とは?

反回神経麻痺はどのような病気でしょうか?

反回神経麻痺とは、名前の通り反回神経が麻痺してしまう病気です。反回神経とは、声帯や嚥下機能に関与する神経です。そのため、反回神経が麻痺してしまうと声がかれたり食事が上手く飲み込めなくなったりします。
反回神経麻痺は片側の声帯だけが動かなくなる片側声帯麻痺と、両側の声帯が動かなくなる両側声帯麻痺に分類されます。多くの場合は片側声帯麻痺です。反回神経麻痺は発声や食事に関わるため日常生活への影響が大きいといえます。

反回神経麻痺の症状を教えてください。

反回神経麻痺では主に声に異常が表れます。しゃがれた声になるのが特徴です。また、誤嚥(ごえん)といって食べ物が誤って気管に入ってしまう症状も表れます。通常、声帯は食べ物を飲み込んだ時に気管に入らないようにする役割があります。
しかし、反回神経麻痺では声帯が上手く機能しないために気管に食べ物が入りやすくなるのです。誤嚥は繰り返すと誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があるため注意が必要です。

反回神経麻痺がなぜ起こるのか、発症の原因を教えてください。

反回神経麻痺は反回神経の通り道に近い臓器である甲状腺・食道・肺の悪性腫瘍が反回神経を圧迫した場合や心臓の手術後に起こります。
反回神経麻痺は挿管性麻痺と呼ばれるものもあり、これは喉から気管に管を入れて行う全身麻酔の手術後にみられるものをいいます。
反回神経麻痺は前述したような原因もありますが、明らかな原因がなく起こる場合が最も多いです。

心臓の手術後に反回神経麻痺を起こすと聞いたのですが…。

心臓の手術後に反回神経麻痺を起こしやすいリスク因子として女性・挿管時間・手術時間が指摘されています。心臓の手術後に反回神経麻痺を起こすといわれる理由は、反回神経の通り道にあります。
反回神経は、首の穴の少し下のあたりで出てからまっすぐ声帯までいきません。右側の神経は右の首の付け根のあたりまで下がってから、声帯に上がっていきます。左側の神経は胸部大動脈のあたりまで下がってから声帯に上がっていきます。
つまり、左側の神経は心臓の手術時に影響を受けやすいのです。そのため心臓の手術後に反回神経麻痺を起こす場合があります。

反回神経麻痺の診断と治療方法

受診を検討するべき初期症状はありますか?

反回神経麻痺の初期症状は声の枯れです。風邪をひいたときにも声が枯れることはあると思いますが、風邪などの症状がないのに声の枯れが続く場合には反回神経麻痺を疑いましょう。
片側性反回神経麻痺の場合、会話中に声が枯れたり息切れが起きたりします。両側性反回神経麻痺の場合、呼吸が苦しくなったり声が全く出なくなったりします。反回神経麻痺を疑う場合には耳鼻咽喉科を受診しましょう。

診断ではどのような検査を行うのでしょうか?

反回神経麻痺の検査では原因となる病気があるかを精査することが重要です。そのために、CT検査・超音波検査・血液検査などを行います。
反回神経麻痺は、甲状腺・食道・肺などの悪性腫瘍が反回神経を圧迫していることが原因の場合があります。様々な検査を行い、これらの臓器に異常がないか確認することが重要です。

治療方法を教えてください。

反回神経麻痺を起こしている原因が明らかな場合には、病気の治療を最優先で行います。明らかな原因がない時にはまず薬物療法を行います。薬物療法で使用される薬はステロイド剤・代謝賦活剤・末梢血管拡張剤などです。
また、反回神経麻痺は自然治癒例もあるため軽症の場合は必ずしも治療が必要とは限りません。自然治癒もせず、薬物療法でも声帯の異常が改善しなければ手術を行います。

反回神経麻痺の手術について教えてください。

反回神経麻痺では、麻痺した声帯を声が出る位置に移動させる声帯正中移動手術を行います。声帯正中移動手術は主に2つの方法があります。
1つ目は声帯内注入といって、声帯に直接薬を注射する方法です。
2つ目は喉頭枠組み手術といって、声帯周辺の形を整え発声しやすくする方法です。麻痺した声帯を再び動かすようにすることはできませんが、声帯の位置を移動させることで声が出しやすくなります。
手術方法は喉の状態や全身状態を考慮し、医師が最も適した方法を提案します。

反回神経麻痺の治療期間とリハビリ

反回神経麻痺の治療期間はどのくらいでしょうか?

治療期間は自然治癒や薬物療法の場合、2~12か月とかなりの幅があります。反回神経麻痺は発症後6か月以内に症状が固定する場合が多く、6か月経過後に手術を行うことが多いです。
反回神経麻痺を起こしている原因が明らかな場合は病気の治療を最優先で行うため、治療期間も延長します。原因疾患によって治療期間も異なるため治療期間は人それぞれです。どのくらい治療期間がかかるかは主治医へ確認しましょう。

完治する病気でしょうか?

一度麻痺した声帯が再び動くようになることはありません。しかし、残存機能の代償によって症状が改善することがあります。例えば片側反回神経麻痺の場合、麻痺した声帯の位置の変化が起こったり非麻痺側の声帯の代償動作がみられたりします。
また、手術によって声帯の位置を移動させれば症状の改善が期待できるのです。麻痺した声帯が元通りになることはありませんが、代償動作や手術によって元通りの生活を送れる可能性が高い病気です。

どのようなリハビリを行いますか?

反回神経麻痺のリハビリは主に言語聴覚士によって行われます。言語聴覚士とは発声や嚥下機能に異常がある方に対しリハビリを行い、より自分らしい生活が送れるよう支援する専門職です。言語聴覚士は次のようなリハビリを行います。

口腔顔面運動

発声練習(単音・短文・新聞や雑誌の音読)

嚥下訓練(トロミ指導・栄養補助食品の紹介)

声帯は食べ物を飲み込んだ時に気管に入らないようにする役割があります。そのため、反回神経麻痺になると食べ物が気管に入りやすくなり誤嚥のリスクが高くなるのです。誤嚥のリスクが高い方は、水分にトロミをつける場合があります。トロミが必要なのか、必要な場合どのくらいトロミをつけた方がいいのか言語聴覚士が評価します。
リハビリを行うことで、声が出しやすくなったり食べ物が飲み込みやすくなったりする効果があるのです。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

反回神経麻痺は声が出にくくなったり食べ物が飲み込みにくくなったりと日常生活への影響が大きい病気です。明らかな原因がなく起こる場合もあるため、誰しも発症リスクがあるといえます。残念ながら一度麻痺した神経が元に戻ることはありません。
しかし、治療方法は確立されており症状の改善は見込めます。風邪などの症状がないのに声の枯れが続く場合には反回神経麻痺を疑い、耳鼻科への受診をおすすめします。

編集部まとめ


反回神経麻痺の症状・発症原因・診断・治療方法などについて解説しました。

反回神経麻痺とは、声帯や嚥下機能に関与する反回神経が麻痺してしまう病気です。主に声に異常が表れます。初期症状は声の枯れです。

反回神経麻痺は反回神経が悪性腫瘍によって圧迫された場合や心臓の手術後に起こります。明らかな原因がなく起こる場合も多いです。

反回神経麻痺の検査では、CT検査・超音波検査・血液検査などを行います。これらの検査を行い身体に病気が見つかれば、病気の治療をまず行います。

その他の治療方法としては薬物療法・手術です。また、自然治癒する場合もあります。

一度麻痺した反回神経は元通りにはなりませんが、残像機能の代償動作や手術によって声帯の位置を移動することで症状の改善が見込めます。

本記事が参考になれば幸いです。

参考文献

Q27声が嗄れました(日本呼吸器学会)