なぜ女性アナウンサーはこれほどまでに注目されてしまうのでしょうか?(画像:日本テレビ「DayDay.」公式HPより)

18日夜、日本テレビ・黒田みゆアナの交際報道がYahoo!トピックスで大々的に報じられました。黒田アナは今春から情報番組「DayDay.」のMCに抜擢されたばかりの入社3年目・24歳で、まだ一般的な知名度は高くありません。

しかも交際報道の相手は同期入社の同局ディレクター。つまり、会社員同士の恋愛であるにもかかわらず、交際のきっかけやデートなどの詳細が写真付きで報じられました。日本テレビは「社員のプライベートはお答えしておりません」とコメントしましたが、これはプライバシーを守るためであり、それ以前に答える必要性すらないからでしょう。

メディアを批判する声も散見されるが…

一方、記事のコメント欄には、「未成年者でもあるまいし、イチ会社員の恋愛まで記事にするのは流石にやり過ぎ。一般人のプライベートを土足で踏みにじるのは止めた方がいいですよ」「問題起こしてる訳じゃないのにこういった報道で若い人間が潰れちゃうよ。一社員でこれはプライバシーの侵害としないとダメじゃないか?」「いくらテレビに出る仕事とは言え、普通の会社員の恋愛事情を報道することに違和感を感じる」などとメディアを批判する声も散見されました。

女性アナウンサーの主な交際報道はそのほかにも、昨年8月にTBSの若林有子アナ、10月にフリーの新井恵理那アナ、12月にテレビ東京の角谷暁子アナ、今年2月にTBSの宇内梨沙アナ、3月にTBSの良原安美アナがあり、すべて相手は一般人。

さらに新井アナが「盗撮されて勝手に書かれたもので怖い」、宇内アナが「しばらくつけられて怖い思いをした」などとコメントしたほか、若林アナは仕事帰りの夜遅い時間帯にノーメイクで直撃を受けたことで批判の声があがっていました。

女性アナウンサーの交際報道があるたびにこのような批判の声があがるにもかかわらず、一向になくなる気配はありません。相手が芸能人の場合や結婚、あるいは不倫ならともかく、なぜ会社員の彼女たちが一般人との交際を報じられるのでしょうか。その背景には、単にメディア側が「部数やPVがほしい」というだけでなく、複雑な理由があります。

長年、各出版社の週刊誌やウェブ版の関係者たちとやり取りを続けていますが、平成初期の“女子アナブーム”から30年が過ぎた令和の今なお、女性アナウンサーに対する“特別扱い”はほとんど変わっていません。

その最たる理由は、編集者や記者が「女性アナウンサーたちの潜在的な人気の高さ」に加えて、「いかに努力をしてきてスキルを培ってきたか」をよく知っているから。アナウンススクールから、ミスコン、タレントやモデルとしての活動、採用選考、新人研修、初鳴き(初めての放送)までの様子を大学生の頃から追いかけている編集部が多く、アナウンサーになる前の厳しい道のりを知っていることが彼女たちへの特別扱いにつながっています。

「数千倍」といわれる超難関の採用選考に挑む大学生たちは、各局主催のアナウンススクールに通って技術を高めるのは当たり前。さらに、メイクの勉強、歯列矯正やホワイトニング、髪のトリートメント、ダイエットやエステなど、まるで初期投資するように美貌を磨く人もいます。

また、日ごろから男性との写真撮影を避けたり、飲み会の参加を控えたり、SNSの投稿を慎重に行ったり、なかには「採用選考の前に恋人との別れを選んだ」という人もいました。もっとさかのぼると、「キー局のアナウンサーになりたいから出身者の多いこの大学を選んだ」という人も少なくないのです。

先日、選抜総選挙で“神7”に選ばれたこともある元AKB48の武藤十夢さんが懸命に準備していたにもかかわらず、キー局のアナウンサー採用試験にすべて落ちたことを明かして反響を集めたことからも、その難しさがうかがえます。

一方、採用する側のテレビ局は、アナウンススクールを運営して早い段階から育成をはじめているほか、採用選考にも注力。書類選考や面談はもちろん、セットや機材をそろえた本格的なカメラテストなどを行い、現役アナウンサーや役員が目を光らせる形で進めていきます。これだけ時間とお金をかけて行われているのは、女性アナウンサーはそれだけ局にとって特別なポジションだから。どこを見ても採用選考の段階から一般人の扱いではないのです。

「稀有なポジション」と「単純接触効果」

なぜ女性アナウンサーは一般人とは異なる特別扱いをされるのか。「日本では女性アナウンサーという職業が稀有なポジションにいるから」という背景もあります。

カメラが回っているときは、ほぼ芸能人だが、カットがかかった瞬間、一般人に戻る。アイドルのように、つねに笑顔と明るさが必須で、時に芸能人のような個性も求められるが、一般人としての意見を求められる機会も多い。制作サイドから「芸能人を立てて前に出すぎないように」と言われながらも、ボケを振られるほか、カレンダーなどが発売される。

「芸能人と一般人の間にいる」というより、「臨機応変に芸能人になったり、一般人に戻ったりする」というポジショニングの難しさが女性アナウンサーの価値を高めているのです。そんなポジションは芸能界にも一般企業にもないし、欧米には局員のアナウンサーそのものがほとんどいません。「ここまで露出の機会が多く、注目を集める会社員はいない」という希少性が交際報道などの特別扱いにつながっているのでしょう。

週刊誌の編集者や記者、あるいは芸能リポーターと話していると、「彼女たちは一般人だからこそ興味を持ってもらえる」「身近にいる手に届きそうで届かない高嶺の花くらいの感じがいいのだと思う」などの見解をよく聞きます。それは稀有なポジショニングや学生時代から自分を磨いてきたことに加えて、“単純接触効果”が得られるからでしょう。

単純接触効果とは、「繰り返し目や耳にするほど好印象を抱きやすい」というビジネスシーンでもしばしば使われる心理効果の1つ。その点、女性アナウンサーの多くが出演する帯番組は毎日繰り返し見られるため好印象を抱かれやすく、とくに笑顔の多い女性アナウンサーはその傾向があるといわれています。

さらにその好印象は恋愛対象としてのものだけではありません。親近感をベースにした両親、兄弟・姉妹、祖父母、友人のような目線の好印象もあり、だからこそ「交際報道があると気になって見てしまう」という人がいるのでしょう。

アナウンススキルは本当に低いのか?

逆に、女性アナウンサーがフィーチャーされることを嫌う人も少なくありません。嫌う理由が「一般人のくせに」などの稀有なポジションに関することなら仕方がないのですが、誤解を招きがちなのは「アナウンス能力がないのに」などのスキルに対する批判。

各局の女性アナウンサーは、一部のベテラン・中堅を除いて、「そのスキルを世間の人々から評価されている」とは言いづらいところがあります。ただ、制作現場では「視聴者が思っている以上に女性アナウンサーは評価されている」というケースのほうが多いものです。

たとえば、語彙とイントネーションにこだわり、さりげない気づかいを見せ、即興で時間を作り、出演者のコメントをフォローし、顔が見えないナレーションで裏から盛り上げる。とくに生放送で制作サイドの指示をこなしながら、秒単位で時間を調整していく様子はプロしかできないスキルといっていいでしょう。私が知る限り、アナウンサーの大半がこのようなスキルを持ち合わせています。

そのほか、インタビュー、リポート、体当たりロケなどの仕事では、さまざまな現場や出会いを経験して見聞を広げ、人間性を磨いていくこともスキルを磨くうえで大切なステップ。カメラが回っていないときの彼女たちはほかの局員以上に豊かな人間性の持ち主という印象があるものです。

そんな彼女たちのスキルと、その難しさが世間の人々にあまり理解されず、「完璧にできて当たり前」という高いハードルを課せられていることがネガティブな声につながっているのでしょう。

また、「つぶしが利きづらい専門職であること」も女性アナウンサーがフィーチャーされやすい一因となっています。

彼女たちは学生時代から入社後も専門的なスキルを磨き続けることを求められますが、ある40代後半のベテランアナウンサーですら「まだ足りないところが多い」「もっとうまくなりたい」と言っていました。

しかし、そんな彼女たちに待ち受けているのは、「伝えることの職人としてスキルを磨き続け、実績が増えていくにもかかわらず、それを発揮する機会は減っていく」という厳しい現実。「女子アナ30歳定年説」があった以前よりは良化したものの、今なお若さや見た目が人事の基準になっているところがあり、「専門職でありながらスキルを磨いても報われない」というケースが少なくないのです。

もともとアナウンサーは自由度の低い職種。台本どおりに進行するのはもちろんですが、それ以前に担当番組は基本的に選べないし、他局の番組や他社のイベントなども出られません。実際にこれまで取材で「報道がやりたいけどバラエティーが多い」「もっとチャンスがあればインタビューやリポートの技術を磨いていきたい」などの声を何度も聞いてきました。

また、よくあるのが「進行役を任され、やりがいを感じているのに、後輩アナウンサーと代わらなければいけない」というケース。たとえば各局の長寿番組では、「MCやレギュラー出演者は変わらないのに、女性アナウンサーだけは定期的に代えていく」というケースが当然のように見られます。

さらに会社員であるため、20代で広報、総務、営業、事業などの他部署に異動する女性アナウンサーもいました。ただ、学生時代から専門的なスキルに特化して活動してきただけに、他部署での仕事は簡単ではないでしょう。

それでも、フリーアナウンサーとしてやっていくのは難しそうだし、芸能人としてのスキルを磨いてきたわけでもない。また、大企業の社員であることは変わらないのに、メディアや世間から「左遷」と言われ、「アナウンサー失格」のレッテルを貼られてしまう。まるでアスリートが引退後のセカンドキャリアに悩むように、女性アナウンサーたちも専門職を追求してきたからこそ身の振り方が難しいのです。

「自由度の低い職種」という点は仕事だけでなく、プライベートも同様。事実、これまで早朝や深夜の番組出演で昼夜逆転している人を筆頭に、不規則な勤務時間で「一般人よりプライベートは地味です」と苦笑いする女性アナウンサーに何度も会ってきました。

体調や声の管理などのプレッシャーがプライベートにも及ぶうえに、ストレス発散で気軽に同僚と飲みに行くことも簡単ではない。もし撮られたら「調子に乗っている」と言われてしまうし、誤解されて交際報道になったら困る。それどころか、通勤、ランチ、休日などですら「撮られるかもしれない」というストレスで、自ら行動制限している人もいるようです。

なぜ芸能人より女子アナ狙いなのか

先日話したある女性アナウンサーが「以前インタビューしたことのある俳優の〇〇さんをプライベートで見かけたんですけど、撮られたらいけないので、気づかれないように逃げました」と言っていました。女性アナウンサーの中には、「とくにタレント、アスリート、アーティストなどとは仕事以外の場で話さないように気をつけている」という人もいるのです。

週刊誌をはじめメディアの人々は華やかな姿だけでなく、そんな女性アナウンサーの地味な生活や悲哀も知っているからこそ、彼女たちを報じようとする傾向があるのでしょう。

最後に女性アナウンサーの記事を報じるメディア側の事情もふれておきましょう。長年交流がある週刊誌編集長は10年以上前の段階から、「芸能人のスター性が下がって、よほどの大物でなければ記事にしても売り上げにつながらなくなった」と言っていました。それがスキャンダルではなく、独身者同士の交際報道なら、なおのこと。彼に言わせれば、「大物以外で売り上げにつながりそうなのは、恋愛禁止のアイドルと女子アナくらい」だそうです。

また、週刊誌にスクープ写真を提供するフリーの知人カメラマンは、「芸能人は逃げ方やカモフラージュがうまくなったし、店側も工夫するようになった。それとコロナ禍で事務所のガードがますます厳しくなって、芸能人が撮りづらくなっている」と言っていました。

その点、若手アナウンサーは、メディアのカメラを避けることに慣れていないうえに、一般人のため生活風景を撮りやすく、芸能人のように守ってくれるマネジャーもいません。報じるメディア側としては、「テレビでは見せない一般人としての顔だからこそ撮りたい」という意図もあり、むしろ芸能人ではないからこそ彼女たちは狙われているのです。

今春は入社数年の若手を次々抜擢

近年、各局は制作費削減するうえで、芸能人の出演費を下げる必要性に迫られてきました。「アナウンサーを芸能人のように扱いすぎる」などの批判があっても、むしろ起用を増やしているのはそのためでもあります。

さらに、働き方改革を進めるために、出演数の偏りを減らすことになり、たとえば帯番組も1人が週5日担当するのではなく、2人立てて2〜4日に分散させる形が広がっています。「1人の看板アナに頼ることをやめて、知名度の高い看板アナを複数作っていく」という方針のため、ますます女性アナウンサーの起用機会は増えていくでしょう。

実際、今春は冒頭に挙げた日本テレビの黒田みゆアナのほか、フジテレビの小室瑛莉子アナと岸本理沙アナ、テレビ朝日の安藤萌々アナなど、入社2〜4年目の若手女性アナウンサーが帯番組のMCに抜擢されました。また、フジテレビに元櫻坂46の原田葵さんがアナウンサーとして入社したことが大きく報じられています。「今、週刊誌の編集部が最も狙っているのは彼女たち」といっていいでしょう。

付き合いのある週刊誌編集者たちは、「女子アナ特集をしても以前ほど売れなくなった」と言っていました。ただ、それでもここまで挙げてきた理由から、女性アナウンサーのニーズはまだまだ健在であり、とくにネット上の反響は大きく、彼女たちのSNSを記事化するウェブメディアの多さがそれを物語っています。

ジェンダーレスの意識が急速に高まらない限り、賛否の声があっても女性アナウンサーたちの交際報道はなくならないでしょう。ただ、それを見る私たちは彼女たちを興味本位の目で見たり、心ない言葉を浴びせたりしないように心がけたいところです。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)