「神経鞘腫」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
神経鞘腫とは、神経を包んでいる膜に腫瘍ができる病気です。基本的には良性であり、癌のように転移することは少ないといわれています。
しかし腫瘍ができる場所によって症状が異なり、手術に高度な技術が必要となる場合もあります。そのため、詳しい症状や後遺症などのリスクを把握することは大切です。
そこで本記事では、神経鞘腫の症状と原因について解説します。神経鞘腫の初期症状・検査・診断方法・後遺症のリスクなども併せてご紹介するので、参考にしてください。
神経鞘腫の症状と原因について
神経鞘腫の主な症状が知りたいです。
神経鞘腫の主な症状は、腫瘍が発生する脳神経の場所によって異なります。一般的には、皮下組織や筋肉などの軟部組織に発生することが多く、脳神経・脊髄神経・消化管などの部位にも発生することがあります。脳神経の中でも発生率の高いものは、次の通りです。
聴神経鞘腫
三叉神経鞘腫
頚静脈孔神経鞘腫
脳神経の神経鞘腫の中でも最も頻度が高いといわれているのが、聴神経鞘腫です。聴神経は平衡感覚を司る神経であり、主な症状としては難聴・耳鳴り・めまいなどが挙げられます。
腫瘍が大きくなると他の神経・脳幹・小脳などを圧迫するため、しびれや歩行が困難になるなどの症状も現れる可能性があります。
三叉神経鞘腫は、聴神経鞘腫の次に多いといわれる病気です。三叉神経とは顔面の感覚を脳に伝える末梢神経の1つであり、主に顔のしびれ・疼痛・物が二重に見えるなどの症状が発症します。
頚静脈孔神経鞘腫とは、舌咽神経・迷走神経・副神経の3つの神経から発生する神経鞘腫のことです。発生する場所によって症状は異なりますが、主に喉の奥の痛み・飲み込んだりする時の痛み・嚥下障害・難聴などが挙げられます。
神経鞘腫があると脳の神経を邪魔するのでしょうか。
神経鞘腫があると、脳の神経を圧迫して障害を呈する可能性はあります 。腫瘍が大きくなると周りにある脳や脳神経を圧迫することがあるのです。これによって、次のような症状が現れることがあります。
頭痛
吐き気
めまい
物忘れ
失禁
半身麻痺
意識の低下
認知症に近い物忘れ・半身麻痺・意識の低下などは、命に係る危険な症状である可能性もあるため、注意が必要です。
神経鞘腫は何が原因で発症するのですか?
神経鞘腫の原因は明らかになっていません。この病気は末梢神経を取り巻くシュワン細胞が異常をきたして増殖することで発症しますが、この増殖の原因ははっきりわかっていません。しかし、遺伝性疾患である神経線維腫2型の病気にかかっている方は聴神経における神経鞘腫が多発しやすいといわれています。
神経鞘腫の悪性の確率はどの程度ですか?
神経鞘腫は基本的に良性腫瘍であり、悪性は非常に稀 です。悪性末梢神経鞘腫と呼ばれる腫瘍もありますが、通常の神経鞘腫が悪性化する可能性は低いです。悪性末梢神経鞘腫は、皮膚の病変を特徴とする神経線維腫1型 に関連して発生することが多いといわれています。
神経鞘腫の初期症状と検査・診断方法
神経鞘腫の初期症状ついて詳しく教えてください。
この病気の中でも、最も頻度が多いのが聴神経鞘腫です。そのため、初期症状は聴神経鞘腫によって引き起こされる次のようなものが挙げられます。耳鳴り
聴力低下
ふらつき
めまい
顔面麻痺
また身体の表面に近い末梢神経から生じた場合には、こぶとして見た目でわかるケースもあります。
神経鞘腫を放置すると姿勢にも影響が出てくるのでしょうか。
神経鞘腫を放置すると、姿勢に影響が出ることがあります。例えば、脊髄に神経鞘腫が起きた場合などに、手足の痺れなどが起きることで立っている時の姿勢や歩行時の動作などに悪影響が出るのです。また、神経鞘腫が発生した場所が筋肉を支配している場合は筋力の低下などの症状が現れる可能性があります。その結果、姿勢や動作に影響する可能性もあるでしょう。
神経鞘腫の検査・診断方法を教えてください。
神経鞘腫の検査と診断方法は次の通りです。CT検査
MRI検査
電気生理検査
CT検査やMRI検査による画像検査にて腫瘍の大きさ・形状・場所・性質などを調べて、どの神経から発生した病気かを診断します。また、他の脳神経や血管との関係など、手術に関係する血管の走行などの把握にも役立つため非常に重要です。
また、神経の機能を確認するために電気生理検査を行うケースもあります。
例えば、聴神経鞘腫の場合であれば、音に対しての脳の反応を見るなどの検査方法です。
神経鞘腫の治療方法と後遺症のリスク
神経鞘腫の治療方法について詳しく知りたいです。
この病気の治療方法は、腫瘍の状態によって異なり、次のような対応に分けられます。経過観察
手術
放射線治療
腫瘍が小さく、周囲をほとんど圧迫しないと判断される場合は経過観察を行います。定期的に画像検査を行い、腫瘍が大きくなっていないかを確認しながら治療を進める方法です。
この治療方法のメリットは、手術や放射線治療などによる合併症が発生しない点です。手術の場合であれば、麻酔のリスク・輸血・薬剤のトラブルなどの心配もありますが、このような心配も経過観察にはありません。
しかし腫瘍が急速に大きくなってしまうと、症状が急に悪化するケースや周囲の神経などと引っ付いてしまって摘出が困難になってしまうなどのデメリットがあります。
手術も治療方法の1つです。特に、次のような場合は手術が考慮されます。
腫瘍が25mm以上で周囲を圧迫している場合
放射線治療の効果が乏しい場合
年齢が若く聴力を維持できる可能性がある小さい腫瘍の場合
脳の場合、腫瘍が25mm以上で周囲を圧迫していると他の症状が現れる可能性が高いため、手術が考えられるケースが多いです。手術には腫瘍を取り除けるメリットはありますが、手術による後遺症が残る可能性があります。
例えば聴神経鞘腫を取り除く場合、腫瘍近くの脳幹・小脳・その他の脳神経の障害などが代表的です。一方、年齢が高齢などの理由で手術が行えない場合には放射線治療を行います。局所的に放射線を照射する定位的放射線照射と呼ばれる方法で治療を行い、腫瘍が今以上に大きくならないようにします。
また、手術後に再発したケースなどでも放射線治療が用いられることは多いです。放射線治療のメリットは、比較的顔面神経麻痺や聴力障害などの発生が少ない点です。
しかしながら、放射線治療後に腫瘍が大きくなる場合があり、大きくなることで手術が困難になるケースがある点はデメリットに挙げられます。
神経鞘腫の治療は基本的には摘出手術を行う場合が多いと聞いたのですが…
神経鞘腫の治療は、基本的には摘出手術を行う場合が多いです。これは、手術によって全摘出ができれば基本的に根治が可能なためです。時間が経過すると、周辺を巻き込むようになる可能性があります。そのような状態となると完全に摘出することは困難となり、根治の可能性も低くなるでしょう。
また、稀ではありますが悪性化も考えられます。悪性化した場合には、全身への転移も考えられるため早期摘出が求められます。悪性化や摘出困難となることが考えられるため、基本的には摘出手術による治療が行われるのです。
神経鞘腫の後遺症のリスクを教えてください。
この病気の後遺症のリスクとしては、摘出手術の際に神経が傷つくことがあり、それに伴って次のような障害が残るかもしれません。顔面の麻痺
聴力の低下
味覚障害
手足のしびれ
例えば、摘出手術の際に顔面神経が傷つくようなことがあると顔面麻痺が起こることがあります。また、耳の神経である蝸牛神経が傷ついた場合、聴力低下を引き起こすこともあるでしょう。
その他にも、手術を行う場所によっては傷つく可能性がある神経の種類が異なるため、味覚障害・手足のしびれ・発声が上手くできない・嚥下障害などさまざまな後遺症が挙げられます。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
神経鞘腫は良性の腫瘍であることが多いですが、大きくなると周囲の神経を圧迫し、頭痛・めまい・半身麻痺などの深刻な症状につながることがあります。摘出手術などで根治できることが多いため、耳鳴りやめまいなどの気になる症状がある場合は我慢せず、悪化する前に一度受診してみることをおすすめします。
編集部まとめ
神経鞘腫とは、末梢神経の周りを包んでいる膜から発生する病気です。一般的には良性ですが、基本的な治療は摘出手術が挙げられます。
悪性化が心配される点や、早期の摘出の方がより簡単に全摘出できる可能性があるためです。しかし、手術には必ず後遺症などの心配もあります。
後遺症も含めて把握した上で、治療を行うことが大切です。手術や病気について疑問がある場合や身体に少しでも症状や違和感を覚えた場合には、専門の医療機関に相談しましょう。
参考文献
神経鞘腫(慶応義塾大学医学部外科 脳神経外科学教室)