顎の骨が足りなくてもできる「ショートインプラント」とは? メリット・デメリットを歯科医が解説

写真拡大 (全4枚)

インプラントと一口にいっても、メーカーや製品の種類によって太さや長さ、形状が異なります。今回ご紹介する「ショートインプラント」は、従来のものより短いインプラントです。インプラントが短くなると、どのようなメリットがあるのか、また維持力には問題ないのかなどを「小室歯科・矯正歯科近鉄あべのハルカス診療所」の小室先生にお聞きしました。

ショートインプラントとは? 従来のインプラントとの違いを歯科医が解説

編集部

「ショートインプラント」とは、どのようなインプラントなのでしょうか?

小室先生

インプラントは顎の骨の中に埋め込む人工歯根(インプラント体)と歯の代わりとなる人工歯(上部構造)、この両者を連結するアバットメントの3つのパーツから構成されます。ショートインプラントはこれらのインプラントの部品のうち、骨に埋め込む「人工歯根(インプラント体)」の長さが従来のものより短いインプラントのことです。

編集部

ショートインプラントの具体的なサイズや従来のインプラントとの違いを教えてください。

小室先生

従来型のインプラントの人工歯根は長さが8~13mmですが、ショートインプラントはそれよりも短い4mmや6mmの人工歯根を使用します。一般的な定義としては長さが8mm以下のものをショートインプラントと呼んでいますが、実際の診療では6mm以下のものがよく使われています。

編集部

インプラントは人工歯根が骨と結合することで維持されると聞きます。短くても予後に影響はないのでしょうか?

小室先生

ショートインプラントは長さが短い分、直径を太くすることで骨と密着する面積を広くしているため、8mmに満たなくても成功率や予後には影響がありません。ショートインプラントは誕生からすでに20年以上が経過しており、国内外でその臨床実績は評価されています。

ショートインプラントはどんな人におすすめ? ショートインプラントで手術が受けられる人の条件は?

編集部

ショートインプラントは、どのようなケースに用いられるのでしょうか?

小室先生

インプラントで骨の高さが足りない場合に治療の難易度を高くするのは、神経や血管など重要な組織の存在です。例えば、下顎には「下歯槽神経」という神経が通っています。下歯槽神経を傷つけずに手術を進めるためには、骨にある程度の高さが必要になります。そのため、通常であれば骨を増やす「骨造成」という処置をおこなうのですが、ショートインプラントを用いれば骨造成をしなくてもインプラントを入れることが可能になります。

編集部

つまり、骨が少ない場合に骨造成をしなくても安全にインプラントが入れられるということですね。

小室先生

そうですね。また、上顎の場合も「上顎洞」という空洞までの距離が近い場合にショートインプラントを用いると、人工骨や自家骨で厚みを持たせてインプラントを埋入するサイナスリフトのような大がかりな骨造成も必要なくなります。骨造成をしなくてもインプラント治療が可能になるため、できるだけコストを抑えたい人、あるいは治療期間を短くしたい人にショートインプラントはおすすめです。また、複雑な処置が必要なくなる分、治療による身体的負担も少なくなるため、体調面に不安のある人や高齢者にもメリットは大きいでしょう。

編集部

ショートインプラントにできないケースはありますか?

小室先生

ショートインプラントは従来型よりも直径が太いため、もともと骨が薄い前歯には不向きです。また、前歯以外でも埋入する部位に骨の厚みが足りないケースでは、骨造成が必要になる場合があります。

ショートインプラントによるインプラント治療のメリット・デメリット

編集部

ショートインプラントのメリットを教えてください。

小室先生

従来であれば骨移植やサイナスリフトなど骨を増やす処置が必要なケースでも、ショートインプラントを使えばその処置をしなくてもインプラント治療が可能になります。それにより手術による身体的な負担、痛み・腫れなどのストレスを軽減できるほか、治療期間も短くすることができます。

編集部

反対に、ショートインプラントのデメリットについても教えてください。

小室先生

「骨を増やさずにインプラントが入れられる」というメリットの一方で、骨を増やさないので歯ぐきのラインが綺麗に揃わなかったり、被せ物の形が少し不自然になったりすることがあります。また、骨の量があまりにも少ない場合は、ショートインプラントが使えないこともあります。

編集部

最後に、読者へメッセージをお願いします。

小室先生

ショートインプラントは従来であれば骨造成をしないとインプラントが難しいケースでも、骨造成をしないで治療できる非常に画期的なインプラントです。複雑な処置が省略できるため、身体的負担も少なく、余計なコストや時間がかからない治療であると言えるでしょう。その一方で、デメリットもあります。インプラント治療に際しては長所と短所のそれぞれを理解して、担当歯科医とよく相談したうえで選択していきましょう。

編集部まとめ

従来のインプラントは人工歯根の長さが8~13mmであるのに対して、ショートインプラントは6mm以下と短いのが特徴です。その利点は、神経や血管など重要な組織までの距離が短い場合に、骨造成など複雑な処置をしなくても安全に治療ができることにあるようです。ただし、ショートインプラントは適応の条件があるため、まずは自身のケースではショートインプラントが適応できるか歯科医によく相談してみましょう。

近くの歯医者を探す