購入時は大きな期待をかけられたにもかかわらず、満足な活動ができなかった空母があります。とうぜん兵器としての役目は果たさない方が平和でいいのですが、今回紹介する3隻は通常の任務も怪しかったようです。

機材老朽化! 予算不足! 満足な活躍をできなかった空母たち

 よくプロスポーツの世界では、鳴り物入りで移籍した海外選手、いわゆる助っ人外国人がケガや環境の違い、そもそもの身体能力の低下などで、ほとんど活躍できず、その結果ファンたちから「金返せ」などと言われるパターンが時折見受けられます。

 似たようなケースは軍艦にも存在します。大きな期待をかけて他国から購入したにもかかわらず、満足な任務をこなすことができなかった空母。なかでも代表的な艦を3つ選んで紹介します。

現在進行形で置物化している「チャクリ・ナルエベト」

 1992年3月にスペインのバサン社に発注され、1996年1月に進水した「チャクリ・ナルエベト」は、もともとバサン社がスペイン海軍向けに建造した軽空母「プリンシペ・デ・アストゥリアス」の縮小改良型といえるものです。1997年8月に就役すると、タイ海軍初の空母、かつ東南アジアで初めてのジェット戦闘機運用が可能な新造空母として注目を集めました。


停泊している「チャクリ・ナルエベト」(画像:タイ王国海軍)。

 すでに就役から四半世紀以上経つ「チャクリ・ナルエベト」ですが、退役こそしていないものの、現役とも言い難い状態です。というものも就役直後の1997年7月より始まったアジア通貨危機により、国防予算が大幅に縮小されたことで、タイ海軍のなかで最も“金食い虫”ともいえる同艦は、1か月のうち1日程度しか航海に出られない状態に陥ったからです。

 加えて、艦載機としてスペインから格安購入した中古の「ハリアー」垂直離着陸戦闘機、スペイン名AV-8S「マタドール」が、2000年代中期に運用を停止。これにより「チャクリ・ナルエベト」は事実上ヘリ空母となり、まともな任務にもつけない状態のまま、事実上の飼い殺し状態になってしまいます。

 その巨体を活かして2004年に発生したスマトラ島沖地震では救援活動に従事し、いったんは活躍の場を得たものの、その後は観艦式以外でほとんど任務に出ることがなくなります。2023年現在は、母港のあるラヨーンにほぼ停泊し続けており、任務のないときはタイ国民に一般公開されているそうです。

 退役せずともすでに記念艦のような扱いで、ネットで検索するとタイ国民が甲板で撮影したフォトジェニックな写真をいくつも確認することができます。とある旅行サイトで同艦のレビューを確認すると「景観がキレイでコーヒーが美味しい」「入場無料で軽食や飲み物も楽しめます」といったおよそ軍艦とは思えないようなコメントが並んでいるのに驚きます。

 長らく置物化している同艦ですが、一時はF-35Bの導入が検討されたこともあり、その計画が流れた後も、最近ではドローン用空母としての運用も模索されているのだとか。それらを鑑みると、タイ海軍はまだ同艦の運用を諦めていないといえるでしょう。

 ちなみに、同艦内部の見学はタイ国民ではないと不可能のようで、筆者(斎藤雅道:ライター/編集者)としては残念です。

退役後も解体を巡って紛糾! 最期は自沈の「サンパウロ」

 2022年末から2023年2月にかけて、その処分方法を巡って紛糾したことで記憶にも新しいのが元ブラジル海軍の「サンパウロ」です。


アメリカの原子力空母「ロナルド・レーガン」(奥)と「サンパウロ」(画像:アメリカ海軍)。

 元々は、フランス海軍の空母「フォッシュ」で、クレマンソー級航空母艦の2番艦として1963年7月に竣工しています。フランスでは姉妹艦の「クレマンソー」と共に、1970〜1990年代にフランス海軍が行った主要な軍事行動には全て参加し、アメリカ海軍以外の西側空母として存在感を発揮しました。

 それを2001年にブラジル海軍が買い取り再就役させたのが「サンパウロ」ですが、2005年に火災事故を起こします。この損傷を機に、大規模な改修が施されることになったものの、その後エンジン、推進シャフト、カタパルトなどで不具合が頻発、さらに老朽化したパーツのスペア不足も重大な問題となりました。加えて2012年には再び火災を起こします。

 結果、ブラジル海軍は2017年2月に近代改修を打ち切り、「サンパウロ」の運用終了を発表します。満足に任務をこなせていたのは最初の数年だけと言われており、1200万ドル(約16億円)という空母ではかなり安い買い物だったものの、その後の改修費などを考えると余分に莫大なコストがかかったともいえるでしょう。

 さらに同艦は退役後も問題を起こします。2022年8月にアスベスト問題で、環境保護団体や野党から抗議されたトルコが受け入れ拒否するとブラジル本国へ引き返しますが、今度は母国側が入港を拒否。3か月ほどブラジル沖を漂流し、結局、環境保護団体の猛抗議の中、2023年2月3日、同艦は自沈させられました。

肝心なときに動けなかった「ベインティシンコ・デ・マヨ」

 アルゼンチン海軍の空母として、1969年にオランダから購入し、1997年に退役した「ベインティシンコ・デ・マヨ」は、元々は第2次世界大戦中に就役したイギリスのコロッサス級航空母艦の「ヴェネラブル」でした。


アルゼンチンで運用される「ベインティシンコ・デ・マヨ」(画像:アルゼンチン海軍)。

 それを戦後オランダが購入し、「カレル・ドールマン」と名を変え運用していましたが、1968年4月28日に機関室で火災が発生し、航行できなくなってしまったことから、予定を繰り上げて同艦は退役することになりました。

 しかし、これに目を付けたのがアルゼンチン。火災で損傷した動力機関はイギリスで建造途中に破棄された、マジェスティック級航空母艦「レヴァイアサン」のものを流用し、修理すれば問題なく使えるとして購入し、運用することになりました。

「ベインティシンコ・デ・マヨ」と再命名された同艦は、就役後しばらく、旧式のジェット機しか装備できませんでしたが、1972年にはA-4Q「スカイホーク」軽攻撃機を搭載。さらに、1980年から翌年にかけて飛行甲板面積の増加が行われ、フランス製のジェット攻撃機「シュペルエタンダール」の搭載ができるように設備を整えます。

 しかし、一新したとはいえ、火災によってダメージを受けていた機関は就役当初から不具合を抱えており、カタログ上の最大速度である24ノット(約44.4km/h)は出なかったといわれています。

 1982年4月に始まったフォークランド戦争では、かつての持ち主であるイギリス海軍が保有する軽空母「ハーミーズ」「インヴィンシブル」の2隻と、第2次世界大戦に続き史上2例目の空母対空母の海戦が起こるとの下馬評が多く上がるなか、ここでもオランダ時代に損傷した動力機関が問題となり出撃ができない状態となります。

 フォークランド粉争開戦時には、すでに動力機関の不具合と船体そのものの老朽化により、航空機の運用に必要なだけの速力を発揮することができませんでした。空母は発艦の際は、風上に向かって航行し、安全な発艦を助ける揚力を発生させる空気の流れを作る必要がありますが、それが不可能だったからです。

 戦争後、この速力の問題をなんとかするために。主機をディーゼルエンジンに換装する計画も立てられましたが、資金の問題で1997年に退役が決定。この退役で空母を失ったアルゼンチン海軍は、前述のブラジル海軍の「サンパウロ」を借りて訓練したこともありました。