本当に「無料」がいいのか日本の高速道路! 理想に思えた償還主義が引き起こした「詐欺」

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■2115年に高速道路無料化…ホントにできる?

日ごろ一般庶民の多くがこの国の中枢の失政や悪手に対して覚える失望や怒り。1月14日に報じられたニュースには、ある意味そうした感情さえ無力化し、完全な思考停止に陥らせることが狙いなのではないかと思った。

「国土交通省が高速道路の料金徴収期限を2065年から、さらに50年延長する方針を固めた」という一報だ。23日開会予定の通常国会に関連法の改正案が提出されるという。

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国は小泉政権下の2005年、道路関係4公団(日本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団)を民営化。約40兆円もの債務は料金収入で2050年までに返済し、その後は全国の高速道路を無料開放することに決まった。しかし、これには将来的な改修や更新の費用が見込まれていなかった。

2009年には高速道路無料化をマニフェストの一つに掲げた民主党が衆議院選挙に圧勝し、鳩山政権が誕生。無料化に向けた社会実験をスタートさせたものの、財源不足と東日本大震災の発生によって中止に追い込まれた。

自民党が復権し第2次安倍内閣が発足する直前の2012年、中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故が発生。全国高速道路の老朽化対策費を賄うべく、2014年には料金徴収期限が2065年まで15年延長されたのだ。

2065年でも今から40年以上先で、けっこうな“未来”である。日本自動車工業会が国の方針を受けてカーボンニュートラル達成の目標にしているのは2050年。その15年後だから、自動車は再生可能エネルギーで走るZEVがごく当たり前になり、自動運転車も普及が進んでいるかもしれない。今アラカンの筆者はおそらくあの世に行っている。

その2065年から、さらに50年延長である。2115年。90年以上も先となると世の中がどうなっているのか想像もつかず、高速道路無料化は荒唐無稽なハナシになってしまった。新聞各紙は事実上の棚上げや撤回などと報じているが、SNSで「国家レベルの詐欺」と非難の声があがるのも無理はない。国交大臣は担当の最高責任者として恥を知るべきである。



■タダより高いものはない

ただ、「高速道路は将来タダになる」と今現在も本気で思っている人は、はたしてどれくらいいるのだろうか。

建設の借入金を通行料金で一定の期間内に返済し、そのあと無料開放する償還主義。実際にそれが叶った道路・橋・トンネルは全国にたくさんある。筆者の身近なところでは、例えば神奈川県の箱根新道。2011年に無料化されて料金所を初めて“素通り”したとき、「有料道路ってホントにタダになるんだ」と思ったものだ。

しかし、いわゆる高速道路はといえば、東名・中央道で毎年恒例の大規模集中工事、管理・維持費も莫大であろう東京湾アクアライン、首都高でついに始まった日本橋区間地下化事業(完了予定は2040年)などを見るだけでも、無料開放される日は未来永劫来るとは思えない。

日本の高速道路は有料でいい。日本は欧米などに比べて橋やトンネルといった構造物が圧倒的に多く、管理・維持にも相当なコストがかかるというから、それを通行料で賄うのはごく自然なことだ。

その代わり、料金を恒久的に安くすればいい。今は物価高騰が庶民生活を苦しめているが、それよりずっと前から日本の高速道路料金はあまりにも高すぎる。これを現在の3分の1や4分の1に引き下げるだけでも、国内観光の活性化や物流コスト低減などに絶大な効果を発揮する。輸送コストの大幅な低減は地方創生という国家戦略にも非常に大きな武器となるはずだ。民主党による無料化は頓挫したが、地域経済の活性化という狙いはまったく間違っていなかった。

驚愕の片道4000円でスタートした東京湾アクアラインが、ETC導入で2320円、そして現行の800円に割引され、もはや後戻りできない経済効果や地域発展を生み出したのはご存じのとおり。高速道路料金の設定は、ETCを使って長距離になるほど割引率を高くする、あるいは今流行りのサブスクで定額走り放題にするなど、方法はいくらでもある。

値下げに必要な財源を問題にするなら、その前に一般財源化されたガソリン税や自動車重量税などの道路特定財源を元に戻してほしい。理想に思えた償還主義は、もはや国が現在の集金システムを維持するための建前にすぎない。詭弁といってもいい。「タダより高いものはない」のである。

〈文=戸田治宏〉