持続可能な社会をつくるための「SDGs」。2030年までの達成をゴールとした「持続的な開発目標」を指し、世界的に注目されています。一見難しそうに感じますが、じつは私たちの暮らしのなかに取り入れられることがたくさんあります。今回のテーマは「長く使う革製品」について。SDGsに詳しいフジテレビの木幡美子さんにつづってもらいました。

本当はサステナブルな「革製品」。その理由とおすすめ品

新しい年が始まりました。今年の年末年始は旅行などにいかれた方も多かったのではないでしょうか。私は、とくに遠出などはせず、やり残したことをひとつひとつ片づけながら、のんびりと過ごしました。

●年末は愛用の革製品のお手入れで気持ちもリセット

個人的な恒例行事なのが、革製品のお手入れ。日々使っている革製品を全部出して、1個ずつ汚れを落とし、保護ローションでうるおいを与えます。最後に布きれでピカピカにして、完了!

「1年間ありがとう」そんな思いを込めてみがきます。
この作業をやりながら、まもなく終わる年を振り返りつつ、新年に向けてリセットする大事な時間でもあるのです。革製品は使えば使うほどいい風合いになっていくので、まるで一緒に年を重ねていくような感じで愛着がわいてくるものです。

●ここ数年革製品を使う人が減少

でも最近、街で若い人たちを見ていると、革製のものを使っている人が少なくなっている気がします。バッグもコットン製のものを持っている人が多し、靴も革靴よりスニーカーをはいている人が圧倒的に多い。

経済産業省のデータによると、この4半世紀余りの間に、国内の皮革産業の事業者数は4分の1以下に激減、従業員数でみると3分の1以下に減ってしまっているそうです。国内の「つくり手」がどんどんいなくなっているというのは、ちょっとさみしいですね。

国内の靴の年間消費量のうち、日本製の靴は1%にも満たないそうです。
革製品は、少しお高めということもあるのかもしれませんが、その分ちゃんと手入れをすれば長く使えるので、結果的にサステナブルと言えます。

●革製品はじつはとてもエコ

そもそも革製品は、人間の食用となった動物の皮を丁寧になめして、やわらかく弾力性のある素材に生まれ変わらせ、お財布やバッグなどに加工したもので、それ自体が「リサイクル・有効活用」なんです。

最近は皮をなめす過程においても、環境に配慮した方法をとっているタンナー(なめし革製造業者)も出てきています。
革製品の生産拡大に大きく貢献した、化学薬品のクロムをつかった「なめし」(原皮を皮革製品として使える状態にする方法)は、安価で大量に生産できるためかつては主流でしたが、クロムをつかうことによる環境汚染が問題となり、いまは違う方法が注目を浴びています。

●環境に優しい革製品が続々登場

SDGsをテーマにした番組「フューチャーランナーズ」(フジテレビ)でもご紹介した東京都墨田区にある山口産業は、1990年から、ミモザ・アカシアなどから抽出される植物性タンニンをつかって皮をなめしています。

クロムを一切使わないことで、環境への悪影響を減らすことができ、さらに働く人や使う人の肌にもやさしい。2015年には、すべての生産をこの環境にも人にもやさしい方法にきり替えたそうです。

私が毎日愛用しているこのノートカバーも“やさしい革”でつくられたものです。

とてもやわらかい仕上がりで、使えば使うほど深みのあるいい色になってきます。

 

“獣害”とされた野生動物の命を無駄にしないために

温暖化や人為的な要因で、いま自然界の生態系が変わってきています。

敵が減ったことで数が増えた鹿やイノシシなど動物が人里におりてきて農作物を荒らすなどの被害が出ているため、人の手によって駆除されているのです。その数は年間約160万頭に及ぶとか。

“獣害”などと言われていますが、それは人間から見たら「害」なのかもしれませんが、そういう状況をつくった要因のひとつに地球温暖化があります。気温が上がって積雪が減り行動範囲が拡大したことで、冬を越せる野生の動物が増えたのです。

温暖化は、人間活動が原因と断定されました。そう考えると、“駆除”で奪われた生き物の命を、人間が最後まで無駄なく使いきるというのは、とても意味のあることなのです。

●サステナブルな革製品のことをもっと知ろう

こちらは、駆除された鹿の皮でつくった“ジビエレザー”のジャンパーです。

捕獲された鹿の肉はジビエに加工され、皮は山口産業でなめしたあと墨田区の革加工会社でジャンパーに仕立てられます。私も着てみましたが、革がとてもしなやかで着心地がよかったです。なにより、動物の命を大切にしたいという多くの人の思いがつまっているのが魅力的です。

生きものたちの命のつながりのことを「生物多様性」と言います。
地球上の生きものたちは、すべて直接的・間接的につながり合っているのです。

革製品のサステナビリティについては、あまり知られていないと思いますが、知ることで革に対する考え方が変わったり、大切に使い続けてもらえたらうれしいです。