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質感高い「最近のランドローバー」

撮影:Daisuke Ebisu(戎大介)

2023年のお正月の間、ランドローバー・ディスカバリー・スポーツPHEVを借りて約400kmほど試乗してみた。

【画像】ディスカバリー・スポーツPHEV仕様と走った400km【充電の様子など】 全25枚

その最大の目的は、PHEVがBEVと比べてどの程度有効であるか、ということの検証であった。


今回試乗したのは、ランドローバー・ディスカバリー・スポーツRダイナミックHSE P300e。2代目のディスカバリーを社用車として使用していた筆者は、最近のランドローバー社の製品の完成度は高いという。    戎大介

実際にステアリングを握ってみてまず思い出したのは、昨年初めまで乗っていたレンジローバー・イヴォークの感触である。

ドアを開けシートに座りエンジンをスタートさせる、といった当たり前の手順を踏んでいって、すぐに判るのは、すべてのタッチが上質感にあふれ誠に気持ちが良いのである。

例えば、ドアの閉まり音やパネルの合わせ、スイッチ類の操作の感触の良さなど、最近のランドローバー社の製品のクオリティは、車種を問わず非常に高いレベルに達していると思う。

わたしの経験では、20年ほど前、2代目のディスカバリーを社用車として使用していたことが思い出される。

その当時、とても使いやすいSUVとして重宝していた記憶があるが、クオリティに関してはそれほど良いとは思わなかった。

しかし、現在のディスカバリーはイヴォークとほぼ共有するシャシーで、隔世の感がするほど完成度は高いと思う。

400km走行 「楽しいクルマ」

さて、今回試乗したのはディスカバリー・スポーツのPHEV仕様である。

カタログデータによるとEV仕様で66.1km走行が可能であり、7kWの普通充電器で満充電にするには132分かかるという。


ディスカバリー・スポーツのPHEV仕様は1.5L 3気筒エンジンを搭載。心もとないと感じていたが、実際に試乗すると印象は良かった。    戎大介

7kWという充電器にお目にかかったことは無く、おそらく本国でのデータだと思われるが、車載のリチウムイオンバッテリーは15kWhであるというから数値的にはほぼ合っている。

対して、フロントに搭載されるガソリンエンジンは1.5L 3気筒で147kW/200psを発生する。

エンジンはフロントホイールを駆動し、モーターはリアの駆動を受け持つ。

わずか1.5Lの3気筒エンジンは、これまでの感覚からいえばやや心もとないと感じてしまうが、実際にアクセルを踏んでみるとそんなことは杞憂であることがすぐに判る。

エンジン音は乾いた独特のビートを奏でて3気筒であることを主張している。

EVで走るときはこの特徴的なビートが無くなるのですぐに判る。加速はなめらかで、必要にして十分であり不満は無い。

乗り心地も速度域を問わず安定していて剛性も高く、妙な突き上げとか不快なビビリなど皆無だ。

軽めの操舵力のステアリングもやや反力が強いものの、基本的には狙ったとおりのラインをスムースにトレースできる。

今回の試乗は総走行距離が400kmを超えたが、総じてストレスフリーでステアリングを握っている限りにおいては、とても楽しいクルマと感じた。

充電と給油の手間 PHEVの真価は?

しかし、今回の試乗でPHEVの真価は、と聞かれるとやや微妙な結果であると思う。

そもそも、PHEVはなぜ存在するのか、という話になってしまうのだが、わたしのようにすでにEVを当たり前に毎日乗っている身からすると、わざわざガソリンスタンドに寄って給油をしさらに充電器で5時間(3kWの充電器の場合)も充電をおこなった結果としての燃費の改善は、無いわけではないが目を見張るほどでは無かったのである。


ガソリン仕様よりも燃費は良いが、充電と給油の双方の手間考えるとPHEVの存在意義に疑問は残る。    戎大介

実際の数値でみると、今回の総走行距離は434kmであり、この間にゼロから満充電までポルシェの8kWで2回充電をおこない、さらにもう1回は68%までで止めた。

したがって合計約2回半の充電でおよそ40.7kWの充電をおこなったことになる。

そして、試乗の最後にレギュラーガソリンを34.57L給油したので、いわゆる燃費は12.55km/Lという数値となった。

これを費用で換算すれば、40.7kW×20円(1kWh当たり)=814円と、34.57L×161円=5566円となり、合計推定費用は6380円となる。

この距離をディーゼル仕様で走ると、イヴォークでのわたしの経験から平均的におよそ11.36km/Lの燃費が出るので、費用としては140円×434km÷11.36=5348円となってしまい、ディーゼルに軍配は上がる。

一方、ガソリン仕様の公式燃費は9.6km/Lであるから、計算するまでもなくPHEVの方がずっとマシだが。

また、仮に数年以内にデビューするはずのEV版が、ジャガーIペイス並みのバッテリーを搭載しているとすると、90kWhで航続距離が400kmを超えるはずなので、その際の費用は2000円足らずとなり圧倒的にコストは安い。しかも充電は1回で完了するはずである。

PHEVはEV普及の橋渡しになる?

結局、車両購入コストを考慮せず単純に燃費だけで比較すれば、EV<ディーゼル<PHEV<ガソリンの順になってしまう。この数値はPHEVにとってはあまり好ましくはない。

メーカーのカタログ値の燃費は62.5km/Lというビックリするような数値になっている。


PHEV=過渡期の産物は、EV普及の橋渡しとなるのか。EVの普及にはインフラ整備を始め、まだまだ大きなハードルが沢山ある。    戎大介

充電を頻繁に繰り返せばこの数値は可能だと思うが、現実には何度も充電をするぐらいなら、BEVにしてしまった方がバッテリー容量が大きい分、回数も減って楽だし、果たしてこのクルマを購入する層のうち、何人が実際に充電をするかという疑問も付きまとう。

しかし、雪国の大雪による渋滞情報などを見るにつけ、EVで電気が空になったら大変だと思ってしまうのだが、そのような時にはPHEVのメリットが生かせる可能性がある。

無論、カーボンニュートラルという世の中の流れがあり、それに少しでも沿ったクルマを生み出す、というのはメーカーの使命であろうが、複雑な構造、そして生産の手間、ユーザーの利便性などを総合して考えればPHEVは過渡期の産物であるということに間違いは無い。

この欄で何度も書いているように、EVの普及にはインフラ整備を始め、まだまだ大きなハードルが沢山ある。

国として本気でEVを導入する気があるのなら、それらを素早く克服してゆかなくてはならないと思うのだが、はたしてPHEVがその橋渡しとなるかどうかは、まだ分からない。