特定の宗教を信仰している親をもつ子ども、「宗教2世」の存在に注目が集まっています。今回は、そんな宗教2世である従姉から勧誘を受けているという神奈川県の主婦・和歌子さん(仮名・40代)を取材しました。

「お葬式には出席できない」宗教2世の従姉

私が従姉から宗教の勧誘を受けたのは、父の死で精神的に沈んでいた矢先でした。

●親族中から距離をおかれていた家

じつは父親の兄(伯父)一家は、昔から「ある宗教」にハマっていて、奥さん(伯母)が親戚中に強烈な勧誘をかけたことで、親族たちから距離をおかれていました。

従姉は私よりも5つくらい年上。お盆やお正月など親族の集まりでたまに会ったときは、一緒に仲よく遊んだ思い出があります。

でも小学校へ上がったくらいの頃、宗教の勧誘をしてくるという話が親戚中で問題視され、ほとんど疎遠に。とくに私の母親が「毎日、毎日、しつこすぎる」といい印象をもっていなかったこともあり、次第に顔を合わせる機会がなくなっていました。

●疎遠になっていたけれど、父の訃報を聞いて電話をくれた

その宗教は、ほかの宗教の冠婚葬祭には参列してはいけないルールがあるということで、父の死を知らせてもお葬式には来られないんだろうなと思っていたのですが、「お葬式には出られないけれど、最後に叔父さんのお顔をだけでも見に行っていい?」と電話がありました。

従姉と話すのは、じつに数十年ぶり。「もちろんです」とお返事をすると、すぐに自宅まで駆けつけてくれました。

●お互い介護に苦労を重ねる年齢になっていて…

久しぶりの再会。かつては少女だった私も従姉も、すっかり中年の域に達したおばさん同士。それほど長い時間ではありませんでしたが、遠い昔の思い出話に花を咲かせました。
血のつながった間柄。親が宗教に入れ込んでいると言っても、私はそれほど抵抗もなく、昔のように彼女を迎え入れて、お互いの近況を語り合ったりしました。
私の父親は亡くなるまでの5年くらい認知症で、ずっと介護をしていたのですが、従姉も現在両親が二人とも認知症を患っているということで「お互いに親を支えるって大変だよね」という介護の苦労話もしたのです。まさか彼女とこんな話をする日が来るなんて思っていなかったので、感慨深かったです。
帰り際、「親戚同士、またなにかあったら連絡取り合いましょう」とLINEの連絡先を交換することに。このときは、まさか私が宗教の勧誘をされるだなんて思ってもみなかったです。

その人生、本当に幸せ?救い出す方法はあるのか?

父の葬儀や四十九日も無事にすませて、やっと普通の生活に戻った頃。亡くなってすぐは本当にあわただしくて悲しむ余裕もなかったけれど、いつもの生活が戻ってくると「あぁ、もうお父さん、この世にはいないんだな」としみじみ実感してしまう場面が増えました。そんな時です。ふと従姉からLINEで連絡が来ました。

●他人には言えない本音も、親族だからこそ話しやすかった

「最近、どうしてる? 元気かな?」というような内容だったので、私は父親が亡くなって数か月したら急にさみしさが押し寄せてきたことや、子どもの受験も控えているから家の中でめそめそしにくいことなど、苦しい近況を打ち明けました。

私はあまり夫や友人にもこういう話はせず、普段はどちらかというと平然を装っていたりしたのですが、元気だった頃の父親を知っている従姉だったからこそ、ちょっと吐きたくなった弱音。親が宗教をやっているからとはいっても、従姉は昔と変わらない様子だったし、私は世間一般的な親戚づき合いができたらいいなと思っていました。
従姉の方も自宅で両親の介護を一人でしているといい、パートをしながら手一杯な日常を送っている様子。お互い、他人には言いづらい愚痴をこぼし合いながらうまくリフレッシュできているのかなぁという日々が続きました。ところがあるとき、その関係に変化が訪れます。

●親は親、子どもは子どもだと思っていたけれど…

私の子どもの受験が迫っていたある日。塾にかかるお金のことやママ友間のマウンティング、そしてたまに押し寄せてくる父の死の悲しみなどが重なり、かなり精神的に削られて、ヘトヘトになってしまったことがありました。別になにか解決策がほしかったわけではないけれど、そのときのハードな状況をただだれかに聞いてほしくて、気持ちを詳細にLINEで送ったときのことです。

従姉から「ここのサイトに書いてあることを実践していけば、きっといい方向へ物事が進んでいくと思うから、元気を出して」という内容が送られてきたのです。なんだろう? と思ってあけてみると、それは従姉の家族が入信している宗教のサイト。神様がどうのこうのという教祖のメッセージみたいなものが書かれていました。

従姉は結婚もしていないし、子どももいないし、介護中とはいえご両親はまだ生きています。もしかしたら私の苦労や悲しみに対して、本当はどう反応していいかわからなかったのかなとは思いました。けれどその後もなにかにつけて、その宗教へ誘導するようなやりとりが増えていきました。

しかし、私もだんだんと冷静になり「え? このタイミングでこういうものを送ってくるんだ…」とドン引き。親が宗教に入っていても子どもは子ども、そう思っていたのですが、勧誘を受け続けて、従姉の家を嫌っていた母親の気持ちがようやくわかりました。

●宗教2世の従姉。だんだんと感覚の違いが浮き彫りに

私はそれ以降、従姉に弱い部分を見せないように、当たり障りのないやり取りをするように心がけていたのですが、向こうは教祖のメッセージが更新されるたびに、「読んでみてね」と送ってくるようになりました。

従姉の方は、コロナ禍でパート先を解雇されたり、認知症だった父親がその後、脳梗塞を発症して一命こそ取りとめたものの、半身まひが残ってしまったりしていて、大変な様子。

私は、自分が親の介護で使っていた公的な介護サービスの紹介などもしたのですが、そういうのは使えないと拒否。在宅で一人、孤独な介護を続けているのです。

介護サービスを使えないという理由が宗教なのかどうか聞けずにいるのですが、金銭的にも体力的にも行きづまっている従姉の様子を見ていると「これさえ信じていれば大丈夫」という宗教の話もまったく説得力を持たず、むしろ心配になってきます。
宗教のせいで、親戚中から距離をおかれ、冠婚葬祭にも出席が叶わず、友達はいるのだろうか。結婚できずに50歳すぎまでひとりでいるのも、もしかしたらその宗教がいけないのではないか。

勧誘の連絡がくるたびに、「あとで読んでおくね」と流してはいるものの、価値観や感覚の違いがどんどん浮き彫りになり、最近は私がこだわっていた“普通の親戚づき合い”はやはり無理だったと考えるようになりました。

●宗教2世が置かれている特殊な環境。救い出す手立てはあるのか?

今、宗教2世にもいろいろな角度からフォーカスされています。私の従姉の場合は、彼女が物心ついたときから親がハマっており、その宗教を信じて疑わない環境で育ってしまっているので、親族であってもその状況から救い出すことは極めて難しいなと感じています。
もう50歳すぎのいい大人で、私が説得したくらいで信仰から解放されるとはなかなか思えず。神様がいるから不幸ではないのかもしれないけれど、幸せにも見えません。なんとか助けてあげたい気持ちはあるのですが、どうしたらいいのかわかりません。

今はとにかく私自身が引きずり込まれないように、宗教の話が出た時点でいったん時間をおいてから連絡するようにしています。