ノコギリも持ったことがない女性たちが、荒廃した森林の杉で家を建てる! そんな驚きのプロジェクトが千葉県長柄町で進行中と聞き現地へ。最初は「家づくりをちょっと体験する」くらいの軽い気持ちで参加したはずが…。今では本職の大工さんもぴっくりの腕前に成長。そんなDIY女子たちが家づくりに奮闘している様子をレポートします。

町も巻き込み、ゼロから木の家をセルフビルド

千葉県の中央に位置する長柄町。都心から車や電車で1時間半ほどの距離ながら、豊かな自然に包まれたこの地で3年前に始まったのが、超初心者の女性たちがDIYで家づくりを行うという画期的なプロジェクトです。

【動画】DIY女子の本音トーク

 

発端は、長柄町の荒廃した植林杉。せっかく植えたのに朽ち果てるか、ムダに燃やされてしまう杉を有効活用し、なおかつ楽しめるものにできないかと、NPO法人ふるさとネッツの井上源太郎さんが木の家づくりを呼びかけました。

 

それに応えたのが、くらし情報メディア「ヨムーノ」(現在「くふうLive!」に改称)で活躍する、地元・千葉県出身で発信力、拡散力に優れたウェブライターたちです。

といっても、最初は「家づくりをちょっと体験する」くらいの軽い気持ちで参加した部員も。「初日にいきなりチェーンソーを渡され、『はい、木を切りましょう』と言われてビックリ」と語るのは、部長の増田智美さん。

 

それでもチェーンソーの使い方を教えてもらいながら杉を伐倒し、さらに1年半ほどかけて100本以上の木を加工。丸太を積み上げるログハウスとは異なり、在来工法でつくるので、ホゾや継手などの刻み加工も手作業で行いました。

 

そして昨年の夏、ついに上棟。それまでは家を建てている実感がなかったという部員たちですが、最近では自分たちでも技術の向上を実感しているとか。完成に向け、ますます作業に熱が入っています。

DIY女子部メンバーを紹介

●増田智美さん(まっすぅ)

ヨムーノDIY女子部部長。2児の母。千葉県市原市出身。結婚を機に静岡県に移り住み、ちょうどマイホームが欲しいと思っていたのでプロジェクトに参加。ウォーキングインストラクターとして活動しつつ、DIY女子部とマイホーム、夫の実家のリフォームと 3足のわらじで奮闘中。

 

●海老原葉月さん(はーちゃん)

ヨムーノDIY女子部副部長。千葉県千葉市出身。整理収納アドバイザーの資格を持ち、棚づくりなどDIYも大好き。築20年の中古住宅を購入して住んでおり、ふたりの子どもと一緒にリフォームを楽しみたいと思っていたことから、DIYと聞いて「すごく軽いノリで」プロジェクトに参加。

 

●増田夏海さん(ヤギコ)

まっすぅ部長に誘われ、2か月遅れで参加した部員で1児の母。千葉県市川市出身。「すごく不器用で、学生時代の技術・家庭科の成績はずっと2。ブキブキコちゃんと呼ばれていた私が声をかけてもらえたのがうれしかったです。こんなチャンスは二度とない!」と思い、チャレンジを決意。

 

●柴山由紀子さん(ゆっこ)

2020年に参加。千葉県香取郡出身で、東京都在住。パティシエとしてお菓子づくりに励んだ経験があり、メンバーの中でも群を抜く職人気質。現在は3児の子育て中で、ヨムーノDIY女子部の活動は育児休暇中。

 

植林された杉が放置されていた土地を借り、チェーンソーで伐採するところからスタートしました。整地し、切り倒した木は丸ノコなどを使って加工。でき上がった家は、お試し居住などもできる地域の交流の場になるそう。

 

これまでの家づくりの流れ

2019年11月に始まったプロジェクトは、設計と基礎工事のみプロに依頼し、それ以外の作業はDIY女子部のメンバーを中心に進行。

 

2019年11月、荒廃森林の杉の伐採の様子。切り込みを入れた木に受けをつくってくいを入れ、倒れる方向を確認しながらハンマーで打っていきます。ひとつひとつの作業に時間がかかることに衝撃を受けたそう。

 

2020年2月、丸太の樹皮をはぐ様子。このあとサンダーを使って表面を磨きました。

 

2020年4月に、木を加工する様子です。2021年8月には、「上棟」へと進みます。

 

2021年9月には、セルフビルドサポーター「ログ加工初級テスト」に合格。

 

2022年3月には、屋根をかけました。

 

2022年8月には、外壁塗装を。10月にはロフトをつくりました。

その後の予定
・天井/石膏ボード→仕上げ
・床/断熱材→下張り→フローリング
・壁/断熱材→石膏ボード→珪藻土
・デッキをつくる
・薪ストーブの炉台をつくる
・キッチン、洗面、浴室、収納、玄関をつくる
・外構

 

ロフトづくり開始。DIY初心者が絶賛工事中!

開始から約3年がたち、月1回のペースで行ってきたDIYもだいぶ板についてきました。最初は家ができる気がしなかったそうですが、今では家づくりの作業を心から楽しんでいます。

 

足場を使って軽々と梁に上り、ロフトをつくる作業を開始。「自分が高いところが好きなことに初めて気づきました」という増田さん(左)と、作業を指導する安島ちはるさん。

 

全員で協力して木材を運び込みます。

 

井上さんが調整しながらロフトの床板を支える根太を設置していきます。

おいしくて映えるランチもDIY女子ならではの楽しみ!

「デザートもある〜」とテンションが上がり、写真を撮りまくる海老原さん。

 

工事現場とは思えない映えランチはDIY女子部名物。

 

セルフビルドサポーターで料理人のちはるさんが、料理を担当。盛りつけもお見事!

 

マイホームの参考になり、ものづくりの楽しさも体感

おそろいの作業着に身を包み颯爽と工具を持つ姿は、DIY上級者に見える部員たちですが、上棟まではなかなか作業が進まず、大変なことも多かったそう。

「普段の生活ではこんなに体を動かすことも、こんなに重いものを持つことも、高いところに上ることもないので、いまだに毎回、筋肉痛(笑)」(海老原さん)。

 

取材日は、軒天を張ったり外壁を塗ったりする作業を実施。家の形が見えてきて、徐々に楽しめるようになってきたそうです。

 

「丸ノコで板を切るときは集中して頭の中を無にしないと、まっすぐ切れないんです。気持ちのリセットにもつながる、好きな作業です」(海老原さん)。

 

マイホーム建築中の増田さんは、自宅の壁や床を家族と一緒に塗ったそう。「ここでの経験がなければ、自分でやろうとは思わなかった。DIYのハードルが下がったし、家族も巻き込んだこだわりの家づくりができて、とっても満足しています」。

 

エアーコンプレッサーを使って、軒に張る板を留めていきます。

 

塗り壁材「ジョリパット」で外壁を仕上げていく3人。あえてランダムに塗って、味のある仕上がりにしていきます。

 

素人でも扱いやすのがジョリパットの魅力。コテで大胆に塗っていきます。

「木の加工はひとりの作業が中心でしたが、今はみんなで協力しながらチームワークで作業する機会が増えて楽しいし、やりがいも感じています」(増田さん)

町を歩いていても危険な木があると「チェーンソーがあれば…」と思ったり、建物のつくりが気になったりするそう。セルフビルドの体験を通して、それぞれに新たな世界が広がったようです。