天野(左)の移籍を指弾したのがホン・ミョンボ監督(右)だ。(C)Getty Images

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 日本人アタッカーの移籍を巡る騒動が韓国で物議を醸している。

 事の発端は、Jリーグでもプレーした韓国サッカー界のレジェンドが発した辛辣な言葉だった。1月11日、韓国Kリーグの蔚山現代を率いるホン・ミョンボ監督が、年明けにライバルクラブの全北現代に移籍したMF天野純に対して、次のように指弾したのだ。

「シーズンが終わって、彼は『お金は重要じゃない。僕は残留する』と話していた。ならばクラブに(レンタル元の横浜F・マリノスへ)レンタル料を多く払えるか打診しようと言ったが、その後に彼は全北に行ってしまったんだ。もし最初からお金の話をしてくれていたなら、チームへの貢献を考えて交渉もできただろうが、結局は彼は重要じゃないと言っていたお金のところで判断して、移籍を決めた。私に嘘をついて出て行ったわけだ。彼は私がこれまでに出会った日本人の中で過去最悪だ」
 
 横浜から蔚山にレンタルされていた天野は1年目の2022年シーズン、主力として9ゴール・1アシストと躍動。蔚山の17年ぶりのリーグ制覇に貢献していた。

 これを受けて31歳のレフティは緊急会見を実施。ホン・ミョンボ監督について、「リスペクトしています。僕を韓国に連れてきてくれた監督ですから」と話したうえで、「メディアを通じてああいう風な発言をされたというのは残念ですし、ショックでした。監督は僕が嘘つきだ、お金で選択したなんて言っていましたが、そんなことはなく、事実ではありません」と反論した。

 天野は契約延長交渉について「本気で向き合ってくれている感じがしなかった。シーズンが終わってからも、日本に帰ってからも正式なオファーはありませんでした」と主張。全北から正式なオファーが届いた翌日に急遽設定された監督とのミーティングで、「残ります」と伝えたものの、「その後もクラブから正式なオファーは届かなかった。契約延長の意思はないんだなと思いました」と打ち明けた。

 この一連の騒動を受けて、韓国メディア『OhmyNews』は「一線を越えたホン・ミョンボ。品格を守った天野」と題した記事を掲載。「ホン・ミョンボ監督の発言は正当な批判レベルを超えた『攻撃』であり、謝罪しなければならない」と糾弾した。

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 同メディアは「もちろん監督の立場からすれば、昨シーズンまでの中心選手がライバルチームに移籍するのは誰でも不快に思うだろう。また監督の主張通り、天野が交渉過程で『信義を捨てる行動』をしたのが事実ならば、批判して問題を提起することはできる」としたうえで、こう主張している。

「だが、道義的に批判される行動をしたのと、法的に問題を起こしたのは次元が違う。私生活で飲酒運転など誰が見ても社会的に物議を醸すほどの行動を犯したわけでもなく、互いに条件が合わず、天野のように移籍する例はサッカー界でしばしば行われている。ところが、ホン・ミョンボ監督は天野に正当な批判のレベルをはるかに超えた批判、個人攻撃をしたのだ」
 
 記事は、「公の場で選手を『嘘つき』と決めつけ、あえて『国籍』にまで踏み込んで攻撃するのは明らかに名誉毀損に近い。サッカー界でライバルチームへの移籍や金銭的な問題で不和をもたらした事例は多いが、一般のファンではなく公的な立場にある監督が選手をこのようにこき下ろした例は見つけるのが難しい」と続けている。

「選手が批判されるような行動をしたのが事実だったとしても、これは個人とクラブ間の契約問題にすぎない。もし海外の球団でプレーする韓国人選手が移籍で問題問題を起こし、前所属チームの監督が『彼は歴代最悪の韓国選手』と非難したとしたら、果たして誰が受け入れられるだろうか」

 また、同じく韓国の『my daily』も「ホン・ミョンボ監督が突っ走り、天野は落ち着いた対応。勝負は分かれた。二人の最初の対決は天野の勝利で終わった。天野1−0 ホン・ミョンボ」と報道。こう主張している。

「手続き上、天野は間違ったことを一つもしていない。自分の価値をもっと認めてくれた球団と手を握っただけだ。プロ選手なら当然の行動だ。プロはお金で交渉し、お金で動く。自分の価値をもっと認めてくれるチームに行くのが定石だ。一方、ホン。ミョンボ監督は口頭契約という信頼に依存していた。契約というのは計算できない部分が多い。最終的なサインをするまでは契約ではない。口でした契約は契約ではないのだ」

構成●サッカーダイジェストWeb編集部