有名大学から大企業に進む若者は見落としている…どんなに経済が不安定でも生き残れる"最強の職種"【2022下半期BEST5】
※本稿は、越川慎司『29歳の教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■大企業が大企業のまま成長するのは不可能
「大企業に入れば、倒産することはない」
「我慢して働いていれば、給料は着実に上がる」
20年前は、私自身そう思っていました。大学を卒業した私は、新卒で日本の情報・通信分野の巨大企業に入社しました。
自分が望めば、そのまま定年まで居続けることもできたでしょう。しかし、大学を卒業するときには想像もしませんでしたが、転職や起業を経験し、マイクロソフトでは「働き方」がそれ以前のモデルとはまったく違ったものになっていく様子を肌身に感じる体験をしました。
そして2022年の現在、独立し、800社を超えるコンサルティングを通じて、「大企業が大企業のまま成長し続けることはもはや難しい」と確信するに至りました。
■新卒の3分の1が辞める現実…
いまだに大企業に有利な点があるとすれば、それは、「学歴の高い従順な学生を採用しやすい」ということぐらいではないでしょうか。にもかかわらず、「いい大学」「いい会社」を目指す学生が後を絶ちません。
これは、就職活動に明け暮れる学生が悪いのではなくて、登り切った階段の先で「あがり」を迎えた親世代の固定観念の影響にほかなりません。
「いい大学、いい会社に入れば、安定・安心を手にして、“いい人生”を送ることができる」という画一的な価値観を刷り込まれてきた結果です。
一方で大企業の側は、その規模を維持・拡大していくために、俗に「3分の1が辞めてしまう」といわれる状態であるにもかかわらず、大卒新入社員を大量に採用し、過去の栄光にしがみつく年配社員に高額な給料を払い続けています。
これが果たして「安定した企業」といえるのでしょうか。残念ながら、これが現実なのです。
■会社に一生涯の保証を求めるのは限界
事実、私が新卒入社した1996年の株式時価総額ランキングトップ10のうち、現在でも変わらず残っているのは何社かわかりますか。答えは「たった4社」。
日本の株式時価総額の上位であるトヨタ自動車の豊田章男社長が、2019年5月に「なかなか終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言し、大きな話題になりました。大企業に入ったら退職するまで安定していて、給料が着実に増えていくというモデルは、もはや現実的なものではなくなっているのです。
だからといって、「ベンチャー企業に入れ!」「自分で起業しろ!」と言いたいのではありません。
これからの時代を生きる学生、20代、30代は、自分のいるフィールドにおいて、正しいスキルアップの方法を身につけること、しかも、その努力を絶え間なく継続することが必要不可欠だ、と言いたいのです。
■ビジネス人生はRPG
ロールプレイングゲーム(RPG)にたとえるとわかりやすいでしょう。
たとえば、ドラゴンクエスト(ドラクエ)のゲーム序盤に経験値を稼ぐモンスターとして最も有名なのは「スライム」かもしれません。でも、ザコキャラを倒し続けてレベルアップできるのはごく初期段階だけ。
個人で戦い、十分にレベルアップをしたら、今度は仲間を増やしてパーティー(チーム)を作っていく。そして、より遠くへ冒険の旅に出る。
外部環境と自分の能力、そして、ちょっとだけ将来を見据えて、行動を変えていきながらレベルアップし、より強いモンスターと戦い、活躍のフィールドを広げていく。しかもそれを、オープンワールド化する世界で行っていく──。
雑草はどんな環境でも生き抜くことができる最強の生物です。それが可能になったのは「変わること」と「変わらないこと」をしっかり見極めて、自分が変わることに注力したからです。そのため、外部環境の変化に対応しやすいのです。
ビジネスの世界を生きる私たちも同じです。現在所属している企業・団体などに依存することなく、世の中の変化にアンテナを張り、自分の行動を少しずつ変えていく。
それを継続できる人だけが、変化の激しいこれからの時代を生き抜き、成長を続けることができます。
■役員の肩書を捨て、冒険の旅へ出る
身をもって変化を体現しようと、2016年末をもって、私は11年半勤めたマイクロソフトを卒業しました。
最後はWord、Excel、PowerPoint、クラウドビジネスの担当役員を任されていたため、「なぜ辞めてしまうの?」「もったいない」と多くの言葉をかけられました。
退社直後に株式時価総額世界一となったマイクロソフトにそのまま在籍し続けていれば、安定した給与をもらうことはできていたかもしれません。その可能性は否定しません。
しかし、マイクロソフトを卒業してすぐにわかったことがあります。それは、私が高いレベルでビジネスを行うことができていたのは、マイクロソフトがそのための環境を用意してくれたからだ、という身も蓋(ふた)もない事実です。
あたかも社員個人が、実力でその高いステージに登ったかのような錯覚に陥(おちい)れば、慢心して自分磨きを怠(おこた)ってしまいます。
私自身、あのまま在籍していたらそうなったかもしれない、と強い危機感を覚えたのが2017年の起業直後のことでした。
■人生を変えた「ある出会い」
私は仕事が大好きで、寝食を忘れて働くこともありました。そのおかげで体を壊し、出社できなくなる経験もしました。
とくに私の場合は、仕事に取り掛かってエンジンがかかると長時間の作業を続けてしまう癖があり、睡眠不足に陥ることも度々でした。
関わるビジネスに対する関心が広がり、それはさまざまな業界に及んでいきました。興味本位で仕事を増やし、でも長時間労働から脱出できないという状況は長く続きました。
こうした悩みに直面していた2014年に、米国のシリコンバレーのオフィスで、変わったインド人に出会いました。彼は、マイクロソフトの社員ではなく、個人事業主としてデータセンタープロジェクトに参画していました。
機密性の高いデータセンタープロジェクトに入るには相当高いハードルを乗り越えなくてはなりません。しかし彼は、そのような待遇を受けるに値する、特別な経験を有した超スペシャリストだったのです。
■複数の巨大IT企業を股にかけるスペシャリスト
彼は英語があまり得意ではありませんでしたが、過去の経験をもとにしたプレゼンテーションは多くの人を魅了し、次々に重要事項を決定へと促していました。私も負けじと英語で議論に参加しましたが、何度も彼に論破されてしまいました。
落ち込んで宿泊先のホテルに帰ろうとしたところ、突然、彼が私に「一杯飲みに行かないか? その代わり、君のおごりだぞ(笑)」と声をかけてくれたのです。
アルコールを飲めない私はそうした誘いを受けることが少ないのですが、彼自身に興味があったので、オフィス近くのレストランに飲みに行くことにしました。直後に日本とのオンライン会議が入っていたため、「1時間だけ」と決めて。
飲み始めるやいなや、彼は「面白いものを見せてやる」と言って、複数の会社の入館証を見せてくれました。マイクロソフトのみならず、他の著名なIT企業も含め、実に4つのプロジェクトに参画していたのです。
さらに驚かされたのは、データセンターに関することだけでなく、オンラインサービスやワインの輸出に関する企画など、多種多様なプロジェクトに参画していたことでした。
■「アグリゲーター」という理想の職種
「名刺も複数持っているの?」と私が聞くと、「これしかない」と言って1枚の名刺を見せてくれました。そこに書かれていた肩書は「アグリゲーター」というものでした。
「アグリゲーター」とは、人・モノ・情報を瞬時に組み合わせてクライアント企業の課題を解決する新しい職種や働き方のことです。
■要素を組み合わせて解決する能力
2000年前後のITバブルでは、「デザイナー」と呼ばれる職種が開発者とビジネス専門家の間に入って、多くのビジネスを創り出していました。アグリゲーターはそこからさらに進化した職種で、さまざまな業界の人を巻き込んでプロジェクトを推進する役目を担っていました。
このアグリゲーターこそ、当時の私がぼんやり考えていた理想の職種でした。
いま振り返れば、この「要素を組み合わせて解決する能力」こそ、これからの時代の、垣根のないオープンワールドを生き抜くために必要になる、と確信した瞬間でした。
■オープンワールドのまったく新しい働き方
こうして私は、限られた時間で成果を出し続ける働き方、そして、「アグリゲーター」という新たな職種にトライするべく起業を決めました。
マイクロソフトを卒業した翌日にクロスリバーという法人を立ち上げ、全メンバーが週休3日で週30時間稼働、完全リモートワーク、副業(複業)しないと入れず、そして、睡眠時間は毎日7時間というアグリゲーター集団を結成しました。
オープンワールドで、まったく新しい働き方の実験を継続するべく、みずから実行に移したのです。
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越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)