純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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正式名は「ソーマキューブ」。「ソーマ」は、古代ギリシア語で、body、体、のこと。魂に対する肉体、表面に対する本体のこと。だから、ソーマキューブというのは、中空ではなく、立方体に立方体が詰まっている、ということ。高価な純正ものもあるが、ホームセンターの工作パーツなどで純正ものと同等のものを自作するのも簡単だし、むしろ百均で「IQパズルブロック」の名前で売っているパチものが、じつはすばらしい。店で見かけたら、ぜひ3パックをまとめ買いしよう。理由は後で説明する。

しくみはかんたん。立方体4個がくっついているものが6つ、3個がくっついているものが1つ。4個x6つ+3個x1つで、立方体27個分。これで、3x3x3の一回り大きな立方体を作るパズル。

1933年にデンマークの博物学者が発明したことになっていて、「Block by Block」という商品名のものが発明者の承認した「純正もの」ということになっている。また、立方体5個にしたもの(ペンタキューブ)などもあるが、数学的には美しくない。というのも、この立方体4個の6パーツが、立方体4個でできる形態をほぼ網羅しているから。立方体5個だと、キラルだらけで、収まりが悪い。

6個のパーツは、名前が付けられている。3x3x3の中に収まる以上、4個を直列はできない。だから、すくなくとも1つが横に付く。3個直列の真ん中に着いているのが「T」、端に付いているのが「L」。2個直列が平面的にずれているのが「Z」。4個連結とは違って3個だけが直角についている「V」があって、これの中央の上に4個目が乗っている台座型の「P」、左側に乗っている「A」と右側に乗っている「B」がある。AとBは似ているが、どうひっくり返しても同じにはならないキラル(古代ギリシア語の「手」)という関係にある。この純正ものの7パーツに対し、百均のパチものは、あえてキラルな「A」を排して、平面の四角い2x2x1の「S」を入れている。

さて、純正でもパチでも、3x3x3は、すぐにできるようになるだろう。純正ものだと、回転同一の組み合わせを除いても、240もの解があることがわかっている。だが、やっていればそのうち気づく、コツは3個直列のTとLだ、と。これが端から端までつっぱってしまっているので、TとLは平行またはねじれ(段差で直交)の位置になる。この先、パチものの方では、Sが面の壁を作って、他のパーツのでっこまひっこまを拒絶するので、純正ものより感覚的におもしろい。

(TL以外の5つのパーツは、1つのパーツで大立方体の1つの頂角しか担えない。しかし、それらは5つしかないから、大立方体の8つの頂角を満たすためには、それぞれ2つの頂角を担えるTとLの両方が大立方体の辺になる必要がある。しかし、そうなるとこんどは頂角が9つになってしまうので、TL以外の5つのパーツのうちの1つは頂角にならず、辺の中央だけか、面の中央だけを担う。ところが、ここにSが入っていると、Sはその形状から辺や面の中央だけの例外パーツにはなりにくく、たいてい角に来て頂角の1つを担い、むしろ例外パーツが辺や面の中央に顔を出すことを妨害することになる。)

この3x3x3の240とおり(Sを含むパチものだと、おそらくもっと少ない)をぜんぶ探り出すのもいいが、そういうのは抜け目の無いように慎重に数える数学者のやる作業。シロウトのパズルの楽しみとしては、3パックを合わせて、もっと大きな別の立体を作ることのほうがいい。純正ものセットでも、チンケな形のほかの組み上げ例も出ているが、まったく魅力的では無い。ぜひチャレンジしてほしいのが、4x4x4の立方体だ。

これには、どのパックのVも使わない。立方体4個連結パーツを16個使う。このとき、3x3x3のときと違って、Tの位置の縛りが解ける。パチものだと、Sを2も3つも使うかもしれない。これで、話は一気に複雑になる。1パックにそれぞれ4個連結パーツは6つ入っているから、2つが余る。最初からどれか2つを決めて除外してもよいが、これは難易度が高い。むしろ最後に何が2つ余るかで、占いもできる。もしTが余れば、いまのあなたに積極性が足りない。Lが余れば、鍵が欠けている。Zが余れば、道を変える必要がある。Pが余れば、完成に至っていない。Bが余れば、ひねりが足りない。そして、Sが余れば、大きなバックアップを探すべきだ。

また、3x3のタワーを作るのも楽しい。3x3x4=36だと4個連結パーツ9個、3x3x5=45だと、4個連結パーツ9個+3個連結V3個。これで3パック買った意味がわかるだろう。3個連結パーツVが3つあれば、どんな端数でも調整できるのだ。そして、3x3x6=54は、4個連結パーツ12個+V2個。3x3x7=63は、4個連結パース15個+V1個。3x3x8=72は、4個連結パーツ18個全部。そして、3x3x9=81は、これにV3個も入れて、3パックのパーツ全部。だたし、このとき、タワーの中に上下にパーツがつながっていない切断面があってはならない。

高価で高度なPCゲームの類いもいいが、昨今のは複雑すぎて、現実を生きるめんどうと大差ない。それよりも、ただ立方体をきれいに組み上げる。無心になって遊べる。300円そこそことは思えない楽しさだ。