ヤクルト・村上宗隆【写真:荒川祐史】

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決意のソフトバンク移籍「近藤は本当に優勝したい気持ちの表れ」

 今オフのプロ野球界は、FAやトレード、初の現役ドラフトなどで選手の移籍が激しい。現役時代にヤクルトでゴールデン・グラブ賞を7度獲得するなど名外野手として鳴らした野球評論家・飯田哲也氏は、2023年の最注目選手として、日本ハムからソフトバンクへFA移籍した近藤健介外野手の名前を挙げる。一方セ・リーグでは、2022年に日本人選手最多記録を更新するシーズン56本塁打を放ち、22歳にして史上最年少の3冠王に輝いたヤクルト・村上宗隆内野手。2人に共通するのは、のしかかるプレッシャーの重さだ。

 飯田氏は現役引退後、古巣のヤクルトで7年間、ソフトバンクでも2015年から5年間、コーチを務めた。チーム事情をよく知るだけに、「近藤がホークスを選択したのは、本気で優勝したい気持ちの表れだと思います。外野に強敵が多いことを承知の上で選んだのですから」と察する。ソフトバンクの外野陣は基本的に、右翼を柳田悠岐外野手、中堅を内野手登録の牧原大成が固め、近藤は左翼に入ることが多くなりそうだが、他にも柳町達外野手、上林誠知外野手ら実績のある選手が控えている。近藤は、大型契約を結んだことによる“活躍して当然“という周囲の目とともに、故障や不振の場合すぐにレギュラーの座を脅かされるプレッシャーとも戦わなければならない。

 とは言え、近藤がチームに溶け込み額面通りの活躍をすれば、2022年に優勝マジックを1としながらV逸を喫したソフトバンクに、大きな波及効果を及ぼすはずだ。飯田氏は「僕は近藤が入ることによって、中村(晃外野手)が生き返るのではないかと思っています。2人とも選球眼がよく、四球も取れる左のアベレージヒッターで、よく似たタイプなのです。中村も凄い打者ですが、ここ数年はいい結果が出ていなかった。近藤のそばにいてヒントを得られることがあるでしょう」と指摘する。中村は20022年には打率.253に終わったが、13年から3年連続3割をマークしたことがある実力者だ。

 何より近藤の持ち味は、出塁率の高さにある。2019、2020年に2年連続で最高出塁率のタイトルを獲得し、怪我で99試合出場にとどまった2022年も.418に達した。「近藤が4割近い確率で塁に出てくれるのですから、3番・近藤、4番・ギータ(柳田)と想定すれば、ギータが打点を稼ぐチャンスも増える。近藤が入ることによってギータも生きるのです」と飯田氏は力説する。

村上への心配「バランスを崩されなければいいなと」

 一方、村上は「村神様」が新語・流行語大賞に選出され、知名度が格段にアップした。飯田氏は「2023年こそ真価を問われます。3冠王という以上に、56発を放ったホームランバッターのイメージを全国民が持った。3月にWBCにも出場する中で、シーズン開幕へ向けてどんな調整をしてくるか」と注目する。

「若いけれど、決して天狗になるような子ではありません。ただ、周囲にあおられて、ホームランを意識し過ぎなければいいな、と思っています」との心配も。確かに、本人がマイペースを心がけていても、日本中の興味が村上の本塁打ばかりに集中すれば、やがて余計な力みにつながらないとも限らない。

「数字よりも、今まで通りチームが勝つための打撃に集中することでしょうね。チームが打ってほしい時に打つ。もともと村上本人はそういうマインドを持っているし、ここ2年間リーグ連覇の原動力となって、理解を深めたと思います」とアドバイスを送る。

「怖いのはプレッシャーです。世間から受けるものもそうだし、相手投手もこれまで以上に“村上には打たせるな“と、際どい球を増やしたり、徹底的にストライクゾーンを避けたりしてくる。それでも打たなければ──と思った時、バランスを崩されなければいいなと思います」と飯田氏は言う。若くして3冠王に上り詰めた村上だが、飯田氏はプロ選手の先輩として「苦しいのはここからです」と予告。「2023年は村上にとって、今後の野球人生の分岐点の年になるのではないでしょうか」と付け加えた。

 すでに功成り名を遂げ、輝かしい未来を保証されているようにも見える近藤と村上だが、プロの道はそうたやすいものではないようだ。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)