栃木県の昆虫愛好家の熱意で約300年前に出版されたドイツ人学者の昆虫の図譜が日本語訳され、当時の貴重な記録に触れられるようになりました。

日本語訳された図譜は、ドイツ人の自然科学者で画家のマリーア・ズィビラ・メーリアンの最高傑作とされる作品で、出版は彼女の没後の1726年。日本に3冊しかない貴重な資料が現代に蘇りました。

製本したのは、上三川町で産業廃棄物の運搬などを手がけている白石雄治さん(77)です。図譜の中には、昆虫は泥などから自然に生まれてくるものと信じられていた当時、メーリアンが観察に没頭した南米スリナムに生息する昆虫の成虫になるまでの過程が細かな解説とともに描かれています。女性が虫などを飼育して観察するという行為が魔女として迫害された時代、まさにメーリアンの情熱の結晶と言えます。

昆虫採集で世界中を旅し、関連する古い博物誌をコレクションしている白石さんは、日本ではあまりなじみがないものの、優れた作品を描き母国では紙幣になるほどの功績を残したメーリアンを知ってもらいたいと製作を決意。昆虫愛好家仲間で、この分野に明るい著名な文学者と関係があったとちぎ昆虫愛好会の新部公亮さんの協力を得て、あしかけ5年をかけて完成させました。

白石さんはこれまでに完成した図譜を県内の図書館や美術館、博物館に合わせて72冊寄贈していて、全国の都道府県にも3冊ずつ贈っています。現代にも通じる昆虫研究の成果と美しい絵画の数々。時代を超えて熱意が結集し、形となりました。