スバルが公に初披露した自動運転の実験車両(筆者撮影)

GoogleやAppleといったテック企業の参入や、日本全国各地での実証試験の実施など、一時は大きな話題となった車の自動運転。ところが、以前と比べるとテレビやネットニュースを通じてその話題に触れる機会が減った印象がある。

これは“ブーム終焉”を意味するのだろうか。それとも、研究開発期から本格普及期に向けた「最終準備段階に入った」と解釈すればいいのだろうか。

国がオールジャパン体制で進めている「SIP-adus」の試乗会で、自動運転に関わる各方面の声を拾ってみた。


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本題に入る前に、SIPについて簡単に説明しておこう。SIPは「戦略的イノベーション創造プログラム」のこと。全部で12分野あり、adus(オートメイテッド・ドライビング・フォー・ユニバーサル・サービス)はその1つだ。

SIP-adusは、デジタル庁と内閣府が司令塔となり、関係各省庁や自動車メーカー等の民間企業、大学等が連携して行う、基礎研究から事業化までを見据えた総括的な仕組みである。

9年間の成果と意義

本題に戻ろう。SIP-adusの試乗会は、東京・お台場のR地区で行われた。フジテレビ本社や商業施設「ダイバーシティ東京」にも近い空地で、これまでもさまざまな自動車関連の屋外イベントが開催されている。

今回の試乗会にはトヨタ、ホンダ、日産、マツダ、スバル、スズキ、ダイハツといった自動車メーカー、ティアフォーなどのベンチャー企業、金沢大学など教育機関、さらに日本自動車研究所(JARI)などの公的機関がブース出展して技術説明を行い、その一部で試乗車を用意した。


ダイハツの自動運転実験車両(筆者撮影)

まずは、SIP-adusプログラム・ディレクターの葛巻清吾氏が「SIP自動運転の9年間の成果と意義」としてプレゼンテーションを行った。

それによると、SIP-adusは第1期(2014年6月〜2019年3月)と、1年重複しての第2期(2018年4月〜2023年3月)で構成されている。第1期の主な成果は、高精度3次元地図のダイナミックマップを構築し、そのサービス行う企業を設立したこと。

続く第2期では、重点項目として仮想空間での安全性評価を行うDIVP(ドライビング・インテリジェンス・バリデーション・プラットフォーム)の事業化、サイバーセキュリティへの強化策、そして自動車の情報を集約したポータルサイト「MD communet」での事業マッチングなどを進めてきた。


SIP-adusのプログラム・ディレクターの葛巻清吾氏が過去9年間の軌跡を紹介する様子(筆者撮影)

葛巻氏はこれまでの9年間の歩みに対して「2014年頃はアメリカやドイツで自動運転の実用化に向けた動きが加速しており、それに対して日本は一般的に“周回遅れ”と表現されるような状況だった」と2014年頃の社会情勢を振り返った。

そのうえで「この9年間で、国連の国際協調の場で日本がさまざまな議長を務めたり、日本の道路交通法と道路運送車両法が改正されるなどして、(運転の主体を運転者ではなくクルマのシステムが担う)レベル3を世界で初めて量産化することができた」と国家プロジェクトとしての成果を強調した。

世界は今どうなっているのか?

では、現時点(2022年10月上旬)で自動運転の技術やサービスに関して世界の動向はどうなっているのか。

これに対して、技術面では「GM(ゼネラルモーターズ)傘下のクルーズと、Googleのウェイモがツートップ」、また「中国市場は事実上、アンタッチャブル」といった声が聞こえてきた。

クルーズについては、ホンダが2022年9月29日に自動運転モビリティサービス専用車両「クルーズ・オリジン」の日本仕様について開発に関する動画を公開している。


GMクルーズとホンダが共同で研究開発を進める、自動運転サービスカー(筆者撮影)

SIP-adus試乗会の現場で、同車両の開発者は「バッテリーなど(BEVとしての基本部品)はGMが主体で開発中」としたうえで、「日本での道路標識や道路環境などへの適合を進めていく」と今後の開発方針を説明した。

今回、展示したGMの小型BEV「ボルト」を使った自動運転車は、2021年9月から栃木県内のホンダの研究開発施設内で走行しているが、2020年代半ばから東京都心部で実用化するのは「クルーズ・オリジン」になる見込みだ。自動運転のレベルについては、ドライバーが運転操作から解放されるレベル4を目指す。

クルーズが自動運転の実用化技術で急激に成長していることについて、別のホンダ関係者は「(運輸省、州運輸局、地元警察など)当局との連携をしっかり行い、技術開発のトータルマネージメント能力が優れているから」という見解を示した。

また、投資金額についても巨額であることから、「ホンダが単独ではなくGMと連携することが高度な技術を早期に実用化するためには必然だ」とも指摘する。

東京都心部から実用化を進める点については、「潜在的な利用者数が多い点が重要」という点を強調した。筆者は、タクシー事業という観点で、クルーズ・ホンダは都市部での需要実態を捉えて量産効果を踏まえたうえで、地方の中規模都市へ展開していくと見ている。


ティアフォーの自動運転実験車両でお台場周辺を走行する車内の様子(筆者撮影)

また、トヨタの自動運転車である「e-Palette」については、静岡県裾野市に建設中の「ウーブン・シティ」で実装を行う流れのようだが、他の地域で具体的にどのような社会実証を進めるのかについては、詳しい情報が対外的に出てこない印象がある。

一方、地方部や中山間地域については、ティアフォーやソフトバンク系のBOLDLYなどのベンチャーが、すでに各地で行われている実証試験を踏まえて、フランスのNAVYAなど海外製BEV小型バス等を使った自動運転パッケージをトータルコーディネーションする形が、ビジネスチャンスとして考えられる。

資金力にくわえ、既存の新車販売網というインフラがある点で優位な立場のクルーズ・ホンダやトヨタ、さらには横浜や福島での実証を軸に新交通サービス事業を計画している日産に対して、ベンチャー企業がこれからどのように対抗していくのか。カギは、各地の市町村や交通事業者といかに密接な関係性が保てるかだと思う。


BOLDLYがスズキ、遠州鉄道と行った実証試験車両(筆者撮影)

オーナーカーでのレベル3は様子見?

ここまで、タクシーやバスなど公共的な交通機関である領域のサービスカーについて議論してきたが、私たち一般のユーザーが所有するオーナーカーはどうなるだろうか。

レベル3については、ホンダが「レジェンド」に搭載して2021年3月に発売したものの、その後にレジェンド自体が生産終了となっている。また、ホンダは現時点で次のレベル3搭載車の発売を明らかにしていない。

トヨタは、ダイナミックマップを使うレベル2を量産している。例えば、今回試乗したトヨタの燃料電池車「MIRAI」では、首都高速での渋滞中から通常走行時まで両手をハンドルから離しての走行が認められている「アドバンスド・ドライブ」がある。

その精度や使い勝手は、1年前に試乗した初期モデルと比べてかなり改良されていることを実感した。法的な区分けとしてレベル2とレベル3には大きな違いがあるものの、こうした実走行での体験からは、運転者としてはその差をあまり意識しない。

こうしたオーナーカーの自動運転レベルの進捗について、経済産業省の自動走行ビジネス検討会が2022年4月28日に公表した「自動走行ビジネス検討会報告書 version 6.0」では、「オーナーカーにおける目指すべき将来像の実現に向けて」として図表を示している。


日本自動車研究所(JARI)の展示ブース(筆者撮影)

レベル5に言及されなくなった理由

それによると、2022年時点はレベル1からレベル2の普及期、その後2025年頃はレベル2、レベル3の導入促進期とするも、2030年以降になってもレベル4以上へのステップアップは見込まず、「レベル2からレベル3のさらなる普及」という表現にとどめている。

一方で、サービスカーについては、2022年時点をすでにレベル4導入期としている。そして、2025年に全国40カ所を目指す導入促進期、2030年以降にレベル4の本格普及という目標設定となっている。

このversion6.0より前の資料には、サービスカーとオーナーカーが技術的および法的な連携をしながら、それぞれが自動レベルと自動運転を行う環境や条件を広げていき、最終的にはサービスカーとオーナーカーで完全自動運転であるレベル5を目指すという全体イメージが提示されてきた。それが大きく書き換えられたというわけだ。

その背景には、SIP-adusの9年間を経て、自動運転の事業性や社会受容性を鑑み、国として自動運転の普及に向けた「現実解」を考える姿勢を重視したことがあるだろう。

今後も「自動運転の行方」という観点でSIP-adusの実績に対するさらなる深掘りや、日本国内での自動運転実用化の現場から、「現実解」を念頭に置いたレポートをお届けしたい。

(桃田 健史 : ジャーナリスト)