少子高齢化が進む近年、「終活」という言葉を耳にすることが増えました。「終活」とは主に「人生の終わりのための活動」のこと。人生の最後を迎えるにあたり、様々な準備をすることを意味しています。

「一般社団法人 終活カウンセラー協会」で代表理事を務める武藤頼胡さんに終活について聞いてきた

誰にでも、「死」は必ず平等に訪れるもの。

それは私たちもそうですし、私たちの親もそう。順番こそ決まってはいませんが、いつかはそのときがやってきます。お盆や夏休みの帰省をキッカケに、久しぶりに親と会った人も少なくないのではないでしょうか。頻繁に会えないからこそ、今から親の「終活」を考えることに目を向けてほしいと思います。今回は、親子で始める初めて終活について考えてみましょう。

話を聞いたのは、2011年7月に設立された「一般社団法人 終活カウンセラー協会」で代表理事を務める武藤頼胡さん。武藤さんは全国各地で年間100回以上の講演講師を務め、メディアにも多数出演する『終活カウンセラー』の生みの親です。

もともと会社員だった武藤さんが終活カウンセラーを始めたキッカケは、"一人一人が生きがいを持つ世界をつくりたい、今をよりよく生きたい"という思いからだったそう。会社を辞めたタイミングでお葬式セミナーに参加したことが、人生の転機となったのだと教えてくれました。そんな武藤さんに気になるアレコレをぶつけてみました。

■「終活」って何だろう?

──最初に、そもそも「終活」とは、どのようなものなのでしょうか?

「終わりから生きがいを考える活動」と考えていただくのが、一番いいと思います。文字にすると"終わる活動"と書くので、言葉が悪いとよく言われてしまいますが、「限りがあるからこそ今をどう生きるか?」と考えることが大切です。人生の終焉を考えることを通じて自分を見つめ、今をよりよく自分らしく生きる活動のことを、私は「終活」だと思っています。

高齢化社会が進み、今は人生100年時代だと言われていますよね。今の日本は高齢者人口が増加を続けています。予想値として、2050年には100歳以上の方が50万人以上いると言われているほどです。なので、この人生100年時代をどう楽しく生きるか。そのための活動が「終活」と、私は伝え続けています。



──死についての準備だけでなく、楽しく生きることが前提の活動なんですね。

そうです。そう考えると、お葬式も自分が死んだあとのことではなく自分の人生の一部。もちろん、お墓も。「終活」は、お年寄りがやるものだと思う人が多いかもしれませんが、若いうちから勉強することで自分の人生をよりよくできるものなのです。

■タイミングはいつがベスト?

──では、どんなタイミングで始めるのが一番いいのでしょうか?

まだ早い、まだいいやと思っているタイミングが、まさに"終活適齢期"です。私のセミナーへ来てくださった方に、なぜセミナーに参加したのかを聞くと、もっとも多いのが"親や親戚が死んでしまって困ったから"という答えです。

亡くなる理由は様々だと思いますが、例えば、病気になるタイミングって誰も分からないですよね。お医者様に宣告されて初めて分かるものですから。でも、病気だと判明した瞬間に「終活」について考える余裕はあると思いますか? ましてや、親に「このお金はどうする?」「お葬式はどうしたい?」なんてとてもじゃないですが、言いづらいはず。

私自身、母を大腸ガンで16年前に亡くしたのですが、まさしくその状況で。ガンだと発覚した瞬間から家族の会話が変わった経験がありました。



──始めるなら早い方が良いという理由がよく分かりました。では、子どもから親へ「終活」の話題を切り出す良いキッカケはありますか?

まずは自分から「終活」について知り、実行してみることです。

例えば、友達に「おすすめのラーメン屋さん教えて!」と言われたら、自分が食べておいしかったお店を教えますよね。行ったこともないお店をおすすめする人は少ないはず。それと同じで、自分もよく分かっていないのに、親にだけ「終活」をやることをすすめるのはちょっと不自然です。

なので、知ることが大切。「終活」をきちんと知ったうえで切り出すのが一番いいのではないでしょうか。

■何から始めればいいの?

──では、いざ親の「終活」をしようと思ったとき、何から始めるべきでしょうか。

手段はいろいろありますが、有名なのはエンディングノートだと思います。でも、お盆やお正月くらいしか会わない親に、いきなりエンディングノートを持っていくのはおすすめしません。それよりも、まずは親との会話を増やすことを意識してください。

実は、65歳以上の方が一番ケガをする場所は家の中と言われています。なので、実家へ行く機会があったら、家の中の危険度チェックをすることから始めるのはいかがでしょうか。「地震がきたら倒れるものはないか?」「逃げるときはどこを通るか?」など。お父さん、お母さんのためだからと言えば、快く一緒にやってくれると思います。最初から「終活」しよう! ではなく、長く元気でいてほしいという気持ちを込めて、家の中の危険な場所を取り除くことから始めてみてください。

──確かに。最初からエンディングノートを渡すのはNG行為ですね。

私の元には、"親がエンディングノートを書いてくれない"という相談が寄せられることもあります。そのとき私が、なぜ書いてほしいのかと尋ねると、"親の財産を知らない"や"死んだあとに財産をどうすればいいか知っておきたい"と答える人がほとんど。これって結局は全部、自分のためなんですよね。

「終活」は未来を考える話。確かに親が死んでしまったらお葬式や財産分与などで困ることもあるかもしれませんが、それよりも、後悔することの方が多いはずです。私たちは親のことを何も知らない、もっと話して知っておけば良かったと。死んだあとのことを確認するより、親のこれまでを聞くこと。それが「終活」の第一歩です。



──言われてみれば、親の好きなものや、興味関心のあることを知らないかもしれません。

下手したら、親の生まれ年や誕生日を言えない人だっているかもしれないですよね。だから、まず知っていくことをおすすめします。そうしたら、だんだんと未来の話になってくるはず。自然な流れで「終活」について話せるんじゃないかなと思います。

──すごくシンプルな始め方で良いのですね。

私からすれば、「終活」は歯磨きみたいなもの。それくらい常にやっておくことだと思っています。もし本当に親が突然亡くなってしまったら、お葬式の希望を聞いていなかったとしても、普段の会話が多ければ役に立つこともあるはずです。それくらい、些細な会話も大切にしてほしいですね。

もちろん、エンディングノートを書くことも推奨しています。私の協会でつくっているエンディングノート『マイ・ウェイ』は、「私について」「身体について」「財産について」「葬儀とお墓について」「大切なあなたへ」「マイ・ウェイ」の、全部で6章構成になっています。

──項目がたくさんあるので、親と一緒に書き進めるのも良さそうですね。

ああでもないこうでもないと話しながら書くと、きっと楽しいですよ。7月に、約1500人から全国一斉終活アンケートをとったんですが、エンディングノートを書いている人が1割という結果だったんです。少ないですよね。

でも、書いていない人の中から書きたいと思っている人を聞いたら、6割もいました。書きたいけど書けないという人には、何かキッカケをつくることが必要。なので、何をしたらいいか分からないという方は、まず自分がエンディングノートを書いてから親に渡すといった、キッカケをつくるのもアリかもしれませんね。

■親子で始める「終活」においてNG行為は?

──私たち自身から始めることが大切なんですね。逆に、親子で「終活」を始めるにあたり、やってはいけないことはあるのでしょうか?

自分の目的にしないことです。あくまでも親のためということを大切にしてください。「やっておいた方が良いよ」とか「やった方が良いって言われてるじゃん」など、遠回しな言い方もNGですね。もし財産について知りたいのであれば、正直に伝えてください。「知らないと私が困るから教えてほしい」と、ちゃんと言うべきだと思います。

あとは『立つ鳥跡を濁さず』という言葉があるように、エンディングノートには恨みつらみを書かないことかな。

──「終活」が、なんだか身近に感じることができました。

100人いたら人生が100通りあるように、「終活」も100通り。「終活」は、生き支度でもあり死に支度でもあります。自分の人生を見つめ直すことで心の整理もできると思います。「終活」を親と子どもで一緒にやることが当たり前の世の中になるといいですね。

武藤頼胡 むとうよりこ 「一般社団法人 終活カウンセラー協会」の代表理事。終活カウンセラーの生みの親であり、「終活」という考えを普及すべく、テレビ、新聞、雑誌など多数のメディアに登場。また、全国の公民館や包括センター(行政)などでのセミナー講師を担い、一人ひとりに「終活」を伝えている。 この監修者の記事一覧はこちら

高橋もも子 たかはしももこ 雑誌編集部、WEB編集部勤務を経てフリーランスのライターに。エンタメ系のインタビューを中心に、生活に関する時事ネタや単発企画など多ジャンルで執筆中。芸能人の顔と名前を覚えるのが得意です。 Twitter:@m152cm_ この著者の記事一覧はこちら