中国のアフリカでの影響力の広がりに日本は対抗意識を強めている。写真はザンビアの首都ルサカのファーウェイにあるオフィス(写真:Bloomberg)

チュニジアのチュニスで開催されていた第8回アフリカ開発会議(以下TICAD、Tokyo International Conference on African Development)が8月28日に閉会しました。

TICADは、その名が示す通り、日本が主導するアフリカ諸国の開発をテーマとする国際会議で、1993年に始まり、当初は5年ごと、2013年以降は3年ごとに日本とアフリカで交互に開催されています。開会式には、岸田首相がオンラインで参加し、日本が今後3年間で官民あわせ総額300億ドル(約4.2兆円)の資金を投じることを表明しました。

日本国内では、この資金投入表明に対し、「アフリカ支援よりも、国内の新型コロナや物価高対策に資金を使うべきではないか」との声が上がっています。資金投入額の中には、アフリカ開発銀行との協調融資額や日本の民間企業による投資見込み額なども含まれているとみられるため、300億ドル全額が日本政府による支出という訳ではありません。

アフリカ支援の目的、意義を説明すべきだ

しかし、政府はしっかりとその目的や意義について国民に説明すべきと思います。同時に、近年のTICADや日本政府の支援のあり方については、いくつか気になる点があります。

まず、支援内容です。岸田文雄首相は今回、「グリーン投資」や「スタートアップ支援」を強く打ち出しました。いずれも、日本でもよく取り上げられる「成長戦略の柱」ですが、今のアフリカ諸国に優先すべき支援は、本当にこういったものなのでしょうか。

アフリカの人口は、13.2億人で、世界人口の約17%を占めます。こうした巨大な人口を抱えるアフリカは、かなり前から「アジアに続く世界の成長センター」と言われてきましたが、実際には、いまだに成長軌道に乗れていません。

本来、人口規模は国力の源であり、人口増加は「理論上」、労働力増加を通じて、経済成長に貢献します。巨大な人口を抱える中国では1990年以降、増加した労働力がまず繊維産業など軽工業に吸収されました。さらに自動車などのより生産性の高い製造業に移動することで、労働者の賃金が大幅に上昇しました。

これが巨大な消費市場を担う中間所得層を形成し、経済の好循環を生み出しました。ここで重要なことは、単純に「人口増加=経済成長」ではないということです。経済成長の実現には、増加する労働力を雇用する産業、特に、生産性の高い製造業が不可欠です。労働力が増えても、雇用する産業がなければ、失業者が増え、経済成長どころか、治安悪化等につながってしまいます。

デジタル化より製造業の誘致・育成が先決

残念ながら、アフリカの多くの国では、インフラ未整備などの問題から海外からの投資が伸び悩み、特に、製造業がなかなか立ち上がってきません。アフリカはこれまでの経済発展段階を飛び越え、一気にデジタル化などが進むとの見方もあります。

しかし、現段階のアフリカ諸国に必要なのは、人口増加というメリットを最大限に生かせる付加価値の高い「製造業」の誘致・育成と、それによって実現する雇用拡大を通じた所得の増加です。

一部のアフリカ諸国では、先進国にも負けない技術力をもったベンチャー企業もありますが、こうした分野だけでは巨大な労働力を吸収することはできません。こうした状況の中で、日本が優先する「グリーン投資」や「スタートアップ支援」は、あまりにも先に行き過ぎたもので、十分な効果が得られないのではないかと危惧しています。

AU(アフリカ連合)の議長国を務めるセネガルのサル大統領は、TICAD開会式の演説で「重要なのは食料問題での自立であり、農業生産力や輸送能力の向上などが必要」と訴えました。

これがアフリカ側の本音だとすると、製造業はもとより、そのさらに前の段階としての「農業分野のテコ入れ」が最も優先されるべき支援分野となります。先進国目線ではなく、アフリカ諸国が最も求めていることは何なのかを再確認すべき時期にきているのではないかと思います。

二つ目は「中国への対抗意識の過度の強まり」です。TICADはアフリカ諸国の経済発展支援とともに、多くの国連加盟国を抱えるアフリカとの友好関係を強める目的がありますので、日本が中国のアフリカでの影響力拡大に対抗意識を持つのは当然です。

今回のTICADでも、中国を念頭に「不公正・不透明な開発金融の排除」や「民主主義の定着及び法の支配の推進」「開かれたインド太平洋戦略への協力」などが大きな論点となりました。これらは、日頃から日本政府が主張しているもので、内容自体に違和感はありませんが、過去のTICADでは、ここまでむき出しの形で中国への対抗意識を出していませんでした。

支援規模も同様です。2019年に開催された第7回TICADにおいて、日本は、200億ドルの支援を表明しましたが、中国は、2021年に開催した中国・アフリカ協力フォーラムで400億ドルの支援を打ち出しました。

今回、岸田首相が表明した300億ドルという支援額は、この中国の支援額を意識したもので、足りない分を「人への投資」といった「日本らしさ」でカバーしたと説明されています。日中双方が提示する金額が、本当にアフリカ側が必要としているものなのか、また、「日本らしさ」という独りよがりとも見えかねない支援に、本当に効果が期待できるのか、懸念はぬぐい切れません。

支援効果より意地の張り合い?

日本と中国が争いながらも、その支援規模や内容が、本当にアフリカ諸国の発展に貢献できればよいですが、実際の支援の効果は二の次で、金額の多さや、その国らしさといった曖昧な支援合戦のような「意地の張り合い」が強まりすぎて、本来の主旨がないがしろにされてしまうことがないよう、つねに留意しておく必要があると思います。

日本の対アフリカ投資残高(2020年)はわずか48億ドルで、首位の英国(650億ドル)はもとより、中国(430億ドル)にも大きく水をあけられています。

TICAD開催のたびに、アフリカを「人口が多く、潜在成長力が高い有望地域」「アジアに続く世界の成長センター」「最後のフロンティア」などと持ち上げ、都度、見栄えの良い「支援」が打ち出されていますが、本来、評価されるべき「長期にわたる継続的支援」が「惰性」につながってしまっていないか注意が必要です。

巨額の資金投入に対する国民の理解を得るためにも、お題目的な美辞麗句はいったん棚上げして、なぜアフリカ諸国がいまだに成長軌道に乗り切れないのか、日本の支援はアフリカ諸国のニーズに合致し、経済発展に貢献できているのか、中国への対抗意識が強すぎて本来の主旨を忘れてはいないか、といった点を、冷静に再確認すべき時ではないかと思います。

(武居 秀典 : 国際エコノミスト)