スクラッチが危ない!:学習用パソコンの盲点/純丘曜彰 教授博士
コロナ禍もあって、昨年から小中学生全員に学習用パソコンが配布された。だが、子供たちの、その実際の使い方を知っているだろうか。個人情報から違法アップロードまで、この夏、もはや無法地帯だ。
問題なのは、スクラッチ(SCRATSCH)。名高いMIT(マサチューセッツ工科大学)が子供の学習用に開発したブロック型のプログラミング言語。2020年度から小学校で「プログラミング」が必修となり、また、「情報」が大学入試必須科目とされることもあって、学習用パソコンにはデフォルトでスクラッチないしスクラッチジュニアがプレインストールされている。
しかし、これは、じつは、かならずしもそのパソコンで独立に動いているのではない。主流のブラウザ版において、パソコン側はプログラムを設定するのみで、これをWebサーバー側に送り、それが送り返してきた結果を画面表示しているにすぎない。つまり、いわゆるWebアプリであり、プログラム部分は、Webサーバー側において、かんたんに多くの人にも公開共有できる。
しかるに、子供たちは、MITや学校がまったく想定していなかったようなスクラッチの使い方を編み出した。スクラッチのプログラムは、その素材に絵や音楽、音声、動画も組み込める。そこで、その主従を逆転し、行ったり来たりのようなどうでもいい無限ループ・プログラム上に素材を載せることで、その素材を不特定多数に公開配布するSNSにしてしまったのだ。
ただでさえ、一昨年来、学校が閉鎖さられ、ようやく再開しても昼まで黙食。この状況で、日本中の小中学生に一斉に学習用パソコンが配布され、そのすべてにスクラッチが入っているとなれば、そこに爆発的に日本中の子供たちが集まるのは当然。それで、いまやその中は、なんでもあり。まともにちまちまとゲームなどを作っている子供もいないではないが、自分の絵や歌を公開するならまだしも、どこかからパクってきたものを自分のプログラムの「素材」として配布し、いいねのコメントを集める競争になる。
スクラッチ側は、著作権については、使い方のお約束として、その理解も浅い子供たちに責任を丸投げ。それどころか、「著作権侵害は、著作権者以外はどうすることもできません」(https://ja.scratch-wiki.info/wiki/Japanese_Scratch-Wiki:著作権ガイド)などと責任を放棄して開き直っていて、日本でも2018年に法改正されたことを知らないらしい。そもそも、著作権侵害物を不特定多数に配信しているのは、スクラッチのサーバーなのだから、私的にスクラッチに送信しただけの子供たちと違って、むしろ、スクラッチこそが著作権侵害者ではないのか。
また、まだ表沙汰の事件には至っていないようだが、遠からずこれはかならず大きなトラブルになる。スクラッチはもとより匿名アカウントで、本人確認も年齢制限も行われていない。それで、すでに無防備で承認欲求の強い子供たちの個人情報がダダ漏れ。裸やイジメ、犯罪的なイタズラの写真や動画でも、ノーチェックで、かんたんに載せられ、広められてしまう。ヤバいロリ成人が子供のフリをしたアカウントで小中学生に近づいてなにかやらかすのは、もはや時間の問題。そうでなくても、学校を越えて、先生もいないところで見ず知らずの中学生から低学年までが関わり合えば、修学旅行の京都どころではなく、まちがいなくいずれ悶着を起こす。これらの危険性をスクラッチ側も勘づいているようで、昨年五月に、撮影機能が廃止された(https://scratch.mit.edu/discuss/topic/513228/?page=1#post-5225870)。しかし、録音機能はまだ残っている。
家庭も、いま学校配布のパソコンでプログラミングを勉強している、などという子供の話を信用してはいけない。自分の子供が大きなトラブルに巻き込まれる前に、それがどんな「プログラム」か、自分の目で見て、きちんと確認したほうがいい。