【前園真聖コラム】第390回「どうしてパトリックの退場にVARが何も言わなかったのか」
Jリーグが開幕し、とても気になることがありました。それはG大阪・パトリックの退場です。
19日に開催されたG大阪vs鹿島の前半38分、ボールを持ったパトリックに鹿島の鈴木優磨がタックルしました。倒れた鈴木がパトリックの足を持つと、パトリックが鈴木を押します。この行為に対して主審は「乱暴な行為」ということでパトリックに退場を命じました。
最初に映像を見たときは「仕方がない」と思いましたが、その後スローで見るとパトリックはそんなに強く押していないように見えました。パトリックに暴力を振るう意図はなかったかもしれないとも思えます。
だったらなぜ退場になったのか。そしてスローで見ているはずのVARはなぜ「この程度なのに退場は厳しい」と主審に助言しなかったのか分かりません。SNSを見ていると同じように感じている人がたくさん見受けられました。
そこで調べてみました。すると、VARでの正しい判断基準を知ることになりました。
まずパトリックに意図があったかどうか、どれくらいの程度だったのかについては、これは主観によってどう見るか分かれてくるところです。そしてサッカーでは主審がどう感じたかでジャッジしていいことになっています。
これはもともとサッカーにはレフェリーがいなくて、両チームがどっちのファウルなのか揉めたときに判断を求められる人としてレフェリーが置かれた名残です。なので映像では意図なく軽い程度に見えても、審判がその場にいてどう感じたかで下されたジャッジを尊重しなければいけないことになっています。
ではどうしてVARが「退場になるほどのファウルじゃない」と進言しなかったのか。
これはまずVARはその名のとおり「ビデオを使うアシスタントレフェリー(=副審)」だということです。そして試合で判断し、決定を下すのは主審1人だけで、VARはその決定を助ける役割です。
この場面で、主審が「パトリックが鈴木を『乱暴な行為』として押した」と主観的に判断すれば、VARはそれが客観的に間違っていないかどうかを確認します。つまり「パトリックが鈴木を押した」のが正しいかどうかを確認するだけで、「この程度なら『乱暴』ではない」という主観が入った判断はしないのです。
もしパトリックが押していないという事実がVARがいろいろな角度の映像で確認できたなら、VARは主審に「当たっていない」と伝えるでしょう。また、実際はひどく当たっているのが主審に見えておらず、レッドカード相当のファウルが見逃されていたら、VARの提言で主審がピッチ横のモニターを見る「オンフィールド・レビュー」が行われ、そして主審は判定を変えるということになっています。
今回のケースでは当たっているという事実がある以上、VARはそういう事実があることを主審に伝え、そしてそれが主審には『乱暴な行為』に見えたのなら、そこで主審の下す決定が絶対となります。
なお、ノーマルのスピードで見ているとファウルだと思えるのにスローだと反則に思えなかったり、逆に反則でないと思っていてもスローだとひどいプレー見えたりすることがあるということでした。
VARは日本で本格導入されて2年目になりますが、まだいろいろ知られていないことが多い気がします。今後も分からないことが出てきましたら、こうやって調べて学んでいきたいと思います。
1973年生まれ。横浜フリューゲルス、ヴェルディの他、ブラジルなどでプレー。アトランタ五輪では、主将として28年ぶりに五輪出場を決めた。2005年引退後は解説の他、少年サッカー普及に従事。2009年、ビーチサッカー日本代表としてW杯に出場。ベスト8に貢献した。