疲れやだるさ、目の疲れ、肩こり、頭痛、ちょっとした孤独感やメンタルの落ち込み…。こうした病院に行くまでもない不調がテレワーク中に生じると、一人でどうすればいいか戸惑いますよね。

そこで今回は、テレワークで不調を抱えているときの解決策のヒントとして、実際に女性社員が不調を改善した事例をご紹介します。

「なんとなく不調」を感じる女性が8割超

ツムラが2021年12月、20代〜40代の男女1,800人を対象に、不調に関する実態を調査しました。その中でも、「自覚しながらもつい我慢しがちな症状や、調子が悪いものの病名の診断がつかない症状の総称」である「なんとなく不調」について聞くと、全体の77.1%が感じており、女性では83.3%にも上りました。


2021年のなんとなく不調TOP10

「なんとなく不調を感じる」と答えた人に具体的な症状を聞くと、女性は1位「疲れ・だるさ」62.5%、2位「肩こり」54.9%、3位「頭痛」53.5%という結果に。以下は、「目の疲れ」「イライラ感」「寝つきにくい・目覚めが悪い・眠りが浅い・不眠」となりました。

●テレワーク中の不調

またテレワークをしたことがない902人を含む、有職者1,671人を対象に、テレワーク勤務と健康についての調査も行われました。

テレワークは、自分の身体的・精神的な不調を一緒に働いている人に気付いてもらえるかどうかと聞いたところ「気付いてもらえない」が41.5%に。また、自分の身体的・精神的な不調を一緒に働いている人に相談しやすいかと聞いたところ「相談しにくい」が39.8%となりました。

「テレワーク勤務は自分の不調に気付いてもらえる?」

「テレワーク勤務は自分の不調を相談しやすい?」

女性社員のテレワーク中の不調を改善した事例4選

テレワーク中、不調を感じたら、まずはセルフケアで対処したいものです。でも、一人では不安が大きいですよね。不調といってもいろんな不調があるので、対処法は一概には言えません。そこで今回は、テレワーク中に、不調をうまく改善した会社員の女性の事例をご紹介します。

今回、事例を教えてくれたのは、株式会社ドクタートラストで産業保健師として活躍する原田佑紀子さん。企業に訪問し、会社員の健康をケアするのがお仕事の一つです。女性の社員がテレワーク中に起きたそれぞれの不調について対処した事例を4つ、見ていきましょう。

事例1【寝つきが悪い】:パソコンに布をかけてオンオフを切り替え

「テレワーク中、勤務時間外もパソコンを開いて仕事をしてしまっていた女性社員の事例です。寝つきが徐々に悪くなり、十分な睡眠時間がとれていないため、倦怠感や疲れが残った状態で働いていました。

本来は、プライベートな場であるはずの自宅で行うテレワークは、オンとオフの切り替えがむずかしく、仕事のことをいつまでも考えてしまいがちです。これにより交感神経が優位な状況になり、なかなか寝つけないなど、睡眠に悪影響を及ぼしたようです」

●改善策

「そこで、勤務終了後は物理的に『仕事を遮断』するべく、パソコンの上から布をかぶせオンオフの切り替えを意識するように心がけるようアドバイスをしました。実践してもらったところ、勤務後は仕事から心理的に距離も離れることができ、寝つきも改善したそうです。ただ『布をかぶせる』だけでしたが、このように日常生活に落とし込めそうなちょっとした習慣を取り入れることで、健康的にテレワークが継続できることもあります」

事例2【肩こり】:休憩時間にYouTubeのヨガ動画を10分見る

ヨガ動画でリフレッシュ!

「テレワーク中、同じ姿勢で仕事を続け、肩こりや頭痛、目の疲れなどが生じていた女性社員の例です。もともと慢性的な肩こりがあり、整体にも通っていましたが、テレワークを開始してから明らかに悪化。出勤勤務時と比べ、椅子や机が適切な場所に置かれていないこと、運動量が減ったことが原因として考えられました。もともとこの女性は運動が苦手で、テレワークになってから、コロナの感染も怖れ、外に出る機会がめっきり減っていました」

●改善策
「まずは行動を起こすきっかけとして、休憩時間にヨガの動画を10分ほど見るようにアドバイスしました。動画なので人と対面する必要はなく、また仕事の途中であっても簡単にできる方法であったこと、さらにリフレッシュにもつながることから無理なく続けることができ、肩こりが改善しました。その後、オンラインのヨガレッスンにも参加するようになったようです」

事例3【喫煙量が増えた】:ベランダに喫煙所を作り、喫煙量を抑える

「テレワークになってから、喫煙所へ行く手間が省け、喫煙しやすい環境になったことで、喫煙量が、出社時と比べ、2倍以上増えた女性社員の例です。

頭では健康に良くないと感じていながらも、仕事をしながら煙草の吸える状況になってしまったため、どうしても減らすことができませんでした。また、座りっぱなしであることから、喫煙量だけでなく体重も増加し始めていました」

●改善策

「そこで、喫煙所に行く手間をわざと作り出すために、ベランダに『喫煙所』を設置しました。こうして座りっぱなしと喫煙量の増加への対策となる環境整備を行ったところ、出社時の喫煙本数まで減煙できました。また、自分で行動して成功したことで自己効力感も上がり、その後は体重が増えないように自宅で運動も始めたとのことでした」

事例4【メンタル不調】:「よく頑張った!」の独り言をつぶやく

「出社時は、同僚や部下、上司と職場で雑談を頻繁にしていたものの、テレワークになり、ちょっとした相談が直接聞けなくなった女性社員の例です。

上司への質問をチャットで行うのは失礼に値するのではないかと心配し、わからないことをすぐに聞けず、もんもんとしているうちに、だんだん何がわからないのかが不明確になっていきました。

やがて、一人で抱え込むことで時間を浪費し、仕事効率が低下、それによって自尊心も低下してしまい、自信を失い、メンタル不調を感じていました。

ご本人から状況を伺ったところ、毎日タスクをしっかりこなし成果をあげているにもかかわらず、人と話していないことで『できている』感覚が持てていないのが、メンタル不調の原因のように考えられました」

●改善策

「人と会わない今だからこそ、自己効力感を高めるために、一つ仕事が終わったタイミングで、自分で自分を励ますべく『よく頑張った!』と独り言をつぶやくことを習慣として行うようアドバイスしました。その結果、少しずつメンタル不調は改善していき、また『わからないことは聞く』が行動化できるようになりました」

4つの事例の対策は、なかなか自分では思いつかないものもありましたね。同じ悩みを抱えている人は、真似してみましょう。

テレワーク中の不調、どう対処する?

ところで、テレワーク中に不調になると、いつもと違って孤独になりがちで、症状も大げさに感じてしまいがち。また、対処法も戸惑うことも多いものです。そんなとき、どんな風に対処すればいいのでしょうか。原田さんにアドバイスをいただきました。

「テレワークには、わたしたちが気付いていない脳と体を疲れさせる要素が含まれています。複数人のオンライン会議では、同時にたくさんの人の顔が目に入るため、脳はたくさんの情報を処理しなければなりません。

また、画像と音声のタイムラグによりコミュニケーションストレスも感じます。さらに、座りっぱなしかつ前かがみの体勢、それに食べ過ぎや飲みすぎなどが続くことから身体の不調も引き起こします。

このように、さまざまな不調が引き起こされるにもかかわらず、気軽に相談できない状況だからこそ余計に不安を強めるでしょう」

●情報を取り入れすぎない

「まず『情報を取り入れすぎない』を心がけましょう。不調や心配ごとがあると、SNSなどで症状や対処法を検索すると思いますが、ネットにはさまざまな情報があふれています。

不安が強いときは、理性や論理よりも感情を優先してものごとを判断する傾向があります。メンタルヘルスのためにも、感情を乱す情報に触れる機会は減らしていきましょう」

●自分の思いを誰かに話す

「次に、自分の考えや悩みを『誰かに話す』は非常に重要なことです。コミュニケーションは思っている以上にメンタルにもたらす効果が高いのです。考えや悩みを話す相手がいない方は、紙に書き出して『言語化』してみましょう。

自分の気持ちを紙に書いてみると、思考がすっきりして、客観的に状況を判断することができるでしょう。思考がめぐり、なかなか寝つけないときにも有効なので、ぜひ試してみてください」

テレワークにはもう慣れたという人も多いかもしれませんが、一方で、「この不調がなかなか改善できない」というものが一つや二つはあるのではないでしょうか。この機会に、それらの改善策を考え、実践してみるのもよさそうです。

●教えてくれた人…原田 佑紀子さん

株式会社ドクタートラスト在籍。保健師/人間ドック健診情報管理指導士/上級睡眠健康指導士/健康経営アドバイザー 大学病院やクリニックで看護師と勤めている中で、医療専門職としてからだとこころの双方からアプローチの必要性を感じ、心理療法を学ぶ。現在は、健康産業保健分野や心療内科クリニックで睡眠指導や健康相談を行っていた経験を活かし、産業保健師として数多くの企業の産業保健施策に携っている。

調査資料出典
ツムラ「第2回 なんとなく不調に関する実態調査」
https://www.tsumura.co.jp/news/topics/20220118.htm

取材・文/一ノ瀬聡子