自動車関連の「強制保険」である自賠責保険。その運用益1兆2000億円を国交省から借りた財務省との覚書の期限が迫っています。本来は交通事故被害者の救済などに使われるはずの、残り約6000億円の“借金”、どうなるのでしょうか。

2年で1兆2000億円を一般財源に繰り入れた財務省

 財政事情の悪化を理由に、一般会計へ繰り入れた(=貸し出した)自動車ユーザーの自動車賠償責任保険の運用益、約6000億円の繰り戻し(=返済)の行方が2021年中に決着します。

 財務省の借り入れは1994(平成6)年と1995(平成7)年の2年間で約1兆1200万円。いまだ約6000億円が返済されていません。この巨額な「貸借」は、一般会計を担当する財務省自賠責保険の運用を担当する国土交通省の大臣が「覚書」を交わして、返済を引き延ばしてきました。5度目の覚書は2022年度が最終年なので、2022年度の予算案を確定する今年中に方針を決めなければなりません。


会見する斉藤鉄夫国交相(中島みなみ撮影)。

 ただ、消費税0.5%分の税収に相当する巨額な借金です。国土交通省は形式的には全額返済を求めますが、現実には財務省と予算協議する中で決着し、覚書を根拠に全額返済のめどが立たない状態が続いていました。

 直面する課題は、財務省が実行する返済額が少なすぎて、自賠責保険制度が担っている被害者救済事業が先細りになっていることです。被害者救済事業とは、保険金支払いとは別に、ひき逃げ事故などにより後遺障害を負った被害者の救済に使われています。こうした被害者の多くは長年にわたって親が介護にあたっているケースも多く、介護者なき後の生活が不安視されています。

 2019年、この被害者救済事業の支出は約150億円でした。国交省は財務省に貸し付けた資金とは別に、約1500億円を運用して永続的に被害者救済を行っていますが、その運用益は年間約30億円。不足する約120億円は、原資となる1500億円を取り崩して補填していますが、それも「あと6年後で1000億円を割り込む」と国交省自動車局の担当者は話します。

15年途絶えた返済が再開 しかし利息分にも満たず

 財務省の貸出は、本来1500億円と合計した7500億円ぶんの被害者救済の財源となるべきものでした。財務省は15年ほど返済0円でしたが、麻生太郎財務相就任時の2018年から返済を再開、4年間で159億円を返済しました。ただ、国交省は「年1%で運用されている」というので、財務省は利息分も返済していないことになります。


国土交通省。自賠責の運用益の繰り戻し問題について、財務省と協議に臨む(中島みなみ撮影)。

 過去の「覚書」は、返済の繰り延べ期間を定めて「予期しない資金手当の必要が生じると見込まれる場合には(略)繰り上げて必要額を繰り戻す」という簡単な内容です。完済を求める交通事故被害者団体や自動車ユーザー団体は、2018年の覚書から返済計画を盛り込むべきだと主張してきました。

 12月中旬の決着をにらみ、両省は協議に入ります。斉藤鉄夫国交相は、こう話します。

「国土交通省では自動車安全特別会計の積立金(前述の1500億円+貸金6000億円)などを財源として自動車事故被害者の救済事業などを実施。極めて重要な事業だと思っている。覚書最終年度であることを踏まえて、一般会計からの繰り戻しについて、しっかり財務大臣と議論していきたい」