Netflixが圧倒的な支持を集めている理由とは?(写真:Chona Kasinger/Bloomberg)

動画視聴サービスのNetflixは世界中で拡大していますが、提供するサービスをシンプルに捉え、社会の共感を勝ち取った例です。現在では時価総額20兆円を超える巨大企業となったNetflixですが、創業から15年ほどは思うような成長を遂げられていませんでした。

1997年にDVDレンタル事業として創業し、2007年に現在のような動画サービス事業を開始していますが、爆発的に拡大することはありませんでした。アメリカではCATV(ケーブルテレビ)が視聴インフラとして圧倒的な存在を誇っており、お金を払って視聴するという体験はすでに当たり前となっていました。

2007年と言えば、iPhoneが普及し始め、モバイルインターネットの急拡大が始まった頃ですが、それだけでは決して今ほどの拡大は見込めなかったでしょう。

Netflixが消費者の共感呼んだ3つの理由

Netflixが拡大した背景はいくつかあると思いますが、消費者がシンプルに共感できる要素が3つあったからだと私は考えています。

1つ目は、徹底的に消費者に寄り添ったサービス開発の姿勢です。早い段階からリコメンデーションエンジン(消費者の嗜好にあったコンテンツをお勧めする)のアルゴリズムに積極的に投資していました。これによって消費者が探すという体験をよりシンプルかつ効率的にし、面白いコンテンツを探しやすくしていきました。

これは消費者の満足度向上だけの効果にとどまらず、こういった仕組みにより人気のコンテンツが拡大しやすくなるという効果ももたらします。面白いものは積極的に推奨されたり、同じような嗜好を持った消費者に届けられたりするため、人気が爆発しやすいのです。

これは日本のような配信型TVやCATVよりも優れた特徴で、消費者の共感が一気に広がる要因となっています。

2つ目は、広告収入だけに依存しないビジネスモデルです。消費者にとってTVCMは不要なものであり、コンテンツの消費には邪魔な存在です。有料課金モデルは消費者には当然お金はかかりますが、純粋に良質なコンテンツを楽しむことに時間を使うことができるようになります。

3つ目は、すでに存在していたCATVとの違いです。CATVはビジネスモデルの特性上、インターネットや通信のインフラとセットで提供されていました。いわゆるトリプルプレイ(放送と通信とネットをセットで提供)と言われたビジネスモデルを採用していました。

最も投資額や維持コストが高いのが通信やネットのインフラであり、消費者から得たお金はコンテンツではなく、インフラに回ることになり、お金の流れとユーザーが体験したい動画視聴サービスにズレを抱えていました。

その点、Netflixは動画サービスに特化しており、純粋に面白いコンテンツを効率的にみられるという付加価値に対して消費者が対価を支払う構造がわかりやすく、またNetflixもより効率的によりよいコンテンツが見つかるように、リコメンデーションエンジンやコンテンツ制作に積極的に投資することができます。

シンプルに見える因果関係が成立

一見シンプルに見えるこの因果関係が成立していることで、消費者は企業に共感し、企業のサービスの価値を感じやすく、その対価に対する満足度も高まるという循環を生み出せているのです。

この構造はハリウッドでは成立していました。消費者が映画を映画館やDVDで視聴することで売り上げを生み出し、その売り上げにより映画の製作が行われています。

しかし実際は、ヒット作品と大失敗作品があって、全体として成立しているにすぎないのです。ヒットを予測させるアルゴリズムを進化させ、その不確実性を取り除き、安定的な経営基盤によりコンテンツ制作を可能にしたのがNetflixのビジネスモデルというわけです。

Netflixを例に紹介しましたが、サービスとステークホルダーを広く捉え、利害関係を適切に調整することによってビジネスとユーザーは共存可能です。

拙著『サステナブル資本主義 5%の「考える消費」が社会を変える』でも詳しく解説していますが、多くの企業が今、SDGsという社会課題とビジネスをどのように整合させるのかに苦慮しています。社会課題を解決するのは簡単ではなく、成功確率が低い割に、多額の投資や長期的なコミットメントが必要になるからです。

つまり、社会課題に向き合ったところで、事業機会として十分な収益が生み出せないのではないかという問題です。なぜ、これを解決するのが難しいのか。それは多くのステークホルダーを巻き込みながら事業として成立させ、最終的には消費者の賛同と株主の賛同を得ていくことが難しいからにほかなりません。

私が相談を受けている企業でも、既存のビジネスモデルや特定のテクノロジーを前提にしすぎている案件が多くあります。それは、社会課題の解決にそれらを使っていこうという視点に終始してしまっており、鶏と卵が逆になっていることが多いからではないかと思います。

必要なステークホルダーを巻き込める共感があるか

ビジネスモデルやテクノロジーはいったん横に置いておいて、社会課題を解決するにはどうすればよいかというシンプルな問いこそが出発点であるべきなのです。この発想に立てば、自社だけで解決できる問題でないことも多く、ステークホルダーをより多く巻き込んでいくという視点が重要になってきます。


社会課題を解決するために、必要なステークホルダーを巻き込めるような共感がそこにあるのか、そのような共感が非連続的に拡大する仕組みがあるのか。これらを満たす事業モデルであれば、長期的にも社会課題に挑戦し続けながら、徐々に消費者と社会の共感を高めていくことができるでしょう。

持続可能な社会を実現するという課題に挑戦するには、ステークホルダーを巻き込めるような、社会的コスト、利害関係をシンプルに説明でき、シンプルに消費者に届くような価値訴求を考えることが第一だと思います。逆に言えば、消費者が共感しづらいインセンティブや利害関係が存在してしまうと、社会的コストを乗り越えるような共感はなかなか十分に得られないのです。