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ケンウッド 本気の新機種を投入

text:Hajime Aida(会田肇)editor:Tetsu Tokunaga(徳永徹)

スマートフォンに使い慣れた人にはあまり馴染みがないかもしれないが、今から10年ほど前に一世を風靡したカーナビゲーションがあった。それがPND(ポータブル・ナビゲーション・デバイス)である。

【画像】ケンウッドのPND 「ココデス」シリーズ【9インチも登場】 全17枚

ポータブル液晶TVのようなスタイルにナビ機能を備えたことで汎用性が高く、使い勝手も良いことで大人気となり、当時は多くのメーカーが参入したほどだ。


かつては、ソニー、ガーミン、パイオニアも積極的に製品を送り出していた国内ポータブルナビ市場。近年は、パナソニック「ゴリラ」の一強だったが、ケンウッドが新製品「ココデス」の投入を発表した。    宮澤佳久

しかし、その人気も長くは続かなかった。スマートフォンの登場がその流れにストップをかけたのだ。

PNDも初めは加速度センサーを搭載した測位精度の高さをウリにしていたが、徐々に身近な存在として普及するスマートフォンを上回るメリットを打ち出せなくなってしまう。そうした状況もあり、今となってはパナソニック「Gorilla(ゴリラ)」など数機種が残るだけになってしまっている。

そんな矢先、ケンウッドがPND「ココデス」を登場させたニュースを聞き、驚かずにはいられなかった。

なにせ、ラインナップは大画面9型モデルのEZ-950をはじめ、7型モデルのEZ-750、5型モデルのEZ-550の3モデルと充実。加速度センサーや3Dジャイロセンサーを装備するなどして測位能力も高めている。さらに逆走検知やゾーン30対応などへの対応やオプションでバックカメラに全機種で対応するなど安全性にも配慮した。

つまり、それだけ力の入ったモデルとして「ココデス」は誕生しているのだ。

スマホに押されっぱなしのPND市場に、そこまでして改めて参入する意図はどこにあったのだろうか。

PND 古くなった紙地図との共通点

「ココデス」を発売したケンウッドの商品企画担当者は、「すでにPNDが爆発的な台数が売れるわけでもなく、残存利益獲得の状況に入っていることは承知している。しかし、他社の状況を見ると少ないながらも一定数を販売しており、カー用品で幅広いラインナップを目指す弊社としてはここを埋めておきたいと考えた」と話す。

この意図を理解するカギが、「ゴリラ」のユーザーアンケート結果にある。


パナソニック「ゴリラ」は、昨年モデルより一軒一軒の住宅の形・道幅まで表示できる市街地図を全国すべてのエリアで実現している。業務用車両のユーザーを見込んだ機能である。    神村聖

これまでの傾向として「ゴリラ」ユーザーの約9割が50代以上で、全体の4分の3が買い換え需要だったという。これはいわゆる紙地図を買い替えるようにカーナビを買い替えるユーザー層が一定数は存在することを裏付ける。

一方、装着車両を調査した結果ではスズキ「エブリィ」、スバル「サンバー」、トヨタ「ハイエース」など商用車での利用者も上位に入る。

元々、PNDは業務用として使う需要があり、そこに必要なのは一軒ずつ表示できる市街地図。ゴリラがそれを全国すべてのエリアで実現しているのもそうした需要を見込んでのことだ。

そして、もう一つ面白い結果がある。

なんと、装着車両に輸入車御三家である「BMW」「VW」「メルセデス」での利用が目立つのだ。これは何を意味しているのだろうか。

輸入車オーナーがPNDを選ぶワケ

実は輸入車は早い段階からカーナビをインフォテイメントシステムの一部として組み込んで来ている。

ところが、その使い勝手は決して良いとは言えない。“スマホライク”とは名ばかりのタッチ操作が増え、音声コントロールも認識率が低かったりして、目的地を設定するにもひと苦労という状況にあるのだ。


ケンウッドが投じる新ポータブルナビ「ココデス」は、9型、7型、5型の3機種が販売される。据え置き型の「彩速ナビ」シリーズの技術を採用し、「ゴリラ」の市場を狙う。    JVCケンウッド

以前ならカー用品店でカーナビだけ交換してこの対策も取れたが、インフォテイメントシステムの一部として組み込まれている以上、それは叶わない。となるとPNDを追加装着するのがもっとも簡単ということになる。

ただ、「ココデス」は、ライバルである「ゴリラ」が最上位モデルで対応しているVICSなど交通情報を非搭載とした。

今どき、スマートフォンのナビアプリでも得られるこの情報をなぜ省いたのか。前出の担当者は「ターゲットとするユーザー層を踏まえると、VICSのニーズはそれほど高くないと判断した」からだという。

実は、VICSを受信するにはFMチューナーを搭載しなければならない上に、ユーザーは直接負担しないものの出荷ごとにVICSを利用するための課金もある。低価格路線を基本とするPNDである以上、この省略もやむを得ない判断だったというわけだ。

PND市場の今後は?

ではPNDの将来は今後どうなっていくのだろうか。ケンウッドの担当者が話すように爆発的に売れることはないと思われる。

しかし、スマートフォンの取り扱いを苦手とする人は一定数存在するし、特に高年齢層にとってはよりわかりやすいスタイルで道案内をして欲しいというニーズは必ずある。そうしたユーザーには今後も売れ続けていくだろう。


パナソニック「ゴリラ」とともにポータブルナビ市場を長く支えてきたユピテルは、「MOGGY」シリーズを展開する。2021年モデルは7型と5型をラインナップする。    ユピテル

それと見逃せないのが2輪車ユーザーの需要だ。2輪車でのツーリングでも道案内は欠かせないのは当然で、単独で使えるPNDはそうしたニーズにピッタリなのだ。

ケンウッドによれば「販売店からの受注では9型モデルと5型モデルに人気が集中している」ということだが、この5型モデルはおそらく2輪車ユーザーからのニーズと考えられる。これでBluetoothと連携するスピーカーでルートガイドができるようになれば、2輪車ユーザーにとってより使いやすくなるだろう。

ただ、こうした機能も車載機のスマートフォンとの連携によってその存在意義は徐々に薄れていっていることは間違いない。今後はスマートフォンを使いこなす世代が年齢を重ねていけば、あえてPNDにこだわる必要はなくなってしまうからだ。

PNDにはそんな時代が訪れるまでの“つなぎ”として、今の時代をしっかり担ってもらいたいと思う。