3日間の勉強合宿で、勉強するのも休憩するのも自由と宣言した桜木建二(阿部寛)(写真:©︎TBS)

現在放送中のTBS系ドラマ「日曜劇場『ドラゴン桜』」は、元暴走族の弁護士である桜木建二(阿部寛)が、偏差値が低い子どもたちを東京大学合格に導くストーリーだ。ドラゴン桜ではさまざまな受験テクニックや勉強法が紹介されるだけでなく、学びになる名言も多い。そこで、短期連載として、原作漫画『ドラゴン桜2』(講談社)編集担当で、ドラマの脚本監修も行っている現役東大生の西岡壱誠氏が、自身の経験や取材も踏まえながら、ドラマから得られる教訓について解説する。

今回は「東大生が勉強の楽しさを知る方法」について。

第1回:東大生も納得「ドラゴン桜」本質すぎる受験心得
第2回:「ドラゴン桜」見た東大生が語る「挫折の重要性」
第3回:ドラゴン桜で再確認「東大受かる思考力」習得法
第4回:ドラゴン桜でも実践!東大生は「頼る力」がすごい
第5回:本当?ドラゴン桜「性格悪い奴は東大落ちる」根拠

「自由」な勉強のほうが確実に成績が上がる

「強制と服従の時代は終わったんだ」

日曜劇場「ドラゴン桜」第6話で桜木建二(阿部寛)先生はそう語りました。その言葉どおり、合宿の時間割は「自由」。16時間ぶっ続けで勉強するような地獄の勉強合宿ではなく、勉強するのも休むのも自由だ、と。


勉強合宿で指導する桜木建二と教え子の水野直美(長澤まさみ、左)(写真:©︎TBS)

東大受験と聞いて一般的に想像するのは、ぶっ続けの勉強だと思います。僕も一時期、鬼のように勉強を強制させられる塾に行ったことがあったのですが、まるで自分に合わず、すぐにやめてしまいました。その後もガンガン勉強するように言ってくださる先生とも出会ったのですが、全然肌に合わずに、偏差値は35でした。

そんな中で、僕が勉強をやる気になったのは、なんと受験勉強とまったく関係ない音楽の先生との出会いがきっかけでした。

「中途半端な自分をやめて、トップを目指せ」と言われ、東大を目指し始めました。その先生から勉強を教えてもらったことはなく、言われたことといえば「自分で自由に勉強しろ」でした。

そんな経験をした僕は、やはりこの桜木先生の語る「自由」な勉強のほうが、確実に成績が上がると自信を持って言えるのです。今日はなぜ桜木先生が「強制と服従の時代は終わったんだ」と語ったのか、その理由に迫っていきたいと思います。

まず、漫画版『ドラゴン桜2』のシーンを見てみましょう。






(漫画:©︎三田紀房/コルク)

桜木先生は、「時代が違う」と言いました。確かにその言葉どおり、今やスパルタや強制的な勉強というのはあまり受け入れられなくなっているものですよね。そんな時代を象徴するような質問を1つしたいと思います。

皆さんがスポーツ選手のトレーナーだとして、選手に2つのうちのどちらかのトレーニングをやってもらおうとします。片方は、「このトレーニングを実践すると必ず効果がある」と考えられているAの方法。もう片方は、「自分にはこのトレーニングが合っているはずだ」と選手自身が考えているBの方法。

Aのほうが、Bよりも科学的には効果が上がるものだと証明されています。ですが、選手は「Bをやりたい」と思っています。はたしてどちらのトレーニングが、結果が出ると思いますか。

AとBのいちばんの違いは「納得感」

これは、オリンピック選手を育てたこともある、陸上の監督から聞いた話なのですが、その監督の経験則では、最近の子はBのほうが効果は上がるのだそうです。理論的にはAのほうがどんなに優れているとしても、自分が納得して努力できるほうが効果は出るとのこと。

このAとBのいちばんの違いは、「納得感」です。自分で考えた、自分が納得して進められる方法と、「本当にこの方法でいいんだろうか」「自分のやっていることは正しいんだろうか」と考えてしまうような方法とだと、やはり前者のほうが有効なんですよね。

勉強においても同じです。東大生の同級生たちに勉強法を聞くと、みんな独自のやり方を答えてくれます。

「自分はここでこんなふうに工夫したんだ」「このやり方をこう真似してこう努力した」と、自分なりに工夫して、自分流のやり方を答えてくれる場合が多いです。自分なりになんらかの努力をして、自分がいちばん納得できるやり方を試している場合が多いんですよね。

もちろん、人から教えてもらったやり方を実践していた、という東大生もいます。でも彼ら彼女らも、よく聞いてみると、理由もわからずそのまま真似していたというよりも、そのやり方を自分なりに解釈して、自分用に改造して、実践しているということが多いのです。「自分が納得できるやり方」を試しているのが東大生の特徴なのです。

さて、また皆さんに質問なのですが、東大生って勉強が好きだと思いますか。そんなに好きじゃないけれど、無理して頑張っていると思いますか。

僕は東大生に「勉強は好きですか? 嫌いですか?」というアンケートを取ったことがあるのですが、この質問、200人近くの東大生の中で160人くらいは「好きだ」と答えました。この結果を聞くと、多くの人は「やっぱり東大生は勉強が好きな人の集まりなんだな」「変わった人たちだ。自分たちとは違う」と思うかもしれません。

ここで、もう1つ追加で質問をしてみました。

「本格的に勉強を始めた時期を思い浮かべてください。その前から、勉強を楽しいと思っていましたか?」

この質問をすると、先ほどの160人程度の中で110人程度は「いいえ」と答えました。ちなみに、本格的に勉強を始めた時期は、たいていが高校1年生でした。より詳しく聞いてみると、「最初は勉強なんて嫌いだった」「でも、やっているうちにだんだんと楽しいと思えるポイントができてきた」「今は勉強したいことが勉強できていて、楽しいと思っている」なんて答えをしてくれる人が多いです。

まとめると、東大生は「勉強が楽しい」と思えるようになって合格した、という人が多いということです。それも、もともと楽しさを知っていたわけではなく、途中からそうなっていった、と。

偏差値35から変われたきっかけ

では、この「楽しい」と思えるようになるまでには、何が起こったのでしようか。

ここに横たわっているのも、「納得感」なのではないかと思います。僕も偏差値35のときにそう思っていたのですが、「なんで数学なんて勉強しなきゃならないんだ!」「どうして社会とかやんなきゃならないの?」「これ、やってる意味あるの?」と考えるタイミングというのが非常に多かったです。

そういうときって、どんなに勉強してもどこか他人事で、やらされている感があって、「納得」できずに進んでいる状態なんです。まさに「強制と服従」ですね。先生が言うから、親が言うからと、人に強制されてやっている状態です。

それが「東大」という大きな目標を先生に与えてもらって、自主的に勉強するようになり、勉強に対する見え方が少しずつ変わっていったのです。

進めていくにつれて、どんどん「ああ、勉強ってこういうふうに楽しいんだ」「だから勉強って大事なんだ」「だから先生はこれをこうやって勉強しろって言ってたんだ」ということがわかっていきました。「あのとき勉強しろって先生から言われて、全然納得できてなくてやりたくなかったけど、今考えると、納得できるな」と。

目標を与えてもらって、自由にやれと言われたからこそ、それまで教えてもらったことも含めて、「納得」することができました。そうして、僕は偏差値35から脱却して、東大に合格することができたわけです。

結局、人間は「いいからやれ」と言われても、やりたくないと感じてしまいます。それは勉強でもそれ以外のことでも同じだと思いますし、最近はその傾向は顕著なのではないでしょうか。

だからこそ桜木先生は、生徒に「東大」という大きな目標を提示し、そこから先は生徒を信じるということをしてくれました。「自由だ」と言ったからって、それで彼ら彼女らが勉強しないわけはない。そう考えて自由にやらせて、生徒の自主性を引き出したわけです。

もちろん目標もなく、方法もまったく教えずに「自由だ」と言っても努力することはなかなかないと思います。しかし、目標があって方法もわかっているのであれば、あとはきっと勝手に努力します。その中で、「納得」ができるようになっていくのではないかと思います。

「自由」になっても生徒はきちんと工夫をする

いかがでしょうか。


桜木先生が「自由」と言って、東大専科のメンバーはそれでもしっかり勉強をしました。指示されなくても、自分で納得して、「頑張らないと」という気になりました。

同じように、僕も「リアルドラゴン桜」という取り組みで、学校にお邪魔して合宿を行うのですが、「休みの時間も勉強の時間も自由。勉強のプリントだけ置いておくし、何かあったらすぐに声をかけて」と言っています。

多くの人は「それで生徒は勉強するの?」と言うのですが、生徒はけっこう自主的に勉強して、互いに教えあったり、適宜うまく休憩したりして、意外ときちんと工夫をしてくれます。

「強制と服従の時代は終わったんだ」と桜木先生は言いました。まさにそのとおりで、これからは「自由」にして自分で納得していく方式が合っているのかもしれませんね。