日野町未来づくり事業協同組合で4月から働く石田さん(右)。作業の合間に町農林振興公社の職員と会話を楽しむ(鳥取県日野町で)

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 農林漁業者や食品業者らでつくる「特定地域づくり事業協同組合」による農業分野での人材派遣が本格化してきた。事業者が協力して人を雇い、働く場も確保する仕組み。鳥取、長崎両県などで組合の人材が既に農作業に従事する。各組合は人手が少ない地域での労働力確保や雇用創出につなげる考え。行政も取り組みを支援する。(木村隼人、鈴木薫子)

通年で働く場 人材定着へ 鳥取・長崎


 日野町未来づくり事業協同組合(鳥取県)は、4月1日から同町在住の石田信行さん(65)を雇い、町農林振興公社への派遣を始めた。農業をなりわいにしたいと思い、建材業から転職した石田さん。公社が2ヘクタールで栽培する水稲の管理を4〜11月、請け負う予定だ。

 町は高齢化率が約50%と高い。農業以外でも人手不足が深刻だ。だが短期の仕事が多く、通年雇用するのが難しかった。組合による雇用でこの課題解決を目指す。

 組合は公社や森林組合など5業者がメンバーで、連携して通年で仕事を用意できる。石田さんは農閑期の冬は除雪作業を担う予定だ。勤務は主に平日午前8時〜午後5時。給料は「日当×勤務日数」で支払われる。「一定の給与があり、福利厚生がしっかりしている」と、石田さんは組合雇用に魅力を感じる。

 県も組合を歓迎する。「幅広い地域で活用できる新たな処方箋が登場した」(中山間地域政策課)。人口減に悩む県は設立を後押しするため、2020、21年度当初予算で運営費を一部助成する支援事業を設けた。日野町も事業を活用。町負担の運営費の2分の1を県が補った。

 長崎県五島市の「五島市地域づくり事業協同組合」は農業法人、水産加工業者ら17の組織でつくる。5月からサツマイモの栽培・加工などを手掛ける法人に1人を派遣。繁忙期には植え付け作業に従事する。

 市は離島にある。組合の事務局長を務める野口敏明さん(61)は「五島市は高校卒業後に島外へ出る若者が多い」と地域の課題を指摘。「複数の組織で働けるこの制度を入り口に若者の地元定着を促したい」と話す。

 動きは他でも広がっている。鳥取県内では、智頭町も組合を設立。県全域が過疎地域の島根県では安来市で農業での派遣が始まっている。同県の海士町複業協同組合は6月から16事業者に6人を派遣。移住してきた若者が農業分野で働く予定だ。

<ことば> 特定地域づくり事業協同組合 

 20年6月施行の「特定地域づくり事業推進法」に基づく。組合運営費の2分の1を国や市町村が助成する。都道府県知事が組合設立を認定。4月1日現在、国から交付金を受ける組合は全国に11ある。総務省によるとJAが出資して組合員になることも可能。事業協同組合に入っていない農業法人でも、仕事量に制限はあるが人材派遣を受けられる。