緊急事態宣言下で多くの居酒屋の灯りが消えた新宿・歌舞伎町(撮影:今井康一)

4月25日に東京などで発令され、5月7日に延長が決まった3度目の緊急事態宣言

飲食業界では、酒類を提供する店に休業要請が行われるなど、これまでの時短営業よりも一段と厳しい措置が講じられた。大型商業施設への休業要請が一部緩和される延長期間においても、酒類を提供する飲食店は引き続き休業要請の対象となる。さらに飲食店への酒類持ち込みの制限も、新たに要請に追加される。

実質的な「酒類提供禁止要請」で大打撃を被るのは、飲食店だけでなく、メーカーから仕入れた酒類を飲食店などに提供する酒販店も同様だ。飲食店には協力金の支給が徐々に拡充されてきたのに対し、酒販店など卸売業者への対応はいまだ手薄で、行政の支援から取り残されている現実がある。

大手業務用酒販店約200社で構成する全国酒類業務用卸連合会(業酒連)の榎本一二会長と佐々木実会長代行に、窮状を聞いた。(インタビューは4月30日に実施)

黒字の会社は「1社もない」

――酒販店はコロナ禍でどんな影響を受けていますか。

榎本会長(以下、榎本):2020年は業酒連に加盟している酒販店の大半で、売り上げが半減する結果となった。新型コロナウイルスの感染が拡大した3月から売り上げが急減し、緊急事態宣言発令に伴い4、5月は前年比で9割近く落ち込んだ。

そこから多少回復はしたが、2019年比で100%には到底いかない。業酒連加盟社(約200社)のなかで、2020年度を黒字で終えた会社は1社もない。

佐々木会長代行(以下、佐々木):この4月の売り上げも、2019年比で6割程度の減少が続いている。2度目の緊急事態宣言が解除された後、(時短要請が続く中でも)東京の飲食店の閉店時間は午後8時から午後9時にまで延び、多少はマシになった。だが、3度目の緊急事態宣言が発令されてからアルコール類はまったく動いていない。

――3度目の緊急事態宣言では、飲食店での酒類提供を実質禁止する要請が加わりました。

榎本:国税庁からも、(飲食店で酒の提供を禁止することを)「周知徹底しろ」という文書が(業酒連にも)送られてきている。

見方によっては、「酒屋に飲食店から酒の注文が来たら断れよ」という内容にも受け取れる。これでは(飲食店へ酒を売ることで商いをしてきた)われわれの事業の持続可能性が極めて低くなるし、存続に関わる問題だ。

コロナの感染拡大を酒のせいにしたことにも、非常に腹立たしい思いをしている。酒を飲んで騒ぐことが悪いのであって、酒そのものが悪いのではない。あまり政治の話はしたくないが、行政が自らの失政を酒のせいへと押し付けたような印象すら覚える。

――飲食店には協力金が支給されましたが、酒販店など卸売業者への支援は手薄です。どうして支援の拡充を声高に訴えてこなかったのですか。

榎本:格好つけたことを言うと、自分たち(酒販店)は免許業者であるという矜持がある。(これまで免許で守られてきた)われわれが「公助」を依頼するのはいかがなものか、という考えがあった。だからあまり声を大にして協力金を求めることは慎んできた。

しかし、とてもではないがもう黙っていられない。おとなしくしていたら、本当にわれわれは死ななければならなくなる。そんな心境だ。

佐々木:売り上げの規模によってさまざまだが、単月で数千万円の赤字になっている酒販店は多い。

(われわれのような)飲食店の関係取引先にも、1カ月で上限20万円の支援金を出すという話もあるが、焼け石に水でしかない。

高まる"2年連続赤字"への不安

――では、どんな行政の支援策が必要なのでしょうか?

榎本:給付金や補助金というかたちではなく、基本的に自分たちが納めたものを返してもらいたいと考えている。過去2〜3年分の消費税と法人税の還付や、今後(飲食店の倒産などに伴い)貸し倒れが発生した場合にも、その中に含まれる酒税の還付などを求めたい。

もう1つは金融支援。日本政策金融公庫など政府系金融機関からの借入金の返済猶予を、ある程度延ばしてもらいたい。劣後債の金利を一部補填してもらうことなどもお願いしたい。

――これまで自助努力でなんとか踏ん張ってきたものの、資金繰りの面でも公助に頼らざるをえないフェーズに来ている、と。

榎本:2年連続で赤字を出したら、おそらく金融機関の姿勢は変化してくる。2020年度の決算では、赤字を出しても金融機関から「それは仕方がない」と言われた。しかし2021年度も(赤字を)出した場合、コロナという弁解はもう通用しないし、その後の資金調達は難しくなるだろう。

同業他社と話をしていると、このままでは売り上げが2020年並みの2019年比5割という最悪のシナリオすら聞こえてくる。そうなると完全な赤字経営となり、(業酒連の)会員全員が生き残ることは難しくなる。

――例えば、回復が厳しい飲食店からスーパーなどに卸売り先を切り替えることは難しいのでしょうか。

榎本:それはできない。我々は中小規模の流通業者であり、小売りには国分グループ本社や三菱食品など、大手の中間流通業者がいる。理論的には入り込むことが可能でも、現実的には難しい。

佐々木:中間流通業者は(卸売り先との関係などで)歴史と伝統があり、昨日、今日でできる商売ではない。われわれのような業務用酒販店では、ある程度の企業規模がないと価格対応もできない。突然「飲食店が厳しいからスーパーに」と宗旨替えをしても、買ってくれる先がない。

家庭用ビールサーバー強化は「おかしい」

――これまで酒販店に支えられてきたメーカーから、何かしらの協力は?

佐々木:昨年は商品の返品を受け付けてもらった。5月の大型連休にリゾート施設が休業してしまい、あらかじめ納品していた商品の行き場に困っていた。そこで業酒連がメーカーに要望書を出したところ、返品を受けてくれた。


「おとなしくしていたら、死ななければならなくなる」と、危機感を募らせる業酒連の榎本会長(記者撮影)

榎本:ただこれには裏もある。メーカーは商品を廃棄しても酒税が還付され、全額損をするわけではない(編集部注:「蔵出し税」である酒税は、メーカーから出荷した際に課税される)。一方でわれわれ卸売りは、酒を捨てても税金は返ってこない。

――飲食店で生ビールを楽しめない中、メーカーは家庭用に生ビールサーバーを販売する動きを見せています。

榎本:あれはおかしい。流通を担う業者の多くが反対している。

1938年に酒販免許制度ができて以来、ずっと酒販店はビール会社の下請けを薄利で行い、全国津々浦々にビールを届けてきた。彼らがここまで(事業拡大して)きたのは、われわれが下請けをしてきたからだ。それなのに、(酒販店の苦境下で)中間流通を飛ばす商品を拡充させるのは納得しがたい。

株主だけでなく、これまで商品を届けてきたわれわれも、彼らのステークホルダーだ。行政だけでなくメーカーにも、もっと惻隠(そくいん)の情をもってもらいたい。