脱毛が気になる20代の男性が増えているようです(写真:sasaki106 /PIXTA)

近年メンズコスメの広がりを代表に、男性向け美容市場が注目されている。中でも脱毛に関するサービスや製品のニーズは高まっており、聖心美容クリニックが20〜40代を行った調査によると、全世代の男性に人気のある美容医療は脱毛だった。とくに20代は「自身もしている」「検討している」のいずれかで回答した人が52.2%と半数以上にのぼった。


臼井杏奈さんによる新連載です

若者を中心に脱毛への関心が高まっている理由を、マンダムの広報担当は「身だしなみ行為のひとつとして考えられている」と語る。

実際、同社が15〜24歳の、いわゆるZ世代に行った調査では、77.2%が体毛処理をした経験があったという。

同社は2月に、手軽に除毛することができる「GB 除毛フォーム」を発売。「興味を持つ人が増えている一方、体毛処理をしたことがない人もまだまだ多く、手軽に簡単に処理したいというニーズがある。そこでこの商品では、弾力性のある泡を本体から直接出し、塗るだけで除毛できるようにした」(マンダム広報)。

体毛ケア市場は毎月、前年同月比を超える成長を続けており、そういった市場の成長とともに製品の売り上げも好調に推移しているという。

手軽に簡単に処理したいニーズがある

同社の調査の中でも興味深いのが、消費者が考える理想の体毛状態だ。例えば胸元や手足の指は「ツルツルがいい」と回答する人が最も多かったが、すねに関しては「薄いほうがいい」と答えた人もほぼ同じ割合だった。また最も体毛が気になる部位はワキだったが、ワキの理想の状態については「薄いほうがいい」と回答する人が最も多かった。

マンダムでは除毛のみならず、毛を薄く間引くアイテムとして「GB ボディヘアトリマー」を2015年から販売している。「実は2000年に一度販売したが、当時はニーズが低く一度廃番となっていた。しかし2015年頃から市場全体の体毛処理ニーズが高まったことで再び販売した」といい、売れ行きは好調だという。

昨今の脱毛事情について「(前述の調査で)いずれの部位も濃いほうがいい、とくに気にしないという項目を選ぶ割合は低かった。また服を着て見える部位のみならず、お尻や腹部など見えない部位の処理を望む声が高いことも特徴だ」と広報担当は分析する。

同じく、体毛を間引くアイテム「レッグトリマー」を2011年3月から販売するのが貝印だ。累計で180万本(11月時点)を販売する商品で、T型カミソリを原型とし、刃の上部にクシ目状に成型した樹脂を組み込んだ独特の形状で、毛を3mmの高さにカットする。

2010年に同社が男女200人に行った調査では、男性より女性のほうが「(男性の)体毛が気になる」と多く答え、胸や腕、腹、足と幅広い部位を処理してほしいものの、ツルツルの状態を望む人はいないという結果となったという。そのためほどよく体毛を残すコンセプトが採用された。

開発当時は異性の目を気にする男性も多く、女性の意見を取り入れた商品となったが、今年、同社が男女600人に剃毛・脱毛についての意識調査を実施したところ、『剃ることは自分自身で自由に決めても良いと思う』と回答した人の割合が90.2%に上った。

またかつては、すね毛を全部剃ることに抵抗を感じる人も多かったが、ここ数年で、男性向けの脱毛サロンが多く登場している。「(開発当時の)2011年と比較すると全脱毛への抵抗もあまりなくなっており、価値観も多様化している」と貝印の広報は語る。

脱毛サロンや美容医療も人気

このような価値観の変化により、男性向けの脱毛サロンや美容医療クリニックのニーズもより高まっている。医療法人社団十二会が運営する男性専門の総合美容クリニック「ゴリラクリニック」は2014年10月に創業。創業初年と比べると、現在は男性患者数が34.05倍まで増加し、クリニックも19院に展開を拡大した。

同医院の稲見文彦・総院長は「メインの患者層は20〜30代だが、最近は40〜50代の患者も増えている。当院のいちばん人気の施術は医療脱毛で、とくにヒゲ脱毛が人気だが、全身脱毛を希望する人も増えている」と話す。

ヒゲ脱毛は身だしなみとして、毎日の手入れ時間の短縮という利便性や、カミソリによる肌荒れを気にして始める人が多い。最近では、学生でも就活を意識してヒゲ脱毛を始める人が多いという。

また、40代以上の患者は耳や鼻、眉毛など加齢とともに目立つ部位を気にする人や、将来に向けた準備として陰部脱毛を行う人もいる。「近ごろは“介護脱毛”というニーズが出てきた。介護では排泄物などの処理を行うが、その際にアンダーヘアがないほうがスムーズ。自身が介護をする世代となった人たちが、自分は迷惑をかけたくないと永久脱毛を行うようだ」(稲見総院長)。

創業当時は男性向けクリニックという概念自体がめずらしく、一部のユーザーが「コンプレックスを解消したい」と通っていたが、現在では「美を追求したい」というニーズも増えた。

「以前では考えられなかったが、今はファンデーションを塗って来院される方も増えた。また脱毛をきっかけとして肌治療や医療痩身など、ほかの施術に関心を持つ人も多い」(稲見総院長)。

オンラインミーティングで意識も変化

こういった美意識の発展は価値観の多様化に加え、若者はSNSの普及、またビジネスマンもコロナ禍でオンラインミーティングへの参加機会が増え、人に見られることを意識する機会やモニターで自身の顔を見ることが増えたことなどが背景要因だと稲見総院長は推測する。

「コロナの自粛期間が明け、来院数はV字回復している。マスクをつけられることで、脱毛のようなダウンタイム(回復期間)のない施術のみならず、さまざまな施術が注目されている」(稲見総院長)。ポスト・コロナ時代にはさらに男性の美意識が発展していきそうだ。