消費者から心ない罵声を浴びせられることもあり、トラックドライバーの心身の負担はきわまっています(写真:Hiroko/PIXTA)

「巣ごもり」需要により通販事業は活況で、荷物を運ぶ運転手は多忙を極めている。一見、ドライバーの売り手市場に思えるが、新型コロナで産業構造が変化し、労働力の需給バランスが崩壊。運転手の条件は日に日に厳しくなっているという。物流ジャーナリストの刈屋大輔氏は著書『ルポ トラックドライバー』でドライバーに「同乗取材」し、その実態を詳らかにした。

「トラック運転手を追い詰める心ない消費者の声」(2020年11月19日配信)に続いて同書より一部を抜粋しリポートする。

咳を吐き掛けられ、生きた心地がしなかった

通販商品を配達する、ある軽トラドライバーはこう漏らす。

「配達先でインターホンを鳴らしたら、『コロナに罹りたくないから荷物は玄関に置いていって』と、まるで感染者のように扱われた。配達員が嫌ならネット通販でモノを買うなよ、と言いたかった。結局、玄関先に荷物を置く『置き配』になったので、対面せず帰ることができてよかったが、そういうお客さんはこちらも顔を見たくない」

恐怖体験も寄せられている。1日当たり100軒以上を訪問することもある宅配便の配達員は、否応なしに不特定多数との接触を強いられる。大手宅配便会社の下請け軽トラドライバーは、ある配達先で自身のコロナ感染を覚悟したという。

「いかにも体調が悪そうな顔色をした初老の男性に、荷物を渡してサインをもらっている最中に、思い切り咳を掛けられてしまった。笑顔でその場を去ったものの、車に戻ってすぐに自分自身に除菌スプレーをかけたり、マスクを取り替えたりした。もしかしたらコロナをもらってしまったかもしれないと思うと、その後数日間は生きた心地がしなかった」

一方、心温まるエピソードもある。長距離の幹線輸送トラックを運転する、あるドライバーは、関東エリアから東北エリアへの乗務時に、納品先の物流センターで荷受け担当者や見ず知らずの人から労いの言葉を掛けられた。

「感染者の多いエリアで生活していて、『本当は仕事を休みたいはずなのに、いつもご苦労様です』と感謝された。高速道路のサービスエリアのトイレでは、隣で用を足していた人から『お仕事頑張ってください』と激励されて、少し驚いた。普段だったらあり得ないことだ」

2020年4月に政府による緊急事態宣言が発令されて以降、日本経済はしばらく休眠状態が続いた。工場は操業を停止し、テレワークに切り替えたオフィスは閉鎖。飲食店をはじめとする店舗も営業自粛に踏み切った。

これを受けて、生活物資である食料品や日用雑貨向けを除き、トラック輸送の荷動きは壊滅的な状況に陥ってしまった。出荷拠点である物流センターの庫内は動かない製品の在庫で溢れかえった。

アパレル製品の店舗向け供給センターを運営する大手物流会社のある支店長は、「店舗の営業自粛が始まった4月以降、春物の製品がまったく動かなくなった。春物の在庫が積み上がっているところに、生産活動を再開した中国から夏物の製品が届き、とうとうセンター内に余剰スペースがなくなってしまった。仕方なく近隣で倉庫を探すことにしたが、それはお客さんにとって追加コストの発生を意味する。

一方で、当社は荷物が動かなければ、出荷作業料や配送料が発生しないため、売り上げがほぼゼロになる。いったいこの先どうなってしまうのか、見当もつかない」と危機感を募らせる。

「トラック余り」が進み、赤字覚悟で引き受ける

ここ数年、トラック輸送のマーケットはドライバー不足などを背景に、売り手に有利な環境が続いていた。ところが、今回のコロナ・ショックを機に状況は一変した。工場、物流センター、店舗・オフィスを行き来する、いわゆる企業間取引のB2Bの領域では、需要の急減で「トラック余り」の現象が起き始めている。

トラックの配車マッチングサービスを展開する、ある物流会社の担当者によれば、生活必需品以外の荷物の輸送需要は激減しており、市場に出回る限られた求車情報に対し、車両を持て余している運送会社が採算度外視の運賃で入札してくるケースが相次いでいるという。

運賃が投げ売りされている実態はドライバーたちも把握している。東京、大阪間で大型車を運行する、あるドライバーは打ち明ける。


「配車係から、先日は東京、大阪間の大型トラックでの輸送を運賃6万円で引き受けた、と聞いた。売り上げがゼロになるよりはましだ、という判断のようだ。同区間の輸送がそんなに安い運賃になったことは今までなかったと記憶している。それだけ日本全体で輸送の仕事が減っているのだろう」

運賃市況の悪化はトラック運送会社の収益減に直結し、ひいてはドライバーが受け取る報酬に負の影響を及ぼす可能性も否定できない。先行きへの不安は隠せない。

「ここ数年、トラック運賃は上昇傾向にあったのに、コロナでパーになってしまった。感染拡大が止まれば、荷量は徐々に増えていくかもしれないが、コロナ前の水準にまで戻るとは考えにくい。運賃競争が激しくなれば、当然、今後は我々の収入が減っていくことも覚悟しなければならない。実態を知らない人からは、コロナで失職する人が増えるなか、『あなたたちは仕事があっていいね』って言われるが……」