―絶対に、してはならない。

禁じられるほどしたくなるのが人間の性。それを犯した人間に、待ち受けているものとは…？

▶前回：青山に1人暮らしで、家賃32万…？尾行して発覚した、彼女が男に隠していたコト




―“婚活“。

この言葉に、自分がこんなにも苦しめられるなんて思ってもみなかった。

昔は何のしがらみもなく人を好きになり、そしてそれが恋人となった。

けれど結婚適齢期に差し掛かり、恋人探しを“婚活”として認識してはじめて、東京における婚活市場の熾烈さというものを知った。

今まで、当たり前にデートしてきた、いや、なんならデート相手にすらならなかった冴えない男たちですら、徐々にステータスと経済力を身に着け、市場での価値を高めてきている。

一方の自分は男性を見る目が肥え、求めるものが多くなる一方で、婚活市場における価値は刻一刻と落ちていく。

なんとも皮肉な現実。

そんな現状を知ってしまったからこそ、弘人という男が私にアタックしてきとき、藁にもすがる思いでお付き合いをOKしてしまったのだ。

32歳という若さで、開業医として年収3,000万近くを稼ぎ、身長は180cm。私のキャリア志向にも大いに理解を示してくれる彼は、まさに理想の結婚相手。逃す手はない。

脳内が瞬時にはじき出したその判断に、私は従ったのだが…。

私は、どうしても彼のことを男として好きになれなかった。

けれど、ある日。

彼のスマホに表示された一通のメッセージが、私の、彼を見る目を変えてしまったのだ。彼との結婚を決意するほどに…。


女が目撃してしまった、弘人のスマホの中にあった、あるものとは？


弘人は、今まで全くモテてこなかったワケではないと思う。いわゆる、塩顔に分類されるだろう彼のルックスは、悪くないほうだろう。

身長も高く、日々鍛えているその肉体美も、細マッチョと言って差し支えない。

けれど、はっきり言って、私は弘人の顔が全くタイプではなかった。

それだけじゃない。

「ここのフレンチの味付け、すごい僕好みなんだよね〜。四半期に一度は絶対来るんだ」
「そうなんだ！ずっとここ通ってるの？」
「うん、半年前くらいからかな」
「…てことは、来るのは2回目？」
「そんなことより、次出てくるオマール海老はね…」

白ワインを一口飲んだだけで、弘人は顔を真っ赤にしながらも、得意げな表情でうんちくを語り続ける。

彼がひたすらにしゃべり続けるごとに、私はどんどん冷めていく。

鳥取出身の彼は、上京して8年経つが、お金を持ちはじめたのはここ数年のことだろう。

お洒落なフレンチやイタリアンに度々連れていってくれるのだが、正直それは、私にとって “普通のデート”の範囲内。けれど彼にとってそれは“特別なおもてなし”らしい。

彼から感じ取れる、“お上りさん”の雰囲気は、私をひたすらに萎えさせたのだ。




弘人と付き合いはじめ、六本木にある彼の家へはじめて行ったとき。

きれいな夜景と真っ赤な東京タワーをバックに、彼は私にキスをしようと顔を近づけてきた。

最高なシチュエーションであるはずなのに、私は思わずギュっと目を瞑ってしまったことがあった。それは、防御本能みたいなものだったのだと思う。

たかが顔、されど顔。

生理的に受け付けないわけではないが、積極的に彼と関係を持ちたいわけじゃない。好きじゃない顔が迫ってきてはじめて、自分の本心みたいなものを改めて実感させられたような気がした。

「怖いの？大丈夫だよ」

弘人はそう言って、私に優しくキスをしたけれど、今年29歳になる女が、キスを怖がるわけなんてない。

一瞬、自分の気持ちがバレたかと焦ったが、どこまでもおめでたい彼の思考に救われ、そしてまた温度差が開いていくことを感じた。

もちろん、弘人との別れを考えたこともあった。けれど、いつの日か男友達に相談すると、こんな言葉が返ってきたのだ。

「恋愛感情なんて、結婚したらいつかなくなるだろ。でも、その経済的バックボーンは、結婚後の生活をずっと支えてくれるんだぞ」

男友達は3年前に結婚し、すでに二児のパパ。奥さんとは恋愛結婚だったが、今は完全にレス状態だという。恋愛感情は結婚後に薄れていくという事実を、彼は身をもって体験している。

その客観的で、現実味のある言葉は、弘人との別れを踏みとどまらせたのだ。

けれど、ある日。

「絶対に彼を離したくない！」と、私は自分の意志で、しっかりと、そう思ってしまう事件が起きたのだ。


好きじゃないけど、最高な条件の男。女に彼を離したくないと思わせた、決定的な出来事


それは、彼の家でテレビを見ていたときのこと。

「手料理を振舞ってあげる」と、彼はキッチンで張り切って作業していた。チキンとハーブの香ばしい匂いが漂ってきて、夫にするには本当に最高なんだろうなと思っていた、そのとき。

ピロンと軽快な着信音とともに、机に置いてあった弘人のスマホに新着メッセージが届いたのだ。

正直、弘人の交友関係に興味はない。浮気していようが、どうでもいい。

けれど、滅多にない一応“彼氏”のスマホを見られるチャンスをふいにするのが勿体なく感じられ、何の気なしにそのメッセージを覗いてみたのだ。

向田えりか：昨日はフレンチご馳走様でした♪また、早く会いたいな〜