東京・池袋で乗用車が暴走し母子が死亡した事故の現場を調べる警察官=2019年4月19日、共同通信社提供

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 昨年4月、東京・池袋で乗用車が暴走し11人が死傷した事故で過失運転致死傷罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(89)が初公判で「車に異常が生じた」として自身の無罪を主張した。その姿勢に批判の世論が高まっている中、元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は16日、当サイトの取材に対し、飯塚被告が仮に実刑を受けても「年齢の壁」によって執行停止となり、「収監されない可能性が高い」と指摘した。

 起訴状によると、飯塚被告は運転中に自転車で青信号の横断歩道を渡っていた松永真菜さん(当時31)と長女の莉子ちゃん(同3)をはねて死亡させ、通行人ら9人を負傷させた。同被告は事故後の事情聴取で「パニック状態となり、アクセルとブレーキを踏み間違えたかもしれない」などと運転操作を誤った可能性を認めていたが、8日の初公判では一転して起訴内容を否認。同被告は「アクセルペダルを踏み続けたことはないと記憶している。車に何らかの異常が生じ、暴走した疑いがある」として無罪を主張した。

 その報道を受け、ネット上では飯塚被告に対するバッシングが起こり、加害者家族への批判や中傷にまでエスカレート。それに対して「推定無罪」として自制を求める声が上がるなど関心はさらに高まり、裁判の行方への注目度が増している。果たして、被告が主張する無罪が通るのか。有罪であれば、執行猶予が付くか、実刑となって刑務所に入るのか。

 小川氏は「被告の判決をまだ予想する段階にないと思うが、同類の事故を踏まえた一般論でいえば、示談が既に成立しているか、示談になる方向になっていれば、有罪判決でも執行猶予が付く可能性が高い」と説明した。

 それでも実刑の可能性はなくもない。同氏は「今回、検察側は執行猶予判決が出ないように、執行猶予の付かない求刑4年を打つか、禁固3年を求めて(その結果)禁錮2年半になるという可能性もある」とした。だが、そこで「年齢の壁」があるという。小川氏は「実刑判決が出たとしても、刑事訴訟法428条を理由に、執行を停止する可能性がある」と指摘した。

 刑事訴訟法第482条では、「懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者」について以下に列挙したケースがある時は「執行を停止することができる」とされている。

(1) 刑の執行によって、著しく健康を害するとき、又は生命を保つことのできないおそれがあるとき
(2)年齢70年以上であるとき
(3)受胎後150日以上であるとき
(4)出産後60日を経過しないとき
(5)刑の執行によって回復することのできない不利益を生ずるおそれがあるとき
(6)祖父母又は父母が年齢70年以上又は重病若しくは不具で、他にこれを保護する親族がないとき
(7)子又は孫が幼年で、他にこれを保護する親族がないとき
(8)その他重大な事由があるとき 
飯塚被告の場合は(2)に該当する。

 小川氏は「刑事訴訟法428条では『70歳以上』となっているが、今は70代になって初めて刑務所に入る人は多く、珍しくはない。車いす生活の人もいれば、医療刑務所に入ることもできる。法務省の関係者に聞いたところ、『刑事収容施設法』では90歳などと年齢は明文化されていないが、実務上、収監されない可能性がある。懲役の間に90歳になったケースとは違って、90歳になって初めて刑務所に入るという前例はまずないようです」と解説した。ちなみに、刑事収容施設法とは、被収容者の人権を尊重し、状況に応じた適切な処遇を行うことを目的として2006年施行された法律である。

 飯塚被告は来年6月1日で90歳になる。小川氏は「地裁で判決が出ても控訴するでしょうから、最高裁まで行くと90歳を超えていることは十分に考えられる。実刑の場合、地検の検察官の執行指揮書によって執行、つまり収監されるのですが、『刑事収容施設法』の被収容者の処遇に関する規則等があり、飯塚被告は逮捕されておらず在宅起訴で調べられている状態ですから、禁錮の判決が出ても高齢を理由に収監されない可能性が高い」と解説した。

 実刑判決を受けても高齢ゆえに執行停止された前例はある。

 小川氏は「事件は全く違うが、有名な例では、ロッキード事件で、丸紅の檜山廣会長は最高裁の実刑判決後、高齢を理由に執行停止となっています」と補足。檜山氏は1909年12月生まれで、95年2月に最高裁で有罪が確定した当時は85歳。収監されないまま、2000年12月に91歳で死去した。来年6月で90歳の飯塚被告は、判決当時の檜山氏よりさらに5歳年長になっていることになる。

 ただ、世間からの厳しい声はやみそうにない。小川氏は「被害者感情を考えると、飯塚被告が実刑になったら収監していただきたい。車いすで出廷できている状態ですから、医療刑務所に入って自身の罪と向き合っていただきたい。母と幼い子が亡くなっているわけですから、本人の体調云々よりも、まずは罪と向き合うべきだと私は思います」と見解を述べた。