280馬力規制時代に400馬力を実現したモデルも

 ワークスチューナーが生み出した台数限定のコンプリートカーの中古車価格が上昇中だ。メーカー直系だからこそ可能になったボディメイクやエンジンチューンなど、希少性だけではない走りの魅力がその価値を高めている。トヨタ系のTRD、日産系のNISMO(ニスモ)、ホンダ系の無限、そしてスバル系のSTI(スバルテクニカインターナショナル)の4社が製作した伝説のコンプリートカーを振り返ってみよう。

1)TRD 2000(ベース車:カローラ)1994年 335万円(販売当時価格・税抜き)

 トヨタレーシングデベロップメントの略称であるTRDは、主に国内でのモータースポーツマシンの開発を一手に引き受けていた。ここで紹介する「TRD2000」は、そうしたレーシングマシンのノウハウを活用して作られた一台。

 1990年代、4ドアボディの市販車をベースに、300馬力級にハイチューンされた2.0リッター自然吸気エンジンを載せたワークスマシンで競われたカテゴリーがJTCC(全日本ツーリングカー選手権)で、トヨタは空力に有利なカローラのボディに、セリカなどでおなじみの2.0リッターエンジン「3S-G」を積んでいたことがある。TRD2000は、そのJTCCマシンを公道仕様に仕上げたといえるマシン。

 ベース車では1.6リッターのエンジンを2.0リッターへとスワップ。もっとも、エンジン本体はスタンダード状態に近く、最高出力は180馬力となっていた。サスペンションも純正形状のダンパーとスプリングといったライトチューン的メニューだったが、その控えめな感じもワークスチューンらしいリーガル性を重視したコンプリートカーらしさだ。もっとも、そうした地味さが仇になったのか、10台しか売れなかったという。まさに幻の一台なのである。

2)NISMO 400R(ベース車:BCNR33 GT-R)1995年  1200万円(販売当時価格・税抜き)

 日産ワークスのNISMOが手掛けた渾身の一台。それがBCNR33・GT-Rをベースとした「400R」だ。車名の由来は最高出力が400馬力に達していることだが、国産車に280馬力規制があった時代の400馬力は非常にインパクトがあった。

 そのパワーと耐久性、さらにフレキシビリティも満たすために、エンジンはボア・ストロークとも拡大され、排気量は2771cc(ベースエンジンの排気量は2568cc)へとアップされ、「RB-X GT2」と名付けられた。ターボチャージャーはN1仕様(市販車ベースのレース用)に強化アクチュエーターを組み合わせたスペシャル品。とはいえカムシャフトのプロフィールはノーマル同様で、扱いやすさをスポイルするようなことない。

 実際、当時ドライブしたこともあるが雨の中でも気を遣うことなくドライブすることができた印象が残っている。そうしたスタビリティにはビルシュタインベースのNISMOオリジナルサスペンションや、エアロダイナミクスを追求した専用エアロパーツの効果も大きい。

 ボディでのトピックスは片側25mmワイドになったフェンダーや、GT-Rベースのマシンでル・マン24時間耐久へ参戦した経験から生まれた「LMボンネット」などの専用装備。1200万円という価格はけっして安いとはいえないが、カーボンプロペラシャフトやチタンタワーバーといった高価な素材のパーツを用いていることを考えると、見る人が見ればバーゲンプライスと評するほど隙のない仕上がりだった。

WRカーのストリートバージョンは即日完売!

3)インプレッサ22B STI Version(ベース車:WRX TypeR STi)1998年 500万円(販売当時価格・税抜き)

 WRC(世界ラリー選手権)においてWRカー部門3連覇を成し遂げた「インプレッサワールドラリーカー」のイメージをそのままストリートマシンとして再現したのが、STI初のコンプリートカーである「インプレッサ 22B STI Version」だ。

 当時、WRカーのベースモデルとなった量産のインプレッサクーペは基本的に5ナンバーサイズのボディだったが、22BではWRカーさながらにボディを切り取り、ブリスターフェンダーを溶接するという手法でリヤのボディメイクが行われた。もちろんフロントフェンダーも専用品が奢られた。これによりボディ幅は1770mmまで広がり、WRカーのシルエットを再現する。この迫力あふれるボディに負けじと、エンジンは専用に2.2リッター水平対向エンジンが開発される(ベース車のエンジンは2.0リッター)。

 最高出力こそ280馬力と規制値に収まったが、フラットトルクとハイレビングを両立した「EJ22ターボ」エンジンは、いまも史上最高のボクサーターボと評される。シャシー系ではビルシュタイン製ダンパーとアイバッハ製スプリングを組み合わせたサスペンションが与えられ、WRカーのイメージを受け継ぐゴールドのBBS製17インチホイールでフットワークを引き締める。まさにWRカーのロードモデルというべき伝説のモデルで、400台の限定販売ながら即日完売したというのも納得だ。

4)MUGEN RR(ベース車:FD2シビック) 2007年6月発表 455万円(販売当時価格・税抜き)

 ここまで1990年代に生まれたワークスチューンのコンプリートカーを紹介してきたが、ホンダ系ワークスチューナーである無限は長らくコンプリートカーを手掛けて来なかった。その無限が初めて作ったコンプリートカーが、4ドアのシビックタイプR(FD2)をベースにした「MUGEN RR」である。

 モータースポーツのフィードバックを実感させるエクステリアは、カーボンコンポジット製フロントバンパーやアルミ製ボンネットフードなどで軽量化を果たすと同時に、可変式カーボンリアウイングやディフューザーなどがマイナスリフトの空力性能を実現。エンジンはエキゾーストシステムとラム圧を利用する吸気系でグレードアップされ、ラム圧利用時には最大15馬力アップを実現するという。サスペンションは減衰力5段調整式の専用ダンパーが与えられるが、このマシン専用にブリヂストンと共同開発されたタイヤ「ポテンザRE070 RRスペック」に合わせたセッティングとなっていることは言うまでもない。インテリアではレカロと共同開発したセミバケットシートが特徴。ボディカラーは専用のミラノレッド一色の設定で、300台限定販売となっていた。