話題の韓国ドラマ『愛の不時着』にハマる人続出!その理由とは?
Netflixで配信され、話題沸騰中の韓国ドラマ『愛の不時着』。北朝鮮軍の朴訥とした超イケメン将校と、韓国有数の巨大財閥の可憐な令嬢、異なる世界に生きる2人のあり得ない出会いに始まるラブストーリー。波乱万丈なこの恋は、あの『冬ソナ』を超える!?
Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中
『愛の不時着』
●監督:イ・ジョンヒョ ●脚本:パク・ジウン ●出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、キム・ジョンヒョン、ソ・ジヘ/Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中
北朝鮮軍将校と、韓国財閥の令嬢による恋
自慢ではないが、筆者は韓国ドラマに疎い。全話観たのは2002年『冬のソナタ』のみです。それも世間で大騒ぎになってだいぶ経ってから観始め、フツーにハマって涙涙で最終話まで観たものの、それ以降韓国ドラマを観ることはありませんでした。特別な思い入れも極端な苦手意識もない、そんな自分がこのほど18年ぶり(!)に韓国ドラマを一気に全話観ました。タイトルは『愛の不時着』。それも自分から積極的に観たいと思って観始めたのではなく、なんとなく薦められて。ある知人とのLINEのやりとりで、締めの決まり文句みたいになっていた「というわけで『愛の不時着』観てね!」という言葉をなんども受けてようやく重い腰を上げたという、だいぶ後ろ向きなスタートでした。それが、こんなことになるとは。
『愛の不時着』第1話はタイトルバックから画面が二分割され、ある男女それぞれの日常が映し出されます。やがてそれは北朝鮮軍将校のリ・ジョンヒョクと、韓国の財閥令嬢で企業家でもあるユン・セリと知らされます。ああなるほど、これはあまりに住む世界が異なる2人の恋愛モノか。かなりシリアスな日常を送るジョンヒョクと、華やかな生活だけど父親の会社の後継者争いでヒリヒリとした日常を生きるセリ、2人がどう出会うんだろう?等と思っていると、ユン・セリが自社の新製品を自らテストすると言ってパラグライダーで飛行中、巨大竜巻が発生。あれよあれよで墜落、そこは北朝鮮でした……って、ええ!?本当に不時着したよ!それが物語の始まりです。
愛が、不時着!?北朝鮮軍将校のリ・ジョンヒョク役のヒョンビンと、財閥令嬢のユン・セリ役のソン・イェジン。/Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中
ヒロインは、北朝鮮という“異世界”に舞い降りる
セリは成り行きでジョンヒョクの家に、彼の婚約者として暮らすことになります。ラジオ体操のようにスピーカーから流れる軽快なリズムにノリノリで体を動かす住民たち、制服姿で整列する子どもの姿。へ〜、北朝鮮ってこんな感じ?近所の人で集まって井戸端会議をしながらキムチを漬けたり、村の洗い場でみんなで洗濯したり、しょっちゅう停電するから冷蔵庫はあてにせず肉は塩漬けにして保存したり。まるで昭和の日本のようだなと思っていると、劇中のセリも目を丸くして驚いています。韓国の人にとっても似たようなもので、北朝鮮の人びとの暮らしはまるでタイムスリップしたかのようなのか……そりゃそうか!等と思って興味深いのです。
そこでジョンヒョクはセリのために麺を打つところからはじめて温麺をつくってくれたり、庭でトマトを栽培したり、庭先の石窯で豆を炒ってひいておいしいコーヒーをいれてくれたりして、脱都会して丁寧にエコに暮らす人のようでもあって心惹かれます。そのあたり、まずは北朝鮮の人びとの日常の描写がドラマのなかでめっちゃ活きるのですが、このドラマ、とにかく脚本が技アリなのです。
すべてに盛り盛りな主人公のキャラ設定
まず主人公であるリ・ジョンヒョクがスゴイ。北朝鮮軍将校で、ケタ外れに地位の高い父親を持つ裕福な家庭に育ち、部下にとことん慕われる徹底して誠実な人間。ある理由があって心を閉ざして感情を表に出さないが、じつは才能あるピアニストとしてスイスに留学していた過去を持つ超イケメンって、ずいぶん盛ったな〜みたいな人物です。日本だったら、いやそれないから!と言われそうなキャラ設定ですが、それを身長185cmで、揺るぎない岩石のような(?)肩幅のヒョンビンが演じると、いいね!みたいな気になるから不思議です。
例えば1話の最後、パラグライダーが木に引っ掛かり、宙づりのまま応答しないトランシーバーを相手にぎゃあぎゃあわめいたり「誰か助けてよ〜」と泣き言をこぼすセリを見て、それまで一部の隙も見せないジョンヒョクの堅物さがほんの少し緩み、1ミリだけ微笑みます。このとき自分でも無意識なまま、セリに心惹かれた?みたいな。そのお芝居は、秘められた思いに耳を傾けたくなるような繊細さです。
そしてこのキャラクター、女子が抱く夢そのものなのです。とてもゆっくりと相手に惹かれ、けれど純朴な人柄でなかなか想いを口にはせず、どこまでも彼女に一途で、不器用だけれど文字通りに命懸けで守ろうとします。こんな男はいません(きっぱり)。でもいてほしい。できれば長身でがっしりした体つきでイケメンで、朴訥――それがリ・ジョンヒョク。躊躇なく盛ったキャラがこれほどヒョンビンにハマって見えるのは、彼を描くための一つひとつのエピソードに心がこもっているからでしょう。
軍服がお似合いなヒョンビン!/Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中
対するヒロインは韓国の財閥令嬢、ユン・セリ。演じるのは『私の頭の中の消しゴム』のソン・イェジンです。38歳のいまもナチュラルに美人で、超カワイイ。でも最初、セリの心は冷え切っています。父の会社の後継者争いの渦中にいて2人の兄はライバル、母親に対しては心にあるわだかまりが残っています。ゲームみたいな恋愛をする相手には事欠きませんが、だからこそ孤独でもある。時に笑顔で皮肉を言い、部下には冷酷に指示を出すという企業家らしい表の顔を持ち、その実は怒ったり泣いたりわめいたり、勝手なことを言って相手を振り回したり。下手したら嫌な性格のワガママな女になりそうなところをソン・イェジンが演じると、それを含めてなんだかカワイイ。後半たびたび登場する泣きの演技ではいつでも顔が真っ赤になり、その涙に深く共感させるのもさすがです。
ヒョンビン演じるリ・ジョンヒョクが真っ直ぐなやさしい瞳で見つめるその先にソン・イェジン演じるユン・セリがいる、そりゃそう〜だ!と思わせる化学反応が起きています。
笑うと目がなくなる感じもカワイイ、ソン・イェジン。/Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中
隅々まで個性的な脇キャラが続出
主役の2人だけではありません。チェ・ジウ主演の『天国の階段』が大好きな韓国ドラマオタク、母思いの孝行息子、イキがっちゃうけどわりといい人、意外にハンサムと、リ・ジョンヒョク率いる第5中隊の4人組とセリの交流は笑えてほっこりさせます。実は気のいい近所に住むオバちゃんたち、“耳野郎”こと盗聴のエキスパートと、脇キャラは隅々まで個性的で伏線としてのちのちまで活き、彼らのつむぐエピソードは笑えたり泣けたり、細かいところまでイキイキとしています。
ふつうのドラマなら恋敵的な役回りの男女、ク・スンジュンは詐欺師なのに意外といい人だったり、ソ・ダンはツンとした美人に見えて酒癖が悪かったりして奥行きがあります。2人の恋の行方も1本のラブコメになりそう、ってなんかほめ過ぎ?
主人公はそれぞれ北朝鮮と韓国の人間で、2人の愛を引き裂こうとする力は強大で宿命的絶望感が漂います。もちろんだからこそ、運命の恋は盛り上がる。それだけじゃありません。母親への愛、親の子を思う心、愛する人を亡くした人間の心の傷、はたまた銃撃戦やら肉弾戦やらサスペンス・アクションの要素まで入っていて、ときに心に残る名セリフや、画的に心に刻まれる名シーンまである。すごいな〜、この脚本、1人で書いたの?と思うほどの入念さ。作り手としての異様な体力を感じます。物語を盛り上げるためならなんだってやったるぜ!みたいな気合いも。それが空回りにならないというのは、どういうことなのでしょう?後半、あれ失速?と思うも再びぐぐっと盛り返し、緊張が途切れないまま最終話へなだれ込みます。この“腕力”はまさに韓国ドラマの独壇場でしょう。 パク・ジウンという女性脚本家の名前は覚えておかなくては、と本気で思いました。
各話80〜90分ほどあって最終話は約110分、全16話。一気に観たらヘトヘトになります。でも止まらない!つぎに韓国ドラマを観るのは18年後になるかも?というくらい(→いい意味で!)、満足感でお腹いっぱいになりました。
キム・ジョンヒョン演じるク・スンジュン。名言の数々を残す、泣かせるキャラ。/Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中
外国帰りの音楽家で、資産家の母を持つソ・ダン(ソ・ジヘ)。ジョンヒョンの美しい婚約者。/Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中
文・浅見祥子