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ちょうど良いモデル

4.0Lエンジンを積んだ718ケイマンGTSでのドライブこそが、ゴルディロックスの原理の正しさを証明していた。

最近ケイマンGT4を走らせたばかりの同じコースでこのクルマのステアリングを握ったのは、ポルシェが誇るモータースポーツ部門によって創り出され高い評価を受けているモデルに、ノーマルのGTSがどれほど食らいついていけるかどうかを確認するためだった。

ボクスターGTSはGT4よりも1万1000ポンド(144万円)安価なプライスタグを掲げているが、ドライビングの楽しさでは引けを取らない。

だが、実際に比べてみると、思ってもみなかったことが明らかとなっている。

予想外だったが、GTSはGT4と同じくらいのドライビングの楽しさを味わわせてくれたのだ。

公道でGT4の驚異的なグリップレベルを使い切るなど不可能であり、特にウェット路面であればGTSのほど良いタイヤ選択がもたらす見事なバランスと、その素晴らしい乗り心地に間違いなく感激することになるだろう。

では、GTSはステアリングのシャープさでGT4に劣るのだろうか?

両者の違いを認識するには交互に乗り比べる必要がある。

明らかにGT4のほうが速く、さらに素晴らしいサウンドを響かせているだろうか?
そして、その結果ドライビングの楽しさでもGT4の方が上回っているのだろうか?

そんなことはない。

ゴルディロックスの原理とは?

では、GT4はGTSよりも1万1000ポンド(144万円)も高価なプライスタグを掲げているのに、GTSよりも素晴らしいモデルになっていないと言うのだろうか?

もちろんそう言うことも可能であり、特別な日のためのクルマではなく、毎日乗ることの出来るモデルを探しているようなドライバーに対してであれば、間違いなくそうだと言える。

ボクスターで選ぶならGT4とGTSのどちらだろうか? それはサーキット走行の頻度によるだろう。

これがきっかけで、トップモデルが必ずしも最高の1台ではないかも知れないと考えるようになったのであり、GTSのようなモデルこそがホット過ぎずクール過ぎず、ちょうど良いモデルなのではないだろうか?

もちろん、こう考えたのはわたしが最初ではない。

実際、医療でも経済でも、科学の世界でもこうした考え方はゴルディロックスの原理と呼ばれ、広く普及している。

はるかに巨大でもっとも分かり易い例がこの地球であり、もし金星や火星に住もうなどと考えれば、われわれは途轍もないコストを支払わされることになるだろう。

そして、自動車世界にもゴルディロックスの原理が通用すると聞かされても驚くには値しない。

最速モデルが最高の存在ではない

もし自動車を設計するとしたら、どんなモデルを基本にするだろう?

エントリーモデルを基本にすれば、トップレンジを創り出すには数々の変更が必要となり、その逆もまた同様だ。

ポルシェ・ケイマン

それとも、実用性に優れた中間グレードを基本に、それぞれエントリーモデルとトップレンジを創り出すだろうか?

だが、こうした中間グレードが市場の注目を集めることが出来るかどうかも考えておく必要がある。

さらに、最速モデルが最高の存在ではないというのには他にも理由がある。

先進素材を採用出来るだけの予算が無ければ、さらなるスピードが意味するのはつねに重量の増加だ。

ケイマンの例が示すように、ソフトウェアの変更だけでよりパワフルなエンジンを手に入れることが出来るのだから、こうしたケースはこれからも増えていくだろう。

よりパワフルなエンジンはより大型のブレーキとより締め上げたサスペンション、さらには単に幅を広げただけでなく、より高負荷にも耐え得るタイヤが必要となる。

つまり、より重くなるということであり、これがエンジン単体重量に変更はなく、さらには間違いなくヴァイザッハが最善を尽くしただろうにもかかわらず、ケイマンGT4がGTSよりも重量増を招いた理由となっているのだ。

そのクルマの神髄を体現

ゴルディロックスの原理に当てはまるモデルというのはどの価格帯にも登場し得るのであり、時にそれはその車種が存在する理由だとすら思えることもある。

例えば、個人的にBMWが20年近くもミニを作り続けている理由は、ハッチバックモデルのクーパーを抜きにしては考えられない。

中間グレードのEが最高の911だった。現在それはエントリーモデルだ。

ミニというクルマを体現しているのはベースモデルのワンではなく、つねに少しばかりの積極性が必要なものの、依然としてシンプルで分かり易いクーパーというモデルなのだ。

そして、そう思うのはミニとは小さく運転が楽しいモデルでありながら、手ごろな価格のクルマであって欲しいという願いがあるからだ。

ハッチバックモデルのクーパーには、カントリーマンにはないミニらしさが感じられるのであり、こうしたことはどんなモデルにも該当する。

カイエンは非常に有能なSUVだが、個人的には依然としてポルシェと言えば、リアにフラットシックを積んだクーペを意味しているのであり、ポルシェ911にもゴルディロックスの原理に当てはまるモデルというものは存在している。

1970年代初頭、911にはTとE、そしてSというモデルがラインアップされていたが、もっとも人気が高かったのがミッドレンジのEだ。

Sは少しばかりパワフルなエンジンを積んではいたものの、公道ではもっとも重要な中回転域での力強さに欠けるとともに、当然ながらより高価なプライスタグを掲げていた。

番外編1:ゴルディロックスの原理 その例外

アストン マーティンDB11

V8エンジンを積んだDB11も素晴らしいモデルだが、より強烈なAMG由来のパワーユニットのほうがヴァンテージには相応しい。

対照的に、DB11 AMRに積まれた滑らかで素晴らしい咆哮を響かせるV12は、グランドツアラーとしてのこのクルマのために生み出されたようだ。

フォード・マスタング

アストン マーティンDB11

2.3L 4気筒エンジンではなく、自然吸気V8を積んだマスタングのほうがはるかに素晴らしいといっても異論はないだろう。

かつてフォーカスRSが証明していたように、この4気筒ユニットも素晴らしいエンジンだが、伝統的なアメリカン・マッスルカーにはV8に替わる存在などない。

マツダMX-5(日本名:ロードスター)

僅差であり、この小さなスポーツカーには英国でエントリーモデルに搭載されている1.5Lエンジンこそが相応しいという意見も理解出来る。

だが、特にビルシュタイン製ダンパーとリミテッドスリップディフェレンシャルを装備している場合、このクルマの優れたシャシー能力を引き出すには2.0Lこそが選ぶべきエンジンだ。

メルセデスAMG A45 S

A45 Sを運転してみるまでは、A35こそがまさにゴルディロックスの原理を体現していると思うだろう。

確かにA35も十分に素晴らしいモデルだが、ライバルたちのなかで傑出した存在とは言えない。

狂気のモデルであるA45 Sであれば、まさに特別な存在であり、そのシャシーもこのクルマに相応しい仕上がりを見せる。