23節、ミラノダービーを制し、首位と勝点で並んだインテルのコンテ監督 photo/Getty Images

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キックの名手を高額で獲得 スクデットは理想ではなくミッション

 インテルが本気でスクデットを獲りにきている。冬の移籍市場で、その意志を世間に公言した。

 イタリアは1月31日に移籍市場が締め切りとなった。その翌日は、スポーツ紙各紙が各クラブの補強を採点するのが恒例行事で、どのメディアもインテルに最高点を付けている。実際の評価は、その後の活躍などで決まるもの。それでも、インテルの冬の動きは、大いに野心を感じるものだった。

 最も衝撃が大きかったのが、クリスティアン・エリクセンの加入だ。トッテナムとの契約が残り半年だったデンマーク代表MFについて、インテルはいち早く交渉を開始。本人との合意を取りつけると、クラブ間での交渉にも取りかかった。「半年後にタダで出すなら安く売りませんか」というよくある交渉。らつ腕で知られるダニエル・レヴィ会長は、インテルの“欲求”を察したようで、減額に一切応じなかったが、それでもインテルは1月の獲得を決断した。

 半年後にフリーで獲得できる選手に対して約2000万ユーロを投じるのはクレイジーだ。ただ、リスクの先にあるものがスクデットだからこそ、このギャンブルは攻めの一手として成立する。エリクセンからすればセリエA初挑戦。イタリア適応がすんなり行くとは限らない。それでも中盤で違いを生む選手が欲しかったインテルは、この賭けに出た。

 アシュリー・ヤングとビクター・モーゼスについても、補強の意図ははっきりしている。34歳のヤングと29歳のモーゼスが将来への投資では ないことは明らか。視線が現在のシーズンの後半戦に注がれていることは間違いない。だからこそ、経験豊富なヤングと、コンテ監督のもとでのプレイ経験があるモーゼスとなった。こちらの補強はファンの間でも否定的な意見が多かった印象だが、 特に左サイドに難を抱えていたチー ムにとっては、絶対に補強が必要なポイントだった。「安価で獲得できる即戦力」という条件下では、悪くない選択肢にみえる。

  インテルはピッチの上でも成長を続けている。9日に行われたミラノダービーでは、2点のビハインドから4得点を奪い、4-2の逆転勝利を収めた。ミランのステファノ・ピオリ監督は試合後、「今季ベストの前半」と話したが、それほど優れたチー ムを相手にして、試合の中で立て直して勝ち点3を獲っている。この結果、首位ユヴェントスと勝ち点で並んだのだ。

「今日のこの経験は、これから困難に直面したときにも我々の役に立 つ」。コンテ監督は試合後、こう話した。これは外から見ても大きなことだと分かる。 というのも、インテルは今シーズンここまで、後半(特に終盤)に苦い経験をしてきた。

 ボルシア・ドルトムント戦は、2点リードから後半3失点で逆転負け。バルセロナ戦は2回とも苦い記憶で、カンプ・ノウでは前半1点リードで折り返して逆転負けし、サン・シーロでは終盤の失点で勝ち越しを許して、チャンピオンズリーグのグルー プステージ突破を逃した。そのチームが、試合の中で自ら立ち上がって勝利を収めた。成長を感じずにはい られない。その相手が宿敵ミランだというのだから、理想的である。

勝者のメンタリティを持つコンテがチームを急激に成長させる

 コンテ監督就任1年目。インテルは劇的に変わった。補強や精神面だけでなく、チーム内の成長もはっきりしている。

 守護神ハンダノビッチはさすがの一言。ディフェンスラインでは特にデ・フライの安定感が光る。さらに、20歳の若手バストーニはシーズン前にレンタル候補だったが、少しずつ信頼をつかみ、今はゴディンを抑えてレギュラー格になった。

 中盤はブロゾビッチが攻守のカギを握っていることに間違いはない。ただ、シーズン序盤は新戦力センシが大活躍。その後の負傷でペースダウンしたものの、再び調子を上げている最中だ。同じく新戦力のバレッラは、序盤戦で大きなインパクトを残せず、12月は負傷離脱。それでも1月29日のフィオレンティーナ戦では1ゴールを含む大活躍を見せており、明らかに適応は進んでいる。

 前線はルカクとラウタロ・マルティネスの2トップが絶好調。特に後者については、元イタリア代表のピルロも現体制での成長を評価しており、「昨季から見事だったが、今は別の選手。全ての面で飛躍した」と述べていたほど。ここに負傷から戻ってきたサンチェスや新戦力の適応が進めば、 チャンピオンズリーグ制覇に視線が向くユヴェントスの横っ面を叩くことができるはずだ。

 コンテ監督はエリクセン獲得が決まったあと、「選ぶ立場にある彼がインテルを選んだことに大きな意味がある」と語ったとおり、ここ数年のインテルであれば、見向きもされなかったはずだ。そこまで急速にチームを成長させたコンテ監督と選手たちは、最高のシーズン前半戦を過ごしたと言える。

 しかし、まだ何かを成し遂げたわけではない。“冬のギャンブル”に勝たなければ、来季以降はその反動を背負ってのリスタートとなってしまう。 インテル復権への大博打は実を結ぶのか。今季のセリエA後半戦 は、今後のイタリアの勢力図をも変えかねない重要な局面だ。

文/伊藤 敬佑

※theWORLD(ザ・ワールド)242号、2019年2月15日発売の記事より転載

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