身体の不調を治してくれる整骨院・接骨院・整体院。「神の手」と呼ばれ、テレビ番組でも人気の先生には自然と長蛇の列ができる。しかし、痛みを我慢してまで並ぶ必要は、はたしてどこまであるのだろうか。「プレジデント」(2019年11月15日号)の特集「腰痛、ひざ痛、関節痛 治療のウラ側」より、記事の一部をお届けします――。

■治せる先生は全体のたった1割に満たない

そもそも整骨院と接骨院の施術には国家資格が必要で、痛みをとるなどの治療が目的だ。一方、整体院は国家資格が不要で、疲れをとることが目的だ。取材班がツテをたどってたどり着いた東京都台東区で整骨院を営む荒川氏は、「国家資格を持つ先生のうち患者さんの身体の痛みをとることができる人はほんのわずか。それがこの業界の現状です」と断言する。荒川氏は「痛みをとれる名先生」と患者からの信頼がとても厚い。

※写真はイメージです(Getty Images=写真)

「整骨院と接骨院で患者の治療をするには柔道整復師という国家資格が必要です。しかし痛みをとれる先生は全体の1割程度しかいない。残りの9割はただ身体を揉むだけで終わってしまっています。その先生が治せる先生なのかは施術を見ればすぐにわかってしまうものですが、一般の患者さんが見抜くことは難しいです。身体の調子は良くなった気ではいても、プラシーボ効果という可能性もおおいにあります。しかし、それでも症状が改善しているならば、それもまた治療のひとつと捉えることもできますが……」

■10年以上予約が埋まっている先生も存在

では、しっかりとした治療を受けるには名先生の元に並ぶ長蛇の列に加わるしかないのだろうか。3年待ち、なかには10年以上予約が埋まっている先生も存在する。

「何年も予約が取れない人気の先生は、やはり業界でも名を知られています。しかし、3年待ちの院で、3年間でいったい何人の患者さんを診ているのかという話です。私の整骨院では一日に100人以上の患者を診ることもある。なぜ痛むのか、どう治療すればよいのかがわかっていれば一人5分ほどの治療で済む場合もあるのです」(荒川氏)

何年も予約待ちになっている先生は治療費もそれだけ高くすることができる。3年待って3000円よりも、3年待って3万円のほうが患者としてはむしろ信用に値するのだ。これこそ、プラシーボ効果といってもいいだろう。また、ある匿名整体師は、知名度の高い先生の治療についてこう話す。

「私は勉強の一環で、テレビに出ている先生や、オリンピックに同行しているような先生、予約がほとんど取れない先生の治療を受けてきました。彼らに共通しているのは、見せ方や伝え方にインパクトがあるということです。技術に関しては、一定の水準以上ではありましたが、同業者から見ると、必ずしも人気のある先生のすべてに技術があるとは限らないと感じています」

さらに、健康番組のテレビプロデューサーと親交があるグラビアアイドルはこう話す。

「そのプロデューサーさんには、連日のように売り込みの電話が来ています。医師からの連絡もあれば、整骨院・接骨院・整体院の先生からの連絡もあります。先生たちはとにかくテレビに出たいようで、『無料にするのでぜひ一度治療を受けに来てください』という方もたくさんいます。私もプロデューサーさんの紹介でよくタダで施術をしてもらっています。そのとき会った先生がテレビに出たり、本を出したりしているケースはとても多いですね」

テレビ番組と名先生の関係について、前出の匿名整体師もこう見解を表す。

「この業界にとってテレビで紹介されることの影響は計り知れません。なぜなら、身体の痛みで悩んでいる人の多くは高齢者だからです。健康番組のプロデューサーに無料で治療を提供するというのは、オーディションと同じ意味合いではないかと思います。そこでテレビ映えすると思われれば採用されるのではないでしょうか」

■名先生が解説。本当に治してくれる人を見分ける方法

整骨院、接骨院ではリウマチ、パーキンソン病、バセドウ病などの重大な病気が疑われることもある。その場合、治療範囲内かどうかを見分け、大病院の整形外科などに紹介状を書くなどして患者を送ることになる。

「大病院にも人気の医師というのは存在します。しかし、私が患者を送るのは、もちろん専門分野を考慮したうえではありますが、患者さんの行きやすい場所にある病院です。正直、関節リウマチなどの自己免疫疾患、パーキンソン病などの難病はこれといった治療法がないのが現状です。病院へ移動し、検査で正確な診断をしてもらえることは、とても安心できることです。投薬治療も行われますが、実のところ効果はないけれど、服用することで気持ちが落ち着くのなら、それも効果のうちと考える医師も多いのです。しかし、ここで問題なのは不勉強な柔道整復師は、基礎解剖学や柔道整復学を無視し、ただ揉んでいるだけだということ。つまり、そういった重大な病気を見抜くことができないということです」(荒川氏)

9割の先生は痛みもとれない、病気も見抜けない。荒川氏も「本当に恐ろしい業界です」と危惧する。では、信用に値する先生はどうやって探せばよいのだろうか。

「第1にその院の見た目です。院前や院内が整理されていない、清潔に保たれていないところが多い。そこに気を使えない先生が、患者の悩みに真摯に向き合えるとは思えません。第2にその先生に10年以上のキャリアがあるか。第3に、何分いくらで治療するといった時間売りや回数券を売っていない院。回数券=マッサージだと考えていいでしょう。たくさん触るというのはそもそも治す目的と異なります。治療する側から見て、同じ部位を長い時間触るのは、診断技術がないと言っているのと同じです。

第4に説明です。初めての治療の際に一体痛みの原因は何なのか、これからどういった治療をしていくのか。自然治癒力をつけるまでの道筋をきちんと説明してくれる先生でないといけない。自分が一体何の治療をされているのかわからない状況であるならば、先生を代えるべきです。最後に人です。治してくれる先生を探すには、ツテをたどって口コミを頼りにするしかありません。実際にその治療によって痛みがとれているという患者の声を信じるしかありません。しかし、ネット上の口コミサイトはアテにならない。実際に良いレビューを先生自ら書き込んでいる院もあります」(荒川氏)

口コミサイトのレビューに関して、整体院のレビューサイトを制作しているというプログラマーもこう解説する。

■レビューは本当にサクラが多い

「口コミサイトのレビューは本当にサクラが多いですよ。自分で必死に書き込んでいる先生もいる。先生自身も何やってんだろうって思っているはずですが、それでもネットのレビューを見て来院する患者がいるので書くしかない。真面目に院のホームページのSEO対策に何十万もかけているところも多いですが、レビューに書き込んでいる先生がいる以上、それって業者にカモられているだけですよ」

この業界ではよく、「矯正王を決める!」といった趣旨の大会が開かれている。荒川氏によると「それも結局、ひとつのグループ企業の中でトップを決めているだけで、単に箔をつけるための口実にすぎません。しかし、そのグループ内では認められているということなので、参考にはなるでしょう」とのことだ。いい先生を見抜く方法も参考にしたいところではあるが、願わくは治せる先生が増えてほしい。

▼実力のある「神の手」を見分けるためには
・院前、院内は清潔に保たれているか
・その先生に10年以上のキャリアはあるか
・治療の時間売りや回数券売りを行っていないか
・自分がどんな治療を受けているのか把握できているか
・人のツテをたどり、ネットの口コミは信用するな

(國友 公司 写真=Getty Images)