くるみボタンがくるんでいるのは、優しさだ。

よく晴れた土曜日、浅草橋駅で下車した彼女は、くるみボタン専門店『MiSuZuYa(ミスズヤ)』への道を急いでいた。

手芸好きの彼女は、月が変わって最初の休日に決まって行きつけの手芸屋を巡ることにしている。ビーズ、リボン、生地、チャーム……そのラインナップの中に、「くるみボタン」が加わったのが2ヶ月ほど前のこと。

今日はどんな出会いがあるだろう、と胸を高鳴らせながら、彼女はお店の引き戸に手を掛けた。

胸がきゅっとなるかわいさに囲まれて

『MiSuZuYa』は、浅草橋や蔵前、御徒町駅からもほど近い鳥越のおかず横丁の中にあるくるみボタンの専門店。もともとは業者向けにくるみボタンの製造を行っていた会社の2代目である片岡さんが、「もっと多くの人にくるみボタンの魅力を伝えたい」という想いからオープンしたお店だ。

白を基調としたシンプル店内には、カラフルなくるみボタンが所狭しと並んでいる。金属の芯を生地でくるんで作られるくるみボタンは、生地の柄や種類によって同じつくりでもがらりと印象が変わるので、彼女は毎回必ず10個以上買って帰っている。

サイズやデザインも様々で、シャツのボタンとして楽しめる小ぶりなものから、そのままブローチとしてアレンジできそうな目を引く大きさのものまで、専門店ならではのバラエティ豊かな品揃えが魅力だ。

「どうやって使おうか」と考えずにはいられない、手芸好きにはたまらないラインナップなのだ。







お気に召すままアレンジを

いつものように、店内をじっくりと見て回る彼女。もう何度も足を運んでいるけれど、訪れる時の気分によってピンとくるボタンも違うので、新たな出会いを楽しめるのだ。

また、自分が持っている服や小物を思い浮かべながら、頭の中で色々なくるみボタンとの組み合わせを考える時間も楽しい。ぴったりのアレンジや組み合わせが見つかった時の喜びは、他のお店では味わえない特別な喜びがある。

2ヶ月前、彼女は購入した小さな無地のくるみボタンをシンプルなブラウスに合わせてみた。40色のラインナップの中から悩みに悩んで選んだスモーキーな淡いピンクのボタンは友人たちからも好評で、ボタンを付け替えるだけでなんてことはないブラウスが途端に宝物のように見えてしまうのだから不思議だ。

「これはあのカーディガンのボタンにしよう。こっちはブローチに加工して、こっちは……今は思いつかないけど、とりあえず買っちゃおう!」

彼女の手にしているカゴ代わりの丸い木の器の底は、あっという間に色とりどりのくるみボタンで埋め尽くされていく。







「お気に入り」をくるむ楽しさ

MiSuZuYaでは、店内にディスプレイされている生地から好きなものを選んでくるみボタン作りを500円で体験させてもらうことができ、作ったボタンはヘアゴムに仕立ててもらえる。

そういえば、結べるくらい後ろ髪が伸びてきたかもしれない。そう思い立った彼女は、赤と白の小花柄がかわいいネイビーの生地を選んでヘアゴムを作ることにした。

片岡さんに手順を説明してもらいながらぎゅっと生地を押し込んだら、すぐにハート型のくるみボタンがころんと出来上がる。はじめてでも綺麗にできたことが嬉しくて、彼女は「早速今日から使います」と笑顔になった。

生地を持ち込んでオリジナルのくるみボタンをオーダーすることもできるという。サイズや形も豊富なので、まさに世界に一つの自分だけのくるみボタンだ。







それは、持っているだけで嬉しいボタン

ハンドメイドのパーツとして色々なインスピレーションを得ることができるのもさることながら、プラスチックや金属にはない生地ならではのやわらかさや温かみを感じられるという点も、くるみボタンのもつ大きな魅力のひとつだ。

加えて、MiSuZuYaのくるみボタンはとにかく柄がかわいい。パンダや猫などの動物がモチーフになっているものや、お寿司がプリントされているものまで、そのバラエティはとても幅が広い。

中にはイラストが刺繍されているものもあり、こちらは店主の片岡さんがデザインしたイラストを機械で刺繍しているのだという。リスやハリネズミなど、ふんわりとしたタッチの刺繍が何とも愛くるしい。

彼女にとっては、優しい風合いのくるみボタンを集めて眺めているだけで、ころんとしたシルエットのボタンを指先でつつくだけで幸せなのだ。このMiSuZuYaのくるみボタンは、そんな幸せをきゅっとくるんでくれている。







店舗情報

MiSuZuYa

住所:東京都台東区鳥越1-6-6

アクセス:浅草橋駅 徒歩11分

電話番号:03-3864-1293

営業時間:13:00〜19:00

定休日:日・月・祝

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