とある8月の日曜日。麦わら帽子を被った彼女は、まるでタイムスリップしてしまったかのようなノスタルジーに溢れる谷中の街並みを歩いていた。

同じ東京なのに、何だか観光に来たみたい。そんな風に思いながら歩を進めていた彼女は、それからすぐに『ひいらぎ』と書かれた大きな木の看板を見つけた。

覗いてみると、和雑貨のようなものが並んでいるのが見える。窓ガラス越しでも伝わる涼やかな雰囲気に惹かれ、彼女はお店のドアを開いた。

やわらかくて美しい念珠との出会い

彼女が訪れている『ひいらぎ 』は、千駄木駅から徒歩6分ほどの場所にある念珠(数珠)の専門店。正式な葬儀で使えるのはもちろんのこと、従来のイメージとは全く違うおしゃれな念珠を扱っており、日々の身近なお守りとして念珠を側に置いておくというスタイルを提案しているお店だ。

彼女がまず目を奪われたのは、店内奥にディスプレイされている色とりどりの念珠たち。ひいらぎの念珠は房の絶妙な色合いや珠との合わせ方が特徴的で、つい手元に置いておきたくなるような可憐さ、美しさをたたえている。

スモーキーな薄いブルーの珠に桜色の房を合わせたものを間近で見つめながら、「こんなにおしゃれな数珠があるんだ!」と驚く彼女。ほかにも、淡水パールに鉄紺の房を合わせたものや、桃色のインカローズに青磁の房を合わせたものなども並んでおり、どれもふんわりとした柔らかい彩りが魅力的だ。

店内には念珠だけでなく日本各地の和工芸の品々も置かれていて、彼女のように雑貨店だと思って入店する人も少なくないのだという。実際にそうしたきっかけでひいらぎのことを知り、後日改めて念珠を買いに来るお客さんもいるのだと、代表の市原さんが教えてくれた。







想いのこもった自分だけのおまもりを

店内を見て回っていた彼女が続いて興味を引かれたのは、好きな石を選んでその場でブレスレットに仕立ててもらえる「おまもりブレス」。市原さん曰く、念珠よりもカジュアルに身につけられるおまもりとして、国内のお客さんだけでなく海外からの観光客にもとても人気があるのだという。

ひいらぎのおまもりブレスは、仏師さんが心願成就の想いを込めて手彫りで仕上げた「木珠」を必ずひとついれて作られる。形や色合いなどひとつひとつ味わいが違う木珠の中からピンときたものを直感で選び、まさに「自分だけ」のおまもりを仕立てることができるのだ。

おまもりブレスのベースのセット(\2,000/税抜)には木珠ひとつとクッション付きのボックス、それから仕立て代が含まれていて、そこに大小様々なサイズの石を組み合わせていく。石の種類によってひとつあたりの価格は異なるが、石のカテゴリー(恋愛運、仕事運、厄除など)を見ながら選んでみたり、誕生石や好きな色など感性に従って選んでみたり、自分だけの組み合わせを楽しめるのが嬉しい。







手に取るだけで、心をほっと落ち着けてくれる存在

ひいらぎの念珠に使われている房や珠は、既製品ではなく、密な信頼関係を築いた職人さんにオリジナルで作ってもらっているのだという。こだわりの詰まった上質な念珠は、女性用7種、男性3種の基本の10種のほか、房と珠の組み合わせやデザインを店頭で実際に試しながらオーダーすることもできる。

この日、1時間ほど悩んでおまもりブレスを仕立てた彼女は、自分で選んだ「自分だけのおまもり」を手元に置いておくということの意味が少しずつ分かり始めていた。

「いつか必要になるものだから、今度はお念珠をオーダーしに来ます」

帰り際、彼女がそう伝えると、市原さんがこう教えてくれる。

「今はお葬式に持っていくものというイメージの強いお念珠ですが、関西の方ではもともとはおまもりとして持ち歩くものだったんですよ。だから、ひいらぎでもお念珠は日々を共にする生活の道具として提案しているんです」

何だか心細いと感じるとき、悲しいことがあったとき。そっと側にいてくれるおまもりを手に、彼女はお店を後にした。







店舗情報

ひいらぎ

住所:東京都台東区谷中5−4−1

アクセス:千駄木駅 徒歩6分

電話番号:03-5809-0013

営業時間:10:00〜17:00

定休日:月・火

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