BTS(防弾少年団)/Photo by gettyimages

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「裏原ブーム」を思い返すと…

ファッションのトレンドには様々な要因が考えられるが、大きな要因として“時代の象徴”があげられる。いま、TWICEやBTS(防弾少年団)といった韓国発のいわゆるK-POPアイドルグループが若者の間で人気を集め、彼らが身に着けた服は売り切れが続出しているようだ。

BTS(防弾少年団)/Photo by gettyimages

トレンドの多くは若者の間から生まれるものだが、思い返してみてほしい。自分が若い頃はどうだっただろうか。テレビや雑誌で観たアイドルや人気俳優に憧れてファッションを真似したのではないかと思う。キムタクこと木村拓哉が人気絶頂だった90年代、10代、20代の男たちはこぞって彼の真似をしてロン毛にした。また、彼がドラマの中で頭に白いタオルを巻いていたことで、タオルを巻いた男性が街中にあふれたこともあった。

団塊世代の前後でいえば石原裕次郎だろうか。腕時計は利き手と反対の腕に着けるのが一般的だが、彼はいつも右手に腕時計をしていた。それを真似して今でも、右利きにもかかわらず右腕に腕時計を着けるという70代の男性に時々出会う。そういった10代のファッションアイコンが今はK-POPアイドルになっているからだといえる。

ファッションには2つの要素がある。一つは「ビジネス面」、もう一つは「ブーム」である。「ビジネス面」は売り上げ規模や生産枚数、販売枚数などを基調として語られる。通常のアパレル業界人は常にこの「ビジネス面」を考慮しながら企画製造販売を行っている。もう一つの「ブーム」は文字通りのブームである。

この2つが一致すればすさまじい売れ行きとなる。1998年に起きたユニクロのフリースブームはブームとしてもすごかったが、売り上げ規模もすごかった。また1997年に安室奈美恵とのタイアップで「アムラー」を生み出したバーバリーブルーレーベルも同様に2つが一致したものだ。

その一方で「ビジネス面」はたいしたことがないが、「ブーム」としては名高い場合もある。90年代後半の裏原宿ブランド群はそういう「ブーム」だったといえる。

2000年頃、売上高150億円くらいのメーカーが、裏原宿ブランドとコラボをしたことがあるが、その件について尋ねたところ「あのブランドの売上高は5億円くらいですから、うちとしてはまったく売上高を増やせるとは期待していません。ほんの一部の実験程度です」との答えが返ってきた。そういうものである。

韓国ブランドを好むのは“ファッション初心者”

では、なぜK-POPがこれほどまで日本に浸透しているのか。K-POPに限らず、もともと韓国の企業は海外への進出が得意だと言われている。

その根底にあるのは決して大きいとはいえない韓国国内市場の規模。韓国の人口は約5000万人で、GDPは日本の3分の1もない。音楽も同様で、韓国の音楽市場は14億400万ドルほどと推計されており、日本の6分の1程度しかない。この規模だと国内セールスだけではビジネスとして成り立たないといわれている。

そのために韓国企業が成長を遂げるには海外進出が必要であり、政府も後押しをした結果、海外進出のノウハウが蓄積されていったと言える。韓国企業は世界中に進出しているが、距離的にも近い日本では特にこれが顕著なのだ。

個人的には今回の韓国ファッションがビジネス規模はさほどではないブームだと映る。理由は普段接触しているアパレル企業や製造加工業者からはほとんど韓国ブランドが話題に上らないからだ。

彼らは同業他社の売れ行き情報に詳しく、そして過度の噂好きである。売り上げ規模や販売枚数が大きいブランドなら確実に噂となる。それがまったくないということはビジネス面では彼らにとってほとんど興味の対象とはならないからだ。

メディアや一部のインフルエンサーは注目をしているが、実際のところ、10代が全員韓国ファッション好きではない。私には高校生の娘が1人いるが、韓国ファッションにはまったく興味を示さない。またどんなに韓国好きでも30代、40代、50代の日本人女性は韓国ファッションを購買着用していない。

ファッション専門学校の講師をしている知人によると、専門学校の説明会に来る子の中には韓国ファッションファンがいるが、その子たちは「ファッション初心者」である場合が多いという。そしてその知人によると、入学時に韓国ファッション好きでも学年が進み知識が増えるごとに韓国ファッションを卒業し、興味は国内デザイナーズブランドや欧米モードブランドなどに移行していくという。

ファッションに興味を持ち始めたときに、一番目に付きやすいのが2019年はK-POPなのだと考えられる。そして、その時代によって対象は変わってきた。

大学生になると多くの人は交友関係が広がるが、中高生の時代はクラスや部活の交友関係がほぼすべてである。そして自分の属しているグループの嗜好に大きく左右される。韓流好きのグループに属していれば韓国ファッションに興味を持つだろうし、そうではないグループに属しているなら韓国ファッションには興味を持たない。そんなものである。

一過性のブームに過ぎない

ビジネス面で考えると、正確な統計は存在していないが、韓国ファッションブーム全体の売り上げ規模はそれほど大きくはなさそうだ。原宿に旗艦店を出した韓国の大手ファッションブランド「スタイルナンダ」の売上高はブランド全体で150億円程度。スタイルナンダはコスメのほうが人気なので衣料品だけだと100億もない。

原宿にある韓国ブランド「スタイルナンダ」旗艦店/Photo by gettyimages

また、私の知人に、日本に進出したうちの複数の韓国ファッションブランドのインターネット通販を手掛けている若者がいるが、その人は「個々のブランドの売上高は数億円レベルで、大きくても10数億円くらい。日本で展開されている韓国ブランドすべての売上高を合わせてもユニクロやジーユーの足元にも及ばないと思いますよ」と指摘している。

ときどき、メディアで「ファストファッションは終わった」と伝えられ始めたが、日本国内だけでもH&Mが500億円台、ZARAだと650億円前後の売り上げがある。ジーユーは海外店舗も含めた数字だが2000億円を超えている。この3ブランドだけでも3000数百億円の売上高があり、依然としてマス層の支持を得ている。

ファストファッションブランドのうち、H&MやZARAは欧米のトレンドを、ジーユーはそこに日本のトレンドをミックスして展開しているので幅広い年代に受け入れられて、マス層に支持を受けやすいと考えられる。一方の韓国ファッションは欧米のトレンドは加味されているものの、韓国内のトレンドを再現しているので、日本のマス層には取り入れられにくいと考えられる。

個人的には今の韓国ファッションは日本のバブル期のカジュアルトレンドとよく似ていると感じるが、あの当時の日本はファッションブームが過熱しており、極言すれば「目立とう精神」が旺盛だったが、あれから30年が経過し、日本の消費者の嗜好は成熟化したといえる。欧米先進国の日常ファッションはトラッドだったりシンプルだったりするといわれるが、これは成熟化が原因だといえ、日本人の嗜好もそれに近づきつつあるのではないかと思う。

その成熟化した大人しめなファッションに生まれたときから囲まれている若い世代は、韓国ファッションが斬新に映るのかもしれない。ファッションのトレンドは5年、10年ごとに変わっていくから、数年後には違うものが流行っているのではないだろうか。だから今の韓国ファッションは一過性のブームで永続的ではないと見ている。

とはいえ、すっかり落ち着いた裏原ファッションを好きな人は今も一定数いるし、ギャルの聖地といわれたファッションビル「109」もギャルたちが大人になるにつれてテイストが落ち着いてき、彼女らに向けたブランドも開発されている。

ファッションは支持する若者たちと一緒に変化していくもの。今後、韓国が成熟化してファッション嗜好が変化すれば、幅広い年代の日本人が購買する一つのジャンルとして確立される日が来るかもしれない。ただ、韓国の経済状況は今後、極度に悪化すると考えられるから、その時に芸能やファッションに熱心に取り組めるかどうかである。未来のことは正直わからない。