AIをビジネスに活用する際に欠かせないアプローチとは?(写真:Andy/iStock)

2019年6月に文部科学省が、国立大学の全学部(文系・理系を問わず)に対し、人工知能(AI)の活用に欠かせないデータサイエンスや数理に関する教育を課す方針をまとめました。今後ますます、身近なところにAIが当たり前のように存在する世界になることが予想されます。

来るべき未来に備えて、私たちは今何を学び、どのような行動をとればよいのでしょうか。『稼ぐAI──小さな会社でも今すぐ始められる「人工知能」導入の実践ステップ』の著者でもある中西氏が、AIをビジネスに活用する際に欠かせないアプローチ方法を解説します。

専門家だけでは、AIの利活用は推進できない

AIを活用するからといって、必ずしもAIの専門家でなくてはいけないということはありません。専門家であるがゆえに、技術面にばかり関心がいってしまい、肝心の「人工知能を何に適用すれば実際に役に立つのか」という視点が欠けてしまうこともあります。

本当の意味での人工知能の活用を社会(ビジネス)の中で具体化していくには、人工知能の技術面に強い専門家(データサイエンティスト)と、仕事上の課題(イシュー)から人工知能の使用目的を考えられるビジネスパーソンの両方が必要です。

人工知能の有効な活用方法を見出していくために欠かせないのが、「イシュー指向型」の考え方です。世相的にも、人工知能の利活用を真剣に考えるフェーズ(段階)になった今、人工知能の技術面を洗練化させる議論だけではなく、「どこでどのような人工知能を適用していくのか」という議論が、より重要となります。

ここでいう「イシュー指向型」とは、現場で解決しなければいけない本質的なイシューを明確にして見極め、その本質的な課題を起点にして物事を進めていく方法です。実は、AIの専門家たちも、AIを使って何か新しいことをしたいとウズウズしているのです。

ただ、単に「AIにできること」を形にしただけでは、実装(実際に装備し、使えるようにする)の段階で「実は意味がなかった」ということにもなりかねません。実際に、そのような残念な事例はたくさん存在します。だからこそ、ビジネスパーソンの視点からのアプローチが重要なのです。

ただ、AIに何ができるのかがまったくわからない状態では、どのようなイシューを考えたらいいのかもわからないだろうと思います。現代のAIが得意なことを一言で表すなら、「判断の自動化」です。

もっと細かく分けると、「分類」「回帰」「クラスタリング」「推論」「探索」という5つの自動化が得意です。それぞれについて簡単に説明すると、次のようになります。

・「分類」── 過去のデータから学習し判別する
・「回帰」── 過去のデータから目的となる数値を導き出す
・「クラスタリング」── 似たもの同士を複数のグループに分ける
・「推論」── 与えられた問題についての答えを導き出す
・「探索」── 条件に合ったものを提示する

AIがブームになり、「すごい」ということがだいぶ喧伝されましたので、万能なAIをイメージする人も多いかもしれません。しかしAIにできるのは、あくまでも「部分的な自動化」にすぎないのです。つまり、AIを活用して競争力を高めたいビジネスパーソンにとって重要なのは、「ビジネスシーンの中でどの部分をAIで自動化すればいいのか」というイシューを見つけることです。

キュウリを9つの等級に選別するAI

たとえば、AIの研究者の間ではよく知られた事例ですが、2016年ごろに、静岡県でキュウリ栽培農家を営む元システム開発者が独力で、AIの中でも最も注目されている「深層学習(ディープランニング)」による画像認識を使って、自動キュウリ仕分け機を試作しました。


実は、キュウリの仕分けは誰にでもできるものではありません。長さだけでなく、太さ、色艶などの質感、凹凸、キズがあるか、形のいびつさ、イボがあるかなど様々な要素で9段階に等級が決められており、この仕分けを行う作業は慣れた人にとっても、集中力が必要となる非常に負担の重い作業です。

このような仕分け作業を自動化することにより、本来の農家の仕事であるより美味しく満足のいく作物を栽培することに専念できるようになるというわけです。

みなさんも、AIを使って自動化できるところはないか、一度考えてみてはいかがでしょうか。解決したいイシューが定まれば、AIの利活用を具体化させたいと考えている専門家に相談にいくなどして、データサイエンティストと二人三脚で開発を進めていけばいいのです。