東京都と神奈川県で10店舗を展開する「シズラー」の名物は、「プレミアムサラダバー」だ。野菜に加え、フルーツ、スープ、パスタなどバラエティー豊かなメニューが、いくらでも食べ放題。サラダバー単品では2480円(税別)だが、果たして儲かるのか。経営コンサルタントの竹内謙礼氏が、店舗を訪れて考察した――。
シズラー東京国際フォーラム店店内(画像=ロイヤルホールディングス資料)

■「静岡県が大好きな人」ではなかった

「シズラーはご存じですよね?」

編集担当のI氏からそう言われた時、私はシズラーのことを「静岡県が大好きな人」と思っていた。安室奈美恵のファンを“アムラー”と呼び、マヨネーズが好きな人を“マヨラー”と呼ぶのなら、“シズラー”は静岡県が好きな人に決まっている。お茶やシラス丼を本気で愛している人たちのことをシズラーと呼ぶのだろう。

「あぁ、シズラーね」
「今、すごい人気なんですよ」

そう言われて「へー」と納得した。世界遺産に登録された富士山の影響もあるのだろう。訪日客も増えているので外国人のシズラーが増えているのかもしれない。

「ぜひ、シズラーを取材してほしいんです」
なるほど。そうなると静岡への出張となりますね」
「……竹内さん」
「なんでしょうか?」
「何かとてつもない大きな勘違いをしていませんか?」

実はI氏が言っている「シズラー」とは、英語表記で「Sizzler」。サラダバーと肉料理のビュッフェ形式のレストランの名称である。1958年にカリフォルニアで創業。世界5カ国で展開している。日本のシズラーは1991年にロイヤルが東京西新宿にオープンした。旬な野菜をはじめ、フルーツ、パスタなど約70種類の料理が食べられる“プレミアムサラダバー”が人気を呼び、今では東京や神奈川に10店舗を構える。

■「シズラー東京国際フォーラム店」を訪れた

流通ニュース(「シズラー/東京国際フォーラムに客席数210席のアジア最大店舗」2019年4月3日)によると、シズラーの業績は2012年を100%にした場合、2018年既存店伸び率は29.4%増。I氏が言う通り人気急上昇中であることは間違いないようだ。

千葉県のど田舎に住んでいることもあって、シズラーが東京ではやっていることをまったく知らなかった。静岡への出張がなくなったことは残念だったが、東京のはやりのレストランに行けるのなら結果オーライというところもあり、今回の取材を快諾することにした。

訪れたのは有楽町駅前にある「シズラー東京国際フォーラム店」。4月5日にオープンしたばかりのお店で店舗面積は686平方メートル、席数は210席を構える。金曜日の夜ということもあって店内はほぼ満席。10分ぐらいの待ち時間の後、広い店内の一番奥の席に通された。周囲を見渡すと8割は若い女性客。“サラダバー”というコンテンツがいかに丸の内の女性たちに支持されているのかがよく分かる。

メニュー構成は至ってシンプルだ。サラダバーのみの注文ができて料金は税別2480円。これにステーキなどのグリル料理を加えて3000〜4500円の価格帯となる。ソフトドリンクは飲み放題だが酒類は別料金。ランチタイムや祝祭日、子どもやシニアなどによって価格差はあるものの、ディナーであれば2500円ぐらいのサラダバーに、500〜1500円の追加料金で肉料理が一緒に食べられるビュッフェスタイルになっている。

シズラー東京国際フォーラム店の入口(画像=ロイヤルホールディングス資料)

■「シズラーは利益がちゃんと取れているのか……」

早速、サラダバーのコーナーに行ってみた。“プレミアムサラダバー”とアピールするだけあってメニューは豊富。サラダはもちろん、果物、スープをはじめ野菜を使った洋風総菜、カレー、グラタンなどがズラリと並ぶ。先述した流通ニュースによると、ポット数は55とボリュームたっぷり。東京都内で新規就農した生産者からも野菜を仕入れており、量だけではなく素材のプレミアム感もしっかり演出されている。

ステーキやハンバーグ、チキンメニューなどのグリル料理も充実している。実際にステーキを注文させてもらったが、しっかりした味わいで申し分なく、このレベルの肉料理がサラダバーにプラス1000円ほどで食べられるのであれば、コスパは相当良いと思えた。

しかし、ここで私は、シズラーは利益がちゃんと取れているのかという疑問を持った。ビュッフェ形式のレストラン全体に言えることだが、“食べ放題”の仕組みを取り入れてしまうと1人の客で2人前、3人前と食事をされてしまうリスクが出てきてしまう。特にサラダバーの場合、野菜や果物は食べられる期間が短い上に長期保存が利かない。季節によっては高騰する野菜もある。このような食材を大量に扱うビュッフェは本当に利益を出すことができるのだろうか。

■人件費をかなり抑えられているのではないか

そう思って店内を見回すと、客の回転率が良いことに気が付いた。席に座って料理が出てくることを待つ必要がなく、すぐに立ちあがってサラダバーに駆け寄っていく。一般的な飲食店に比べて客が店に滞在する時間は短いといえた。

もうひとつの特徴はホールスタッフが少人数という点である。客が自分で皿を持って自分の席に持って行くのでホールスタッフの人数が最小限で済む。皿に料理を盛り付けるスタッフもいらないし、コックも事前に決められた料理を作るだけなので厨房の中は相当効率化されているはずだ。ましてサラダや果物など、切って出すだけの料理であれば、腕のある料理人を使わなくてもいいので人件費はかなり抑えられていると思われる。

もうひとつ、サラダバーで野菜を取りながら「なるほど」と思ったことがある。野菜はすべて切ったり調理したりして出されているので、野菜の形が崩れていても問題がない。つまり、自分たちがスーパーで購入しているキレイな野菜よりも安く仕入れることができているのではないだろうか。

また、一般的なレストランと違い決められた料理を作らなくていいので、野菜の仕入れ相場に合わせてメニューを変更することができるのもサラダバーの利点と言える。おそらく今日と明日ではサラダバーに並ぶ野菜や料理は違うのだろう。そう考えれば「食べられる期間が短い」「野菜は高い」という先入観は大きな間違いと言える。価格が変動する野菜だからこそ、ビュッフェ形式のほうが相場に合わせて原価率を柔軟に変えることができるのである。

■ディナーで2500円程度という絶妙な価格設定

これは食後に調べて分かったことだが、日本でシズラーを運営しているのはアールアンドケーフードサービスという会社である。この会社はファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を経営するロイヤルの子会社であり、シェイキーズなどのさまざまな外食産業を手掛けている。

これだけの規模の外食チェーンになると、親会社も含めて野菜などの食材を一括で大量に仕入れることができるはずである。対して規模の小さいレストランだと多品種少量の仕入れを余儀なくされるので、仕入価格をコントロールすることが難しい。また、大量に野菜を使用するのであれば契約している農家も複数あるはずなので、鮮度の高い野菜を効率よく仕入れることも可能だ。

絶妙なのはシズラーの価格設定である。ディナーで2500円という価格設定は、庶民的な飲食店での夕飯と比較しても割高感がある。食事だけならランチで1000円未満、ディナーで1500円ぐらいが相場ではないだろうか。その中でシズラーが2500円という価格で集客できるのは、ビュッフェ形式という“食べ放題”の魅力があるからだろう。客のほうも「1人前以上の食事ができる」という期待感があるからこそ、この割高感に納得してお金を支払っていると言える。

■客の人数が多いほど利益が出るビジネスモデル

しかも、仮に客が1人前以上の食事をしたとしても、シズラーのビジネスモデルでは赤字になることはない。先述したようにビュッフェ形式は調理スタッフやホールスタッフを最小限にすることができるので、人件費が相当抑えられている。つまり、来店する客の人数が多くなればなるほど利益が出やすいビジネスモデルになっているのだ。

例えば、一般的なレストランで1500円の定食で原価が500円だとする。そうすると一人の客で利益を1000円出すことができて、2人で2000円、3人で3000円というもうけを生み出すことになる。対してビュッフェ形式で1人前2500円のレストランの場合、仮に1人が500円の原価のものを2人前食べたとしても原価は1000円にしか届かず、利益は1500円取れることになる。これが2人で3人前の食事をしたとしても、5000円の料金を受け取って、原価500円×3人前で1500円しか原価がかからないので、結果、3500円の利益を得ることになる。

このようにビュッフェ形式は一般的なレストランと違って料金設定を高くすることができることに加えて、人件費などの経費を最小限に済ますことができるビジネスモデルなので得られる利益が大きくなるのである。

一般的なレストランの場合の原価と利益(画像=竹内謙礼)
ビュッフェ形式のレストランの場合の原価と利益(画像=竹内謙礼)

■チーズトーストでおなかがいっぱいになる

シズラーの場合、グリル料理をコックが作るので一般的なビュッフェよりも人件費はかかっている。しかし、ビュッフェとグリル料理を別料金にしたことで利益はしっかり取れているのだろう。しかも、肉料理は焼くだけなので他の料理よりも手間がかからない。あれやこれやとさまざまな料理を出すホテルのビュッフェレストランよりも、人件費は安く済んでいると思われる。

さらにシズラーはサラダバーに特化したことで利益率をさらに高めていると言える。サラダをメインにすれば訪れるのは女性客が中心となる。胃袋は必然的に男性よりも小さくなるので食べ放題といっても限界はすぐにやってくる。少なくとも食欲旺盛な子供が喜ぶ焼き肉食べ放題のお店に比べれば、サラダの食べ放題のほうが料金以上に食事を食べられてしまうリスクは抑えられる。そこに女性が大好きなグラタンやパスタなどの料理が加われば、満腹になる速度はよりいっそう早くなる。

「チーズトースト」(画像=ロイヤルホールディングス資料)

秀逸なのは食事前にスタッフが案内するチーズトーストだ。「当店で一番おすすめの料理なので、ぜひ食べてください」と勧められるので、いや応なしに注文してしまう。しかも、このチーズトーストがお世辞抜きで絶品! 最初は1人前で頼んでしまったが、あまりにもおいしかったので追加してしまったぐらいだった。

結果、シズラーがお勧めするチーズトーストが、一番おなかが膨れてしまう料理だったこともあって、次に食べる料理の量は抑えられてしまった。これがシズラーの戦略なのかどうかは定かではないが、できるだけ早くおなかがいっぱいになる料理を提示することは、回転率を重視するビュッフェ形式のレストランにとっては有効な策のように思えた。

■飽きられてしまうことへの懸念

しかし、実際に足を運んでみて、シズラーのビジネスモデルにまったく死角がないとは言えないところもあった。

まず、ビュッフェ形式のビジネスモデルは差別化が難しいという点である。ビュッフェ形式はさまざまな料理を提供できる反面、手の込んだ料理を提供することが難しい。少しでも個性的な料理を出してしまうと客から避けられてしまい、大きな食材のロスが出てしまう。これがホテルのビュッフェであれば季節や企画に応じた魚料理やスイーツなどを提供することができるが、“サラダバー&グリル”とコンセプトを固定してしまったシズラーの場合、メニューのバリエーションが狭められ、飽きられてしまうリスクが出てきてしまう。

■「食べ放題離れ」が起きると厳しくなる

最近ではさまざまな料理を少量で食べられるフードコートのような飲食店や、小さなお店が集まった横丁スタイルのお店も登場している。“好きな料理を選んで食べる”というのはビュッフェ形式に限ったわけではない。少子高齢化で「そこまでおなかいっぱいに食べたくない」という客層は増えており、ビュッフェ形式の割高感に気づいた消費者が“食べ放題離れ”を引き起こせば、ビジネスモデルそのものが厳しくなっていくことも考えられる。

実際、東京国際フォーラム店で食事をさせてもらったのだが、席に案内されたまま放置されてしまい、そのままサラダバーに行っていいのか、それとも何か注文をしてから行くべきなのか分からず、しばらく待たされる形になってしまった。店員を呼ぼうとしたが店内が広すぎて、なかなかスタッフに気づいてもらえない。

グリル料理も味には満足したものの、混んでいることもあって料理が出てくるのに30分近くかかり、チーズトーストも「5分後にお持ちします」と言われたのに、結局、出てきたのはグリル料理と同時だった。オープンして2カ月弱なのでまだスタッフが不慣れだという事情はあるかもしれないが、もう少しサービスの質は向上させたほうがいいと思った。

■サービス面が手薄になってしまうのが弱点

ビュッフェは高い利益率を出すビジネスモデルではあるが、人件費を抑えた仕組みのために、どうしてもサービス面は手薄になってしまうところがある。おいしい料理を出して、利益率の高いビジネスモデルだとしても、最終的には「もう一度、あの店に行ってみたい」という思いが生まれなければ飲食店の商売は成立しない。そのような不満もあって少し辛口のリポートになってしまったところもあるが、シズラーのサラダバーと肉料理は絶品であることは保証する。

今後、取引先に「シズラーって知っている?」と言われたときに、私みたいに「静岡県が好きな人ですか?」とバカなことを言って恥をかきたなくなければ、ぜひ、東京に出張で行った際はシズラーに立ち寄ってもらいたい。その際はおいしすぎるチーズトーストの食べ過ぎにはご注意を。

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竹内 謙礼(たけうち・けんれい)
有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。

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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼)