鹿野:実際に現地に行くと、アルゼンチンではメッシってどんな存在なんですか?
 
川上:もちろん唯一無二ですよ。でも、その分だけプレッシャーも半端がない。前回アルゼンチンに行ったときは、ちょうどロシア・ワールドカップ予選の終盤で、アルゼンチンは本選行きが危うい状況だったんです。それで、ブエノスアイレスのボンボネーラ(ボカの本拠地)でペルーとやると。だからもう町中大騒ぎで、夕方にパブに行ったんですよ。でも、入場時のメッシのプレッシャーに押しつぶされたような表情を見て、みんな「この試合、もうダメだ……」ってなってて(笑)。実際、この試合のメッシはまったく良いところがなくて、スコアレスドローでした。アルゼンチンの人たちは入場時の表情でメッシの調子がわかるのかよって、ビックリしましたね(笑)。
 
――その5日後の最終節でメッシはエクアドル相手にハットトリックを決め、アルゼンチンをロシア・ワールドカップに導いたんですよね。
 
川上:そうなんですよ! しかもアウェーで。その時にちょっと思ったのは、ブラジルとかアルゼンチンみたいな強国だと、ホームのプレッシャーが日本では想像できないくらいに強いんだなと。だからブラジル開催の今大会、メッシは意外にやるかもですね(笑)。
 
鹿野:普通に考えて、メッシってもう代表引退してプレッシャーも試合数も減らしたいって思ってるはずだし、代表戦に出る意味もそんなにないと思うんです。サッカー史上最高の選手だってほとんどの人が認めているわけで。でも、「代表チームのメッシはメッシじゃない」って批判を覆すために、その意地だけでまだ戦っていると気がしますよね。許せないんでしょうね、代表での自分が彼のプライドの中で。
 

川上:だからある意味で、マラドーナの呪縛との戦いですよね。マラドーナはワールドカップを獲ったけど、メッシは獲れていない。ブエノスアイレスで行った肉料理屋さんの壁にマラドーナのサインがあったんですけど、その下にはメッシのもありました。
 
鹿野:上下差があるんですね(笑)。ブラジル・ワールドカップに行った時にアルゼンチン対オランダ(準決勝)のチケットを、もう手段を選ばずにダフ屋で買おうと思ったんです。そしたらダフ屋のおっちゃんが、「このチケットは、実はメッシの親父から譲り受けたものだ」とか言ってきて(笑)。
 
川上:えっ、そんなことありえます?(笑)。VIP席ではなく?
 
鹿野:違うの(笑)。でも「このチケットにはメッシの親父の魂が入ってるからオススメだぜ」みたいなこと言ってくるんです。明らかに怪しいじゃないですか? 全部のチケットをそう言って売ってそうだし。さすがに買わなかったですけどね、法外な値段だったし。でも、その口説き文句で買う人がいるんだろうなと。だからメッシの偉大さや影響力を予想外の場面で知りました(笑)。
 
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取材・文:白鳥大知(ワールドサッカーダイジェスト編集部)
 
【プロフィール】
川上つよし/1967年生まれ、東京都出身。今年でデビュー30周年を迎えたモンスターバンド「東京スカパラダイスオーケストラ」のベーシスト。2011年からは「川上つよしと彼のムードメイカーズ」としても活動する。サッカー好きとして知られ、U−23チームを観るためにJ3リーグにも通うほどFC東京をこよなく愛している。ライヴツアーで世界中を訪れ、各地でサッカーに触れる。今夏のスカパラは8月12日に「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」にも出演決定。
 
 
鹿野淳/1964年生まれ、東京都出身・神奈川県育ち。ロッキング・オン社で『BUZZ』や『ROCKIN'ON JAPAN』の編集長を歴任し、2004年に独立。2006年1月にサッカー雑誌『STAR soccer』を創刊し(現在は休刊)、2007年3月には音楽雑誌『MUSICA(ムジカ)』を立ち上げる。現在は編集/執筆活動のほかテレビやラジオでも活躍し、2014年からは音楽フェスティバル『VIVA LA ROCK』のプロデュースも行っている。音楽誌時代にFAカップ決勝を現地観戦してサッカーにハマり、現在は日本代表のパブリックビューイングイベントなどでパーソナリティーも務める。ツイッター(@sikappe)やインスタグラム(sikappe)も好評。